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47.同盟と嘘

「使徒って噂のゲームマスターじゃ~ん。ロゼはリアルなイケメン執事って聞いてたのに、さっきゅんショック~」


「これがあんたの情報ソースって訳か、アインス?」


 エンドレスの正体は円卓のメンバーにも知らされていなかったのか、セブンたちから非難の声を受けるアインス。

 しかしそんなことは些細なことだとばかりに笑って誤魔化している。

 

「ごめんごめん、隠してたのは謝るけど、ちゃーんと情報は全て共有しているから安心してくれ。ほら、ボクだけゲームマスターが付いてるなんてやっぱり顰蹙買っちゃうじゃない?」


 そんな彼らをよそに、エンドレスは静かにラヴレスへと話しかけ続ける。

 

(わたくし)の目的はただ一つ。創造主のご意向に沿い、新たな神を誕生させることです。その為にもっとも可能性が高いと思われるアインス様にご助力願っただけの事」


「ふん、なにが創造主のご意向よ。アナタには自分の意志というものが無いのかしら? それに選んだのがそこの陰険そうなニヤケ面とは、見た目通りその目は節穴のようね」


「アインス様は賢明でありながら他人を動かす扇動力もお持ちだ。貴女こそ選ぶべきパートナーを間違えたのでは? もし容姿で選んだのでしたら今すぐ考え直すことをお勧めしますよ」


 各々が勝手に言い争いを始め、収拾がつかなくなっている。

 だがある意味丁度いい。

 

 この隙に僕はお互いの現状を精査し、なんとか会談を成功へ導く道筋を探る。

 しかしインペリアルの目的がシンギュラリティの誕生、すなわちそのためのNPCの生贄を欲している以上、決して僕と意見の合意を見ることは無い。

 

 ならば提案通り、一度彼らと手を組み、キングダムの国力を増強するまでの休戦協定を結ぶべきだろうか。

 しかし亜人種を襲わなくなったとして、次に彼らは別の種族に狙いを定めるだけだろう。

 スミスたち曰く、魔人種は亜人を上回る戦闘力を持っていることからそう簡単に全滅することは無いだろうが、それでも犠牲が出ると分かっている選択を選んでしまってもいいものだろうか。

 

 そこである一つの可能性が頭をもたげる。

 僕は周囲に悟られないように、くるりにフレンドチャットを飛ばす。

 

(くるり、君の知る限りでいい。不死種の生態と戦力について教えてくれないか?)


(あの、私は渋谷に居る時はほとんど研究所から出たことが無いので詳しくはわかりませんけど、お父様が言うには、厳密に不死種と言えるのは真祖と呼ばれる五人だけしかいないそうです……)


 渋谷は主に不死種の占有地だが、それだけの領土をたった五人だけで守り切れるものなのだろうか。

 

(ほかにもグールやスケルトンみたいな眷族はたくさんいますけど、私みたいに喋れる人はいないと思います。もっと本能に従って動く、どちらかと言うとモンスターみたいな感じです)


 顔を突き合わせていないからか、普段より饒舌に説明してくれるくるりのおかげで、不死種と言う存在の概要が見えてきた。

 意思のないモンスターならば、この際犠牲も厭わない。

 

(率直に言ってこの街の人間と戦争して勝てると思うかい?)


(まず無理です。先生の作ったポーション、あれは私たちには猛毒です。雨の様に浴びせかけられるだけで全滅すると思います。ただ、真祖が介入しなければの話ですけど……)


(真祖が介入するとどうなるんだい?)


(多分上位の眷族を作って対応すると思います。リッチやヴァンパイアとかならポーションくらいではびくともしません)

 

 AIを持つNPCは五人のみ。それ以外の戦力はモンスターに近いBOT。

 だが戦力的には十分プレイヤーと渡り合える。

 

 つまり上手くやればNPCに犠牲を出さず、インペリアルに独り相撲を取らせることが出来るかもしれない。


「……アインス、苦肉の決断だが君の提案を受け入れようと思う。実際問題僕一人で全ての原住民をまとめ上げるのは不可能だ。ならばせめて見知った者たちだけでも優先して助けたい」


 もっともらしい理由を付けて承諾の意志を伝える。

 僕が嘘を吐いていると気付いたミゼルは一瞬鼻をひくつかせるも黙って寝たふりを続けている。

 

 セブンたちを宥めていたアインスは僕の言葉を聞いて、満面の笑みでこちらに振り向いた。

 

「へえ、正直意外だね。君はもう少し理想主義的な人間だと思っていたけど、案外現実が見えているようだ。うんうん、なんだか君との距離がぐっと近づいた気がするねえ。人間本当に大事なのは『自分にとって大事』な人間だけだ。言葉を交わして情が移った彼女たちを助けたいって君の気持ち、今ならしっかりと理解できるとも」


 僕の返答がお気に召したのか、アインスは嬉しそうに饒舌に語る。

 

