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 その自分そっくりの黒猫の姿を見たとき、僕は、『自分が何者であって、そして、なぜ自分が瞳という女の子と出会ったのか』、その理由がわかった気がした。

 ……黒猫。

 それは不吉な存在。

 そう。

 僕はきっと、(そしてあの僕を迎えにきたもう一匹の黒猫もきっと)世間でいう、『死神』と呼ばれる存在なのだ。


 黒猫は緑色の二つの瞳でじっと僕のことをドアの隙間のところから見つめていた。

 僕はその黒猫をじっと見つめ返した。

 すると黒猫はそのドアの隙間から、廊下の暗闇に、まるでその闇の中に溶けるようにして、移動した。

 僕にはその黒猫の行動がまるで僕に向かって「ついてこい」と言っているように見えた。

 僕はその黒猫について行こうとした。

 その瞬間、背後に奇妙な視線を感じて、僕は背後を振り返った。

 するとそこには窓があった。

 視線はその窓の向こう側から感じられた。

 僕がその視線を追っていくと、そこには病院の庭に立っている一本の枯れた柳の木があった。柳の木は雪の降る暗い夜の中から、じっと僕のことを窓越しに見つめていた。

 その柳の木を見て、「ああ、なるほど。僕を呼んでいるのは『あなた』なんですね」と今、起こっている不思議な現象の正体を理解した。

 僕は最後に眠っている瞳の顔を見つめた。

 死体のような顔ではなく、『生きている人間の顔』をしている瞳の顔。

 そんな瞳に向かって僕は「……さようなら」と心の中でつぶやいた。

 僕は猫になって、人間の言葉を失ってしまったことをこのとき、少しだけ後悔した。

(……でも、人生に完璧はないのだ。これくらいの後悔はむしろ、幸いと捉えなければいけないだろう)

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