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6 ハーレム



 嫌な音が耳に入った。びちゃっと、頬に生暖かい水滴が飛んできて、生きた心地がしない。


「大丈夫ぅ?マモマモ。」

「な、ナイスタイミング、リュウコ・・・」

 ムカデを足で踏みつぶしたリュウコが、俺に向けて手を振っている。俺を拘束していたムカデは、身体の半分を踏みつぶされたことによって俺を捕まえている余裕がなくなり、俺を介抱した。俺は落下するが、そこにもふっとした何かがクッションになって、俺を柔らかく包み込む。


「はぁはぁ、わ、私もいます、守様!」

「アリガトー。」

 俺をキャッチしたモフモフは、もちろんウサミしかいない。ギラギラと血走った目を俺に向けるウサミが間近にいて、俺は心臓が止まるかと思った。


「2人共、悪かったな。その、俺が先走ったせいで・・・」

「いいよぉ、生きていたから~」

「どんどん先走ってください!」

 全く気にしていない2人だが、気にならないわけがない。先走っていき、罠にはまり穴に落ちて、魔物に捕まって・・・穴があったら入りたい。いや、もう穴に入った後だけど。


「俺、情けないよな・・・こんな・・・プチっと、リュウコがプチっとできるような、弱い魔物に手も足も出ないで・・・」

「マモマモは、人間としてはよくやっていると思うよ!」

「そうですよ。だって、クイーンセンティビートですよ!人間が勝てるはずありません!」

「そうだとしても、俺は・・・お前らをテイムしているわけだし、そんな俺がこんなにあっさり捕まるなんて、許せない!こんなのパパっとテイムして、椅子にでもしてお前たちを待つくらいの余裕がないと、俺は情けなくって・・・」

「「あ」」

 同時に声を上げた2人。俺は不思議に思ってリュウコを見上げた。ウサミは怖いので。


「うわぁっ!?」

 ドスンっと、リュウコが唐突に倒れた。何が起こったのかと身を乗り出して確かめようとしたら、唐突に目の前が黒くなる。


「ワシャワシャ!」

「うわわああぁあ?む、ムカデ?お前、なんで・・・」

「テイムされたからぁ、完全回復ってやつだよぉ・・・いてて・・・」

「はぁ?テイム?」

 どうやら俺は巨大ムカデをテイムしてしまったらしい。だが、テイムを発動させた覚えはないし、血だって・・・


「マモマモの顔、切り傷みたいのができてるよぉ?それに、クイーンセンティビートの体液が顔にかかっているしぃ・・・テイムってさっき言ったよね?」

「いや、いったけど・・・言ったけど!?」

 確かにテイムとは言った。しかし、それはただ単に言っただけで、巨大ムカデをテイムするという意思はそこにはなかった。

 まさか、意思のない言葉でテイムが可能だとは・・・うかつにテイムと言えないな。


「ワシャワシャ」

「はっ、ちょ・・・」

 うごめく何本もの足が俺をとらえた。抱き着いているつもりなのかわからないが、冷や汗ものなのでやめて欲しい。そしてウサミ、どさくさに紛れてズボンを脱がそうとするな。


「お前ら、やめろぉっ!」

「ワシャ!」

「うぅ!」

 唐突に動きを止める2人。そのことに対して驚いた俺を、リュウコがつかんで地面にそっと下した。


「マモマモはご主人様だからねぇ・・・逆らえないんだよぉ?」

「あ・・・テイムって、そういうことか・・・」

「自分の力を、マモマモはよく理解していないんだねぇ・・・自分自身のことも。」

「リュウコ?」

 思慮深い赤い瞳が俺を見下ろして、笑った。

 赤は情熱だとか、感情が高ぶっているようなイメージがあったが、こんなに静かな色に見えることもあるのだな。


「ねぇ、マモマモ。この世で一番狡猾な生き物は何だと思う?知性の高いドラゴン?人間に甘い言葉を吐いて騙す悪魔?それとも、そこのムカデ?ウサギ?」

「・・・悪魔、じゃないのか?」

「そう。マモマモは、そう考えるんだねぇ・・・」

「人間ですよ、守様。」

「ワシャワシャ。」

「・・・・・え、何?俺が狡猾だっていいたいの?」

 ドラゴンはリュウコ。悪魔はいない。ムカデは、目の前のでかいの・・・あ。


「そうだ、名前を付けないんとな!」

「マモマモ・・・」

「守様・・・」

「ワシャワシャ!」

 なぜか生暖かい目を向けられているが、なぜだ?


「俺、何かした?」

「キャハ。何でもない、いいよ。マモマモはそのままでいてね。」

「はい。私も今の守様が好ましいです。」

「ワシャワシャ!」

「なんなんだよ・・・」

「ほら、名前。新しい仲間に付けてあげてください。」

「んーごまかされているのか?まぁ、いいけど・・・ムカナ!お前はムカナだ!」

「ワシャ―ワシャワシャ!」

 体をくねらせ、何本もある足をワシャワシャと動かして、喜びを表すムカナ。いや、実際に喜びかどうかはわからないけどな!


 とりあえず、大ムカデの名前は決まった。


「なんだかんだで、3人か・・・」

「守様のハーレムは、何人お作りになる予定で?」

「ハーレムって・・・ぷっ。」

 それはない。メンバーを見回して、俺は思わず笑ってしまった。こんなゲテモノハーレムなかなかないだろう。

 かっこいいが、女性らしさは声しかないドラゴン。

 モフモフの毛皮と耳は可愛らしいが、血走った目と、牙、爪、がもうアウトなウサギ。

 ・・・ムカデ。

 これがハーレムと言えるのか?いや、俺は断じて言わない!


「マモマモぉ・・・」

「守様、それはないです。」

「ワシャシャーっ!」

 いつもより低い声を出す2人に、威嚇するような声を出すムカナ。


「え、あれ・・・冗談だったんじゃ・・・」

 ハーレムなど、完全に冗談かと思っていた。だが、この反応を見れば本気だったことが分かり、俺は冷や汗が大量に流れ落ちた。そして、余計なことを言ってしまう。


「無理ぃ!絶対無理だからーーーー!!」


 口は禍の元。それを、俺は身をもって知ることになった。

 地下150階層に、俺の絶叫が響き渡る。




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