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41.日常と変化

「インペリアルのギルドマスターにして、最強のプレイヤー集団『円卓』の第一席。レベル231、クラス錬金術師。性格は一見軽薄だがその実腹黒い……か」

 

「そうそう、一言で言うとチャラ男。でも裏ではチンピラにお金渡して気に入らない相手を苛め抜くっていうそんな陰険な感じです」


「…………グリム、君ちょっと私情入ってないかい?」


 それにしても円卓のトップが錬金術師とは意外だった。

 だがギルドマスターとして政治を行う分には、最新技術の独占や拠点防衛力のアドバンテージを考えれば最適とも言える。

 注目すべきはレベルだ。戦闘面では不遇と言われる錬金術師のクラスでこの高レベルに達するには、一体どのようなプレイスタイルを歩めばいいのだろうか。

 

 少なくともプレイ初期から僕が全力でレベリングを行ったとしても、決して辿り着けるとは思えない領域だ。

 考えられるとすれば一つ。

 

「固有スキル持ち、か」


「ですねー。それも初期プレイヤーが持ってるって噂の、システムに干渉するレベルのチートスキルですね」


 昨日愛無が言っていた、全規制解除フルキャンセラレーションに並ぶスキルか。

 当の僕ですら知らなかったスキルをグリムが知っているのは意外だったが、僕より顔も広そうだし不思議ではないか。

 

「ちなみに詳細は?」


「もち知りません。って言うか普通内緒にしますよ。そんなヤバいスキル持ってるって知られたら、チーターとして誰からも信用無くしちゃいますもん」


「もっともだ。じゃあ次は他の円卓の情報を知りたいんだけど…………うん、まあ今日はこの辺にしようか?」


 先ほどからグリムは質問に答えながらも、頬杖をついて空になったグラスをつまらなさそうに指で弾いている。

 

「おお、さすが先輩! 私の気持ちをしっかり把握してますね」


「そりゃあ、そんなにあからさまな態度を取られたらね。気分転換に街でも見て周るかい?」


「いいんですか!?」


「ネコミミ、ちゃんと着けてね」


 嫌そうな顔をしながらネコミミで変装したグリムを連れて街へと向かうことにする。

 使用人も含め十人以上が暮らす屋敷の一階に降りると、中央フロアでは更紗がエプロンを付けて掃除をしていた。

 

「お疲れ様ですお二人とも。これからお出かけですか?」


「うん、更紗も一緒にどうだい?」


「是非にと言いたいところですけど、これからお夕食の支度がありますので」


 戦闘や政に参加できない更紗は、自ら進んで屋敷の家事一切を取り仕切っている。

 もともと家庭的な性分だったのかその仕事ぶりは非常に手際よく、屋敷に勤めに来てくれる人たちからも侍従長として尊敬されているほどだ。

 

「簡単なお弁当でもご用意しましょうか?」


「いや、すぐ戻るから大丈夫だよ。今日も夕飯楽しみにしてるね」


「はい、腕によりをかけてご用意しますね」


 エプロンを摘まんで、まるでメイドの様に送り出してくれる更紗。

 するとグリムは少し驚いたようにその姿を見つめている。

 

「……炎王さん、死んじゃったんですよね? なのに以前会った時より落ち着いてて、まるで成長したように見えます」


「実際にしてるんだよ。NPCたちも僕たち同様、常に成長を続けてるんだ」




◇◇◇


 屋敷を出て簡素な庭を抜けるとすぐ街の広場に出る。

 街の外縁ではまだまだ拡張工事が進んでいるが、ここ中央広場付近はすでに日常の光景を見せ始めている。

 

「おや、ネム殿。お出かけですかな?」


 ぶらぶらと散策しているとスミスを連れた飛炎と顔を合わせた。

 上機嫌な飛炎とは対照に、何故かスミスは疲れ切ったように肩を落としている。

 

「なに、先日の里の件でちょいと説教をしておりました。……ほれ」


 せっつかれるように前に出されたスミスは、気まずそうに帽子で顔を隠しながら僕に謝罪した。

 特に謝られるような覚えは無いのだが。

 

「……いや、更紗のお嬢ちゃんを里に返すように促したのは俺だからな。まさか教会が手を回してるとは思ってなかったんだ。お前さん達を危険な目に合わせたのは悪かったと思ってる」


