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24.建国宣言

 文京区後楽園近くにある村で待っていたのは僕たちの暗い雰囲気とは真逆の、お祭りのような大歓迎だった。

 離れた場所に避難していた者たちと前線で戦っていた総勢百人に及ぶ村人たちは、僕らの姿を見つけると一斉に駆け寄ってくる。

 

「おいみんな! 英雄様方のご帰還だぞ!」

 

 スミスが事前に僕たちが敵の大将首を仕留めたことを伝えていたので、それが敵を敗退させたことを誰もが喜び、讃えていた。

 ある者は初めての勝利に酔い、ある者は無事生き残ったことに安堵し、ある者は家族の仇を討てたと涙していた。

 

 スミスは奮戦した部下たちを讃え、アネモネは避難させていた女子供たちに囲まれ無事を喜ばれている。

 僕に対してはあんなだが、意外にも周りからは信頼されているらしい。

 ……いや、心配されているの間違いだろうか?

 

 取り残された僕と更紗の下にも、武器作りを頼んでおいたドワーフの男と子供たちが集まってくる。

 

「ネム殿! あんたの言ってた通り、この銛で突いて振り回してやったら奴ら抵抗も出来ずに倒れおったわ! 今回の戦いで皆自信を取り戻したし、これもネム殿たちレジスタンスのおかげじゃわい!」


「兄ちゃんが敵の大将倒したんだろ!? すっげー! やっぱ鬼族は強えーんだな!」


 どうやら仮面の角と更紗が一緒に居ることで、僕も鬼族と思っているらしい少年たちが寄ってくる。

 更紗も亜人の少女たちに囲まれ、「怖くなかった?」「お兄さんすごく強いんだね」などと声をかけられ戸惑っているようだ。

 

 だが突然、そんなお祭り状態の雰囲気を窘めるように村の広場一体を黒い影が覆いつくす。

 突然ドーム状に村を覆った闇に村人たちはどよめき始めるが、そんな不安が走る周囲に、よく通る声が厳かに語り掛ける。

 

「我が愛し子たち、怯える必要は無いわ」


 その声と共にドームの一角が割れ、そこから差し込む陽光を浴びながらラヴレスが芝居がかった調子で姿を現した。

 

「私の名はラヴレス。この世界に命をもたらし、今まさに脅かされている貴方がたの命を守らんとする創造神の使徒である」


 皆一様にその神々しい光景に飲まれ、ラヴレスに見入っている。

 僕はと言えば、あまりにも普段と違うその言葉遣いに「こいつは何をトチ狂ったのか?」と訝し気な視線を送るしかできないでいる。

 

「あれが創造神の使徒様……」

「私見たことあるわ……聖都の神殿に建っていた石造と同じお姿だもの」

「ついに創造神様が我らの願いを聞き届け、使徒様を遣わしてくださったのか……」


 その姿を本物のラヴレスだと認めた人々は一様に膝を折り、祈るように拝んでいる。

 気付けば立っているのは僕だけになっていた。

 

「まずはこれまで手助けできなかった不手際を謝罪しましょう。私はこれまである者の手によって死の世界に幽閉されていたのです」


 あの小憎らしい笑みを絶やさないラヴレスが、申し訳なさそうに村人たちに謝罪をしている。

 格式張っているがその言葉に偽りが無いことは知っているため、逆にどう反応していいものかよくわからず僕も混乱している。

 思わず辛辣な突っ込みを入れたくなってしまうが、流石にそう言うことが出来る雰囲気でもなく、僕はラヴレスの行動をただ見守るしかない。

 

「ですがもう安心です。今この時より、この村は生命の使徒ラヴレスの庇護に置かれ、何者にも侵されない聖域となったことをお約束しましょう」


 その言葉に村人たちの喜びと安堵の声が漏れ聞こえる。

 

「そして宣言します。この村を起点とし、いずれは反目し合うすべての種をまとめ上げ、異界からの侵略者たちに対抗しうる、新たな独立国家になると」


 さすがにその言葉にはスミスとアネモネも面食らっていた。

 この女、以前僕が提案した内容をそのままパクって勝手に宣言しやがった。

 

「あ、あのラヴレス様……ご威光を疑うわけではありませんが、さすがに独立となれば他領主たちが黙っていないのでは……?」


 アネモネは恐る恐るラヴレスに意見を申し出る。その気持ちはよくわかる。

 たしかに最初に提案したのは僕だが、あくまで国家として対等に交渉できる地盤が出来てからの話だ。

 こんな人口百人程度の村がいきなり独立宣言しても、いたずらに敵を増やしてあっという間に潰されるだけだ。

 

「ふふ、安心なさい敬虔なる信徒アネモネ。その為に私はある者をこの地に遣わしています。皆の者もよくお聞きなさい。創造神でも竜種でもなく、虐げられる民に仕え、そのために戦う唯一にして絶対の勇者。その名は……革命の使徒【ネームレス】」


