19.ポーション作成講座
「き、汚いところですけど……ど。どうぞ」
採取した素材を持って僕たちは制服少女の住まいに訪れていた。
彼女の家はレジスタンスの拠点の外れにある地下室で、錬金工房を兼ねているとのことだった。
素材を採取したはいいが、ポーションを生成するには最低限の設備も必要になるのでこれは嬉しい展開だった。
「この娘はレジスタンスのメンバーの『くるり』だ。優秀な錬金術師でな、前線には出さないが武器やアイテム、日用品など必要なものの製造を担当してもらっている」
「あ……の、くっ……くるりです。さっきはその、助けてくれて……う、嬉しかったです」
優秀と言われたのが照れるのか、それとも人見知りなのか、指先をもじもじさせながら上目遣いに挨拶をしてくる。
前線には出ないではなく、出さないというあたり戦うのは好きでは無いのかもしれない。
先ほどモンスターを握りつぶした能力を見るに戦えないわけではないが、上手く能力を扱いきれていないというのもあるのだろうか。
「ネムです。昨日レジスタンスに入ったばかりなんだ。よろしく、くるり」
握手のために手を差し出すと、くるりはその手を見つめながら固まっている。
少しなれなれしすぎただろうか、同じ錬金術師であり好戦的ではないという事で多少親近感を感じていたので少しショックだ。
「あ、あの……さっきの私の包帯の中、見ましたよね? き……気持ち、悪くないんですか……?」
なるほどそういう理由か。
たしかに初見は驚くだろうが気持ち悪がるようなものでもない。
これでも一年以上この世界で暮らしているんだ。そういう種族がいても何も驚くことは無いだろう。
僕は被っていた仮面を取ると角も長い耳も無い素顔をくるりに見せる。
「あっ、おいネム!」
「僕は君たちの言う異界人って奴だけど、……気持ち悪いかい?」
くるりは答えの代わりにおずおずと握手を交わすことで僕の言葉を否定してくれた。
思った通り優しい子のようだ。
「まったく……まあくるりなら誰かに話すことも無いだろうが」
「それにしてもいい工房だね。規模こそ小さいが分離機や加工窯なんかかなり本格的なものが揃ってる。専門はなんだい? ゴーレムでは無いようだけど」
「あ、く、薬と魔法式機関で……特に今は万能傷薬の開発を試してるんですけど……なかなか上手くいかなくて…………」
試薬品であろう試験官に入った液体は翠色に濁っている。
なるほどかなり良い線をいっている。
これなら傷の瞬間回復は出来なくとも、肉体の活性を促して自然治癒力を高めることくらいは出来るだろう。
「……有機水銀はあるかい? あと魔素をたっぷり含んだ蒸留水も」
「え……? あ、ありますけど、水銀は毒性が…………」
「あらゆるものは毒であり、毒無きものなど存在しない。僕の世界の偉大な錬金術師の言葉だよ」
そう言って勝手にそこいらの機材を使って材料を錬成していく。
大量生産には一括で処理してくれる錬金装置を作るべきなのだが、まずは調合のレシピを見てもらう必要があるだろう。
十数分ほど僕の作業を黙って見守っていた二人に完成したエクスポーションを見せてみる。
「黄金色……! す、すごい……薬の黄化なんて誰も成功したことないのに……」
「都合よくさっきモンスターに付けられた傷がある」
自分の肩口の傷に出来上がったポーションを振りかけるとみるみるうちに傷跡が再生し消えていく。
「なっ、なんだそれは!? かすり傷とは言え魔法も使わず瞬間再生したぞ!」
「服用すればもっと効果は上がるよ。これがあれば村の負傷者たちもすぐに回復できるだろう」
ビーカーのポーションを瓶に小分けにしてアネモネに渡す。
「すぐに大量生産の準備をする。アネモネは先に戻って重傷者から治してやってくれ」
「……感謝する。だが勘違いするなよ! これはあくまで皆を助けてくれた礼だ! 私自身はまだ貴様を認めたわけではないからな!」
捨て台詞を残しながらもポーションを大事に抱えて村へ走って行く。
彼女らしいと言えばらしいが、きちんと礼を言うあたり真剣に村人たちの事を想っているのだろう。
「あっ、あの! わ……私にも手伝わせてください! 私も皆さんの役に立ちたいんです!」
「もちろんだよ。さっき見たレシピ通りにお願い。僕はその間に量産用の錬金装置を作っておこう」
余っているらしい蒸留器や分離機を錬成スキルで加工し、材料を入れるだけで自動生成してくれる装置を組み上げていく。
そのとき見慣れない機材を一つ見つけた。
魔法道具か何かだろうか、興味を引かれ軽く触れてみると突然光を放ち、僕の身体を包んだかと思うと弾けるように掻き消えた。
「……なんだ、今のは?」
「あの……そ、それは魔法効果を除去する道具……です。発光色からすると、先生はなにか……呪術的な効果を受けていたんじゃないかと…………」
「せん……せい?」
まさか僕の事を言っているのだろうか?
さすがにその呼ばれ方はなんともむず痒いのだが。
だが今は僕にかけられていたという呪術効果だ。
ステータスウィンドウを開いてログを確認すると確かに直前まで弱体効果が付与されていたことが分かった。
「マーキング状態か……アネモネじゃないな。ならばこんなことをするのはあの男しか心当たりは無い」
リスポーンした僕が逃げ出さないよう、戦闘中にスカーレットが付与したものと考えて間違いない。
一度敗北したことで、今度は戦力をそろえて確実に僕に報復に来るつもりなのだろう。
無限コンティニューか。
ゲームとしては当然のシステムなのだが、自分がその適用外になるとこれほど理不尽に感じる設定も無いな。
「だけど次は負けるつもりは無い。見ててくれ炎王……。二度と君の仲間に手を出そうなどとと思えないほどの絶望を味わってもらおう」
そうして近いうちに来るだろう襲撃者たちを完膚なきまでに叩きのめすべく準備を進めることにした。
ネムの作るポーションはプレイヤーに流通しているものより高品質のエクスポーションです。