 ああ、そのことか。

 実際に決めたのは僕だし、結果的に更紗の気持ちにも一段落付けられたので謝る必要は無いのだが、飛炎はそれで納得しなかったらしい。

 

「言っておきますがネム殿、儂はこの小僧を責めるつもりは一切ありませんぞ。そんな資格も無いですしな。だがこやつは昔から頭が切れる癖に、どうにも爪の甘いところがある。キングダムの指揮権を振るう者としては、もう一歩上の段階に進んで欲しいと思ったわけですよ」


「あーはいはい、解ってるよ。俺の指示ミス一つで多くの奴が死ぬ。だから俺は常に最善の選択を出来るようにならなくちゃいけねぇ」


 炎王の幼馴染らしいスミスは幼少時から飛炎とも既知の仲らしい。

 きっと炎王と一緒に無茶をやって怒られていたんだろう。その様子を想像すると何とも微笑ましい。

 

「それではネム殿、儂らはこれで失礼します。質の良い山菜が取れましたのでな、早く孫に届けてやらねば」


 そう言って快活に笑いながら屋敷へと戻っていく。

 飛炎にはの政治面でスミスの代わりを務めてもらっているが、あの様子なら上手くやってくれそうだ。

 もともとスミスは政は専門じゃなかったし、今後軍事面に専念してくれれば負担も減るだろう。

 

 するとグリムは今度は僕と去っていく二人を見比べながら何やら複雑そうな表情をしている。

 

「なんか、仲いいんですね?」


「うん? まあ二人にはいろいろお世話になってるからね。仲は悪くないし、仲間だと思ってるよ」


「……仲間ですか。うーん、私だって先輩の仲間のつもりだったんだけどなー」


「僕もいつもそう思ってるけど?」


「あー、そういうことじゃないんですけどねー。まあぼっち卒業したならそれはいいことですよね」


 なにやら自分に言い聞かせるようにそう呟く彼女を連れて、再び散策に戻る。

 

 

 

◇◇◇

 

「おーいネム! こんなところで何をやっている?」


「お疲れアネモネ。今日も特訓頑張ってきたみたいだね」


 今度はいつもと違う訓練用の皮鎧を泥だらけにしたアネモネと出会う。

 彼女は鬼人の里の一件以来、自身の能力を開花させるべく、日々レベリングに勤しんでいる。

 

「今日は2レベルも上がったぞ。貴様も閉じこもってばかりいないで少しは身体を動かせ。そうだ、今から打ち合い稽古をするとしよう。私の上達ぶりに目を見張るといい!」


 そういって僕を引っ張るアネモネの手を、グリムは無言で叩き落とした。

 

「……なんのつもりだ異界人? ネムの温情で街に置いてやってる恩を忘れたのか?」


「エルフってもっと高貴な種族だと思ってたんですけどねー。嫌がってる男を無理矢理連れて行こうとするなんて、随分と無粋なんですね?」


 お互い何を言っているかは解らないはずだが、それでも挑発されているのは察したらしい。

 僕を挟んで、睨みつけるアネモネと小馬鹿にしたように笑うグリムが、一触即発の視線を交わし合っている。

 

「私とネムは共に命を預けて戦場を駆けた戦友だ! 貴様如きにとやかく言われる筋合いはない!」

「私は先輩の愛弟子ですよ。二番弟子さんはもうちょっとレベルを上げて出直したらどうですか?」


 言葉が通じないにもかかわらず、二人はお互いの主張を一方的に言い合っている。

 もともとアネモネは異界人への憎しみを持ってはいたが、それだけでなく生真面目な彼女は飄々とした雰囲気のグリムとは相性が悪いらしい。

 

 でも似たタイプのスミスとは上手くやっているみたいだし、お互い意思疎通出来て時間を掛けられれば仲良くなれそうな気もするのだが。

 

「グリム、アネモネを挑発するのはよせ」


「え!? なんで私の方が怒られるんですか? いくらNPC好きだからってプレイヤー差別ですか!?」


「違うよ……。アネモネは騎士だから、挑発には剣で応えるとか言いかねない。それに先に手を出したのはグリムだろう?」


「……わかりましたよ。えーと、アネモネさんだっけ、今のは私が悪かったわ」


 一応自覚はあったのか素直に頭を下げて謝意を示すグリムに、アネモネは勝ち誇ったようにドヤ顔を決めている。

 