「条件としては亜人領への侵略行為は止めて欲しい。僕の街には家族と生き別れている者も多い。下手に手を出せば憤る彼らを抑えきれなくなる」


「ああ、了解したとも。とは言えクレイドルを満たすために戦争を止めるわけにはいかない。亜人以外との戦争は許容してもらう必要があるけど大丈夫かい?」


「……本当なら今すぐ君を殺して止めたい気分だよ。けれどそんなことをしても無意味なのは分かってる。許容はしないが、見なかったふりくらいはしてやるさ」


 憎々し気な顔でアインスを睨みつける。

 僕と心理状態を共有しているラブレスは、表面上不愉快そうにねめつけながら心の中で僕の似合わない演技に大爆笑している。

 

 この二人に嘘は通用しない。

 下手な反応をしなかっただけ上出来だと言えよう。

 問題はくるりだ。

 

「となると、次に攻め入るのは渋谷か新宿……。さて、重要になるのはどっちの拠点かな?」


「それなら渋谷をお勧めする。不死種は耐久力に優れるけど、ポーションが劇薬になるそうだ。上手く使えば亜人よりも楽に攻略できるだろう」


「せ、先生! なんで、そんなこと…………」


 くるりが何故不死種領である渋谷を出てスミスたちと行動を共にしているのかは知らないが、やはり故郷が攻め入られると言うのは黙っていられないのだろう。

 それも信用していたであろう僕の裏切りによって。

 

 だが根が素直な彼女に本当のことを言ってしまっては態度に出かねない。

 逆に彼女の僕への不信感がアインスからの信用に繋がるため、今は悲しませても彼女に作戦を伝えるわけにはいかない。

 

「君が渋谷を攻めている間に僕は亜人領の統一を目指す。そうすれば仮に不死種と魔人種が手を組んだとしても、港区と千代田を抑えているインペリアルと、亜人領である文京区と豊島区を手に入れた僕たちキングダムで囲い込める」


「先生…………」


 泣きそうな顔で僕を見るくるりに、少し心が痛む。

 あとで誤解は解くにしても、信頼を裏切ると言うのは存外堪えるものだな。

 

「うん、悪くない作戦だ。やっぱり君のような頭脳派がいると助かるなあ。いっそ円卓に入る気はないかい? 丁度二席目と十二席目が空いてるんだけどどうだい?」


「お断りだ」


「はあ~、グリム君にも断られてばっかりだし、僕って案外人望無いのかなぁ?」


 実力は知らないがこのアインスと言う男の軽薄な態度には、一切の信念というものが感じられない。

 これでは有能でも信頼を得られるのは難しいだろう。

 

「アインスを心から信用してるのなんて~、根暗くんとサイコパスドクターくらいじゃないかな~?」


「…………」


「ええー、ボクってこんなに有能で真面目なのにショックだなー」


 セブンとさっきゅんからの冷たい視線に、まったくショックではなさそうに返すアインス。

 

「……改めて同盟の内容を確認しよう。今後この同盟はクレイドルからシンギュラリティであるラスボスが誕生するまで継続される。同盟期間中、インペリアルは亜人領への一切の侵攻を禁止する。問題無ければ復唱してくれ」


「おっけーおっけー! 同盟はラスボスの誕生まで。その間インペリアルのメンバーは防衛以外での亜人への攻撃行動は一切の行わない。同時にキングダムは亜人以外への侵攻に関しては邪魔しない。これでいいかい?」


 その言葉を確認すると、僕はミゼルへと視線をやる。

 アインスの言葉は理解できなくとも、そこに嘘があれば見破れるはずだ。

 

「……嘘だな」


 断言するミゼルからアインスへと視線を移す。

 まさかこの期に及んで嘘を吐くとは正直予想外だった。

 睨みつけるとアインスは興味深そうに思案している。

 

「うーん、少なくとも『嘘』は吐いてないんだけどなぁ。なるほど、言葉ではなく騙す意図があるかどうかが判定の基準になっているわけか」


「『インペリアルは~』か。つまり種族単位でMPKでも起こすつもりだったか?」


「いやいや、ホントに亜人たちに手を出すつもりは無いんだよ。ただネームレス君、君に自由に動き回られるのは少しばかり不確定要素が多すぎる……さっきゅん」


 アインスが合図をすると同時に、僕とくるり、そしてミゼルの足元に別空間へのゲートが開き、不意を突かれた僕らは対応する間もなくその穴へと落下する。


 落下の衝撃で死なないよう加減してくれたのか、すぐに地面へと着地し、しかし手の届かない上空に空いた穴からアインスが告げてくる。

 

「僕は全てのプレイヤーの情報をリアルも含めて把握している。その中でネームレス君、君だけがその素性を未だに掴めないでいる。さらにはNPCのAIを進化させ、一大勢力を築きつつありさえする」


 落下したくるりたちの安否を確認して再びアインスに向き直るが、すでに穴は閉じかけていた。

 

「ボクには君がただのプレイヤーだとは思えない。ラヴレス以外にも、恐らく製作者の意図が絡んだ存在だと認識してるのさ。だから君にはしばらくの間、そのダンジョンでのんびり楽しんで欲しい。ああ、もし飽きたらログアウトしてもいいんだよ。……出来るものなら、ね」



 そこまで言って穴は完全に閉じてしまう。

 穴が消えると同時にそこから差し込んでいた光も閉ざされ、僕らはどことも知れぬ暗闇のダンジョンとやらに取り残された。


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