 宣言と同時に、ラヴレスを照らしていた陽光はスポットライトのように僕を照らし、どうやったのか着けていた仮面は割れて素顔をさらけ出していた。

 

「い、異界人!?」


 僕の正体を知った村人たちからは動揺が溢れ、それが非難へと変わる前にラヴレスは彼らを黙らせた。

 ちなみに先ほどから心の中でラヴレスへの罵声を浴びせているが、聞こえているはずの本人は完全に無視を決め込んでいる。

 

「静粛に! この者は異界人を征伐するために創造神が遣わした神の国の使者です。これまでにも数々の者を救い、異界人を滅ぼしてきました。その力は今回の戦いで皆が得た勝利でも示されたはずです」


 確かに戦闘による死者は出ず、傷を負った者も僕の開発したエクスポーションで全回復している。

 その事実を前に誰もが異を唱えられずにいるところに、ラヴレスは畳みかけるように宣言する。

 

「そしてこの者を王として新たな国を作るのです。その国の名は『キングダム』。そこは竜種も魔人種も不死種も亜人種も、全てが平等に自由に生きられる。そして狭いこの世界の殻を破り、いずれは神の世界すら統一することになるでしょう!」


 ――――こいつは今何と言った? まさかこの世界だけじゃ飽き足らず、現実世界にまで何かを仕掛けるつもりなのか?

 

 だがそんな僕の疑念を吹き飛ばすように、村人たちからは歓声が上がり始める。

 

「平等な世界! もう戦闘狂の魔人種に襲われずに済むのか!?」

「もう不死種たちに家族の亡骸を捧げずに済むのね!」

「土地が広がれば畑を拡張することもできる! ほかの種族と争う必要も無くなるぞ!」

「神様の世界ってどんなところかしら? 伝承だと空飛ぶ船や天に届くお城があるらしいけど……」


 そんな様々な希望に満ちた声が辺りを埋め尽くすと、最後にラヴレスは一言宣言する。

 

「そのためには皆の信仰と力が必要です。私と……このネームレスの名の下に、この世界に生きるすべての力を集め、異界からの侵略者共を殲滅するのです!」


 この宣言の下、村人たちの志気は最高潮に達し、皆が声を合わせて叫びだす。

 

「「この世界に自由を! 侵略者は殲滅を! 二人の使徒様の祝福あれ!!」」


 勝利の熱に酔っていた村人たちは新たな希望に浮かれ、狂気に取り付かれたように一致団結している。

 

 してやられてしまった。僕の意思などお構いなしに、完全にラヴレスの思惑通りの話を進められている。

 この僕が一国の王だと? そんなことできるはずが…………いや、出来るかもしれない。

 

 少なくとも、現実世界の僕はそれに見合うだけの()()()()()()()()のではないか?

 一度死んでから現実世界の記憶が一部欠如しているせいか、その根拠がはっきりとしないが何故か出来るという自身だけがあった。

 だが果たしてそんな曖昧なものでこの流れに身を委ねてしまっていいものだのだろうか?


 狂気する村人たちから一歩離れ、呆然と状況を眺めているアネモネとスミスに目線をやるが、二人はあいまいな表情で視線を逸らす。

 つい先ほど僕の拷問を目にした二人は、この状況を受け入れるべきなのかどうか悩んでいるのだろう。


 だが隣に立っていた更紗だけが、僕の戸惑いにはっきりと言葉をくれた。


「悩んでおいでなのですね。ラヴレス様の発言がネム様のご意志でないことは更紗にも解ります。ネム様は目の前に困っている人がいれば助けてしまうお優しい方ですが、自ら世界を変えようと考えるほど独善的ではないと思います」


 まるで僕の全てを理解しているかのように語るが、それに違和感を感じない程、更紗の言葉は核心を突いていた。

 優しく諭すように告げる言葉の一つ一つを、母親の思いを受け取るように聞き入る。


「ですが更紗はネム様ならこの世界を変えてくれると信じています。これはとと様の願いだけではなく、とと様より少しだけ長くネム様を見てきた更紗個人の希望でもあります」


 そうして幼子とは思えない真摯な視線で見つめてくる更紗に、僕は言葉を返す。


「僕は自分が死なないと分かっているからこそ、君と炎王を命懸けで守ろうとしたんだ。でも自分も死ぬと理解した以上、今度は君たちを見捨てるかもしれないよ?」


「出来ませんよ。こう見えても更紗は人を見る目だけは自信があるのです」


 そうか。ならその言葉に賭けてみよう。


 そうして僕は村人たちの前で、高らかに小さな独立国家『キングダム』の建国を宣言し、この世界の全てに届けと言わんばかりの歓声を持って迎えられることになった。


ここまでお読みいただき本当に有難うございます!

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