「日酔ったか? 矜持を貫けんなら最初から喧嘩を売るような真似は止めておくことだな」


「アネモネ、謝ってる相手にその態度は聖職者としてどうかと思うよ」


「うっ、確かにその通りだ……。一体どうしたのだ私は、こんな下らないことでムキになってしまうとは」


 冷静になったのかグリムに合わせてお辞儀を返す。

 よかった、ここでNPCとプレイヤーの憎しみの連鎖を一つ断ち切ることが出来たぞ。

 そんな自己満足に浸ってみる。

 

「もうそろそろ日も暮れる。早く帰って夕飯までにシャワーでも浴びたほうがいいんじゃないかい?」


「うむ、そうだな。今日は良いワイルドボアの肉が採れたんだ。二人とも夕食を楽しみにしているといい」


 機嫌を直したアネモネは訓練の疲れを感じさせない足取りで屋敷へと戻っていく。

 

「あのエルフの人と仲いいんですか?」


 そう見えるのだろうか?

 確かに最初は完全に毛嫌いされていたが、鬼人の里以降はかなり打ち解けたと思う。口調こそ変わらないが、その声音には棘が無くなったと感じる。

 やはり一緒に死地を越えたというのは友情が芽生えやすいのだろうか。

 

「はあ、私もうかうかしてらんないなー……」


「……そうだね。アネモネがグリムのレベルに追いつくのもそう遠くない話かもね」


「先輩のそういう解ってて誤魔化すところ。嫌いじゃないし割と好きです」


「ありがとう。僕もグリムの気遣い出来るところ好きだよ」


 僕らの関係はいつもこんな感じだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 一通り街を案内して屋敷に戻ると、門外れに見知った姿を見つける。

 日の落ちかけた薄暗い影で、ミゼルとくるりが何やらひそひそ話をしているようだった。

 

 聞かれたく無い話だろうかとスルーしようとしたところ、くるりが先に僕を見つけて手を振っている。

 

「っと、じゃあオレ様は退散するわ。くるり、例の件頼んだぜ」


 そのまま門を飛び越え、窓越しに自室へと戻っていくミゼル。

 初めて皆に紹介したとき、ミゼルはくるりに興味を示したような反応をしていたのを思い出す

 

 『なーんか覚えのある匂いがすんだよな、でも臭すぎてイマイチなんの匂いか思い出せねーな』

 

 その後臭いと言われて落ち込んでるくるりをフォローするのにとても苦労した。

 僕や他の者にはわからないが、ミゼルは独自の嗅覚を持っているらしく、そこから何かを感じ取っているようだった。

 

「あ、の……こんばんわ先生。あの、そちらの方が先生のお友達の方……ですか?」


「先生!? これは私の後輩キャラをも食いかねないまさかの教え子キャラか!?」


「…………え?」


「え?」


「え? ……あ、あの、その、キャラと言うのは一体……?」


 ちょっと待ってくれ。今完全に会話が成り立っていなかっただろうか?


「くるり、今グリムが言ったことが解ったのか?」


「あの、いえ……キャラを食うとかはちょっと意味が…………」


「先輩……どういうことですか? 私以外にもプレイヤーがいるなんて聞いてませんよ?」


 やはり間違いなくお互いの言葉が通じている。

 どういうことだ? 今日の様子を見てもグリムは他のNPCと会話は出来ていなかったはずだ。

 そうなると、くるりの方が全規制解除フルキャンセラレーションのスキルが発動していると言うのだろうか。

 

「くるり、大事な話がある。悪いけど今から僕の部屋に来てくれ」


「はえっ!? せ、先生の、お、おお、お部屋にですか!?」


「ちょっ!? 何考えてるんですか先輩! こんな夜中に女子を部屋に誘って大事な話なんて! 本気でぶち殺しますよ!?」


 この場合くるりの方に要因があるのは明らかだ。

 会話できるのはグリムだけなのか、それともすべてのプレイヤーと可能なのか。

 

 システムバグかくるりだけの特性なのか、この現象の原因を解き明かせれば、プレイヤーとNPCの関係に大きな変化をもたらすことが出来るかもしれない。

 

 僕は柄にもなく興奮しているのを自覚しながら、とまどうくるりを自室まで連れて行った。


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