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53.暴走

 影から大鎌と短剣を創り出したラヴレスは、短剣の方を僕に投げて寄越す。

 

「一応渡しておくわ。かつてのお友達と戦いたくないと言うならそれでもいいけれど」


 携帯していた武器やアイテムは捕われたときにすべて没収されている。

 手ぶらの状態の僕に武器を渡したと言うことは、言外に試されているのだろう。

 

「彼は今でも友人だ。だけどそれとこれは話が別だ。当事者が見て見ぬふりをするつもりは無い」


「好きにするといいさ。でもアイテムを使えないあーちゃんじゃ数にも入らないぜ」


「だろうね。勝機があるとすれば、モブさんには僕を殺せないけど、僕は君を殺せるってことくらいか」


「なるほど、それはたしかに大きなハンデだ。だが他の奴らも同じだと思うなよ?」


 そう言うと同時に走り出すセブンと、応じるように大鎌で飛び掛かるラヴレス。

 二人の刃は一呼吸の間鍔ぜり合った後、今度は目にもとまらぬ速度で斬り合い、火花が飛び交う。

 

 ステータスを隠蔽しているセブンの戦いを見るのは初めてだが、剣の腕前としてはマスタークラスと見て取れる。

 重さを感じさせない大鎌の連撃をいなしながらも、時折スキルを混ぜてくる。

 高位スキルこそ使っていないが、基本に忠実に、そして的確に相手の急所を突いてくる手練れの動きだった。

 

 逆にラヴレスはトリッキーな動きで対応する。

 大鎌と言う本来戦闘に向かない武器を扱いながらも、踊るように軽やかに振り回し、時に地面からの影棘で予想外の角度からの奇襲を仕掛けている。

 

 一歩も譲らない打ち合いに埒が明かないと判断したのか、セブンは一度後退して態勢を立て直す。

 

「大技はロゼが封じたと聞いてたが、それでも一筋縄にはいかないな。さすがは神の使徒、大ボスの一人ってとこか」


「アナタ、VR慣れしているわね。これだけ動くと大抵は現実との乖離でVR酔いを起こすものなのだけれど……」


「ダイレクトセンサリーゲームはさんざんやってきたもんでな。おかげで現実の身体の方に違和感を感じるレベルだ」


 軽口を叩きながらもお互い踏み込む隙を伺っている。

 戦うと決めた以上僕もラヴレスに加勢するべきなのだが、正面から挑んでも返り討ちに合うどころか、逆にラヴレスの邪魔になってしまいそうだ。

 

「正々堂々、と言いたいとこだが遊びのつもりもないんでね。悪いがこっちの有利にやらせてもらうぜ。インベントリオープン! 装備、ショートボウ!」


 そう叫ぶとセブンの剣はノイズのように掻き消え、次の瞬間には流麗な弓へと変化していた。

 

「インベントリ? まさか自由に装備の持ち換えが出来るのか?」


「これが俺の初期(イニシャル)スキルだ。無限ストレージも兼ねてるから矢だって無限に湧いて出て来るぜ。普通のゲームなら当たり前の機能だが、この世界でなら十分チートスキルだろ?」


 確かに現実寄りのアポカリプスではアイテムはそのまま質量と重量があり、直に持ち歩くのには限度がある。

 それに引き換え無限ストレージがあればポーションは使い放題。

 特に矢の残数が生命線の弓兵にはこれ以上相性の良いスキルは無いだろう。

 

 言葉通り一度に四本の矢を取り出し、一射にてすべてを放つ。

 さらには文字通り矢継ぎ早に、絶え間なく掃射される矢の雨の前に、影の盾で防ぐことしか出来ない。

 

 攻撃がラヴレスに集中している隙に、僕は回り込んでセブンへと走り寄る。

 

「それで連携のつもりかよ? あんま円卓をなめんじゃねーぞ!」


 矢を射る手は止めずにストレージを開き、中から二匹の狼型モンスターが現れる。

 

「それくらいの相手なら死なねーだろ? あのクソガキを始末するまで相手してな」


 ガーデン周囲にはいくらでもいる低レベルモンスターだが、アイテムの無い僕では倒すのにも一苦労する。


「先生……! いま援護に行きます!」


「ダメだ、君はミゼルを守ることに徹しろ」


 走り寄って来ようとするくるりを制止すると、一瞬その背後にゆらめくシルエットが見えた。

 

「後ろだ! くるり!」


「くく、も……もうおせーよ!」


 ハイディングを解いた十月が、今度はくるりを狙って姿を現した。

 首筋に例の経験値を奪った注射針を受けるが、くるりは何事もなったようにミゼルを守りながら距離を取ろうとする。

 

「あ、あれ……? な、なんだおまえ。血が名が流れてないのか……?」


 幸いと言うべきか、不死種であるくるりからは血液は採取できなかったらしい。

 だがセブンとモンスターに足止めを食らっている僕たちはくるりの援護には向かえない。

 

「邪魔をするな十月(とげつ)! 俺以外があーちゃんの仲間に手を出すことは許さない!」


 セブンの警告にもかかわらず、十月はナイフを取り出しくるりとミゼルに迫る。

 

「て、てめえの言うことなんか聞くかよバーカ……。じ、実験に使えないなら用は無い……。こ、殺しちまうか」


「このゲテモノヤローが。くるり、テメーは逃げろ! 顎だけでも動けばこんなヤローはオレ様だけで十分だ!」


 くるりを逃がそうとするミゼルの言葉には耳を貸さず、腕に巻いた包帯を解くべく手をかける。

 解き放たれた右腕は初めて見た時のように肥大し、黒く鋭い爪を持って十月へと襲い掛かる。

 

「私は……守られるために先生に付いて来たわけじゃない! 任された役目くらいまっとうして見せます!」


 モンスターと軽々と握りつぶす怪腕は、しかし十月の身体をすり抜けるだけで一切の手応えを示さない。

 そしてくるりの背後に瞬間移動のように現れると、その手に持った凶刃は容赦なく彼女の背中を切り裂いた。

 

「くるり!」


 なんとかモンスターの一匹をいなした僕は、全速力で倒れたまま動かないくるりの元へと駆け寄る。

 傍に立っていた十月は動きを止めたまま動かない。

 

 これはラグアーマーを使用している兆候だ。

 僕と奴の距離を逆算し、お互いの位置が交わったであろう瞬間を見越して一気に前方に飛んで転がる。

 次の瞬間、予想したように十月は僕の居た位置に現れ、結果的に振るわれたナイフを躱すことに成功した。

 

「お、おまえぇぇ! 避けてんじゃねえよおおお!!」


 思った通り、ラグアーマーというスキルは厄介だが、こいつ自身の戦闘能力は大したレベルではない。

 動きさえ予想出来れば僕でも対処できる。

 しかし今はくるりの救助が先決だ。

 

 倒れたくるりに駆け寄りすぐに傷口を確認するが、斬られた痕はあれど出血も無いため、これがどれだけの重症なのか判断できない。

 ポーションは無いうえくるりには使えないため、対処療法もできない。

 

 どうする……?

 このまま逃げるにしても、十月はともかくセブンの能力を見るに逃げ切れる可能性は薄い。

 なにより、人質となった亜人種たちをまだ助けられていない。

 

 次の一手を決めあぐねていると、突然くるりの傷口から黒い肉が溢れ、急成長する樹木のように天へと伸び始めた。

 

「……なんだ、これは?」


 ナイフに切られたことによって、くるりの胴体部分の包帯は完全に断ち切られていた。

 まさか、封印されていたものが暴走しているのか?

 

 僕以外のその場にいた者たちも一瞬手を止め、くるりの異常に気を取られる。

 天を突くように成長した黒い樹木は、先端から裂けるように幾重にも別れ、まるで巨大な蜘蛛のようにくるりの本体を持ち上げ動き出した。

 

「……おい、やべーぞおにーさん。あれは常人の手に負える化け物じゃねえ」


 次の瞬間、脚のように伸びた肉樹木は周囲の獲物を捕食するように枝を伸ばした。

 僕は間一髪でその攻撃を躱す。

 矢を連射していたセブンも瞬時に盾に持ち替え、ラヴレスも影でその攻撃を防いだが、ラグアーマーの軌道が間に合わなかった十月だけがその枝に貫かれて即死した。

 

「ミゼルは!?」


「大丈夫だ……。どうやらこの枝は動くものを獲物と判断して襲うようだぜ……」


 空間を埋め尽くし、獲物を探すように肉の枝が蠢く。

 

 ミゼルの言葉を聞いた全員が下手にその場を動けず、混沌としかけた戦場は一片、死と隣り合わせの静寂へと変わった。


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