3 未使用の危機
ここは、地下300階層ある世界最大級のダンジョン「エンシェント」。いまだに地下100階層までしか到達できていない人類には、謎多きダンジョンとして知られ、世界中から多くの猛者が集まりこのダンジョンに挑戦しているらしい。
俺は、そんなエンシェントの地下270階層にいた。
「ねぇ、リュウコ。この世界って、人類滅亡したの?」
「そんなことはないよぉ?というか、人間が滅ぶわけないじゃん。あれ、世界の摂理を曲げてでも生きようとするよ?」
「ひどいいわれようだな・・・いや、だって人っ子一人見当たらないし。」
「だからーまだここまで人類は到達してないんだってぇ。」
「・・・とんでもないところに送られたんだな、全く・・・」
「マモマモ、ウチ少し寝たいんだけど・・・」
「あぁー、そういえば一度も休憩とってなかったな・・・俺、体力ありすぎだろ・・・」
「眠い~」
「ちょ、待て待て・・・ここで寝られても困るから・・・」
「大丈夫、しっぽと体の間でマモマモは休んでぇ・・・すやぁ・・・」
「な、寝つき良すぎだろ・・・はぁ。」
眠ってしまったものは仕方がないと、俺はリュウコの体に巻き付いたしっぽを乗り越えて、しっぽと体の間におさまった。
「これで身の安全は確保できるな。俺も寝るか・・・」
リュウコの体に寄りかかって、目を瞑る。すぐ開けた。
「かたい・・・いや、痛い。」
寝心地は最悪どころではなく、固いうろこの端で二の腕を切って血がにじんだ。
「・・・無理だ。ドラゴンは、布団にできない系の魔物だな。」
リュウコを布団代わりにできないからと言って、固い岩の上で横になる気も起きず、寝るのは諦めることにした。
「次にテイムするなら、絶対もこもこ・・・ふわっふわがいいな。大きな動物を布団にして寝るのって夢だったんだよね~」
狼がいいな。ふかふかで、強くて、かっこいい・・・背中に乗るのもいいな。
大きな白銀の狼に乗って、世界中を旅する。
いいな、それ!絶対白銀の狼をテイムしよう!
数時間後。
「なぁ、リュウコ。」
「なにぃ?」
「正直に言ってくれ。この世界って・・・俺たち以外滅んだんじゃないか?」
そう、俺は気づいてしまった。この世界に来てから出会った生物が、リュウコと亡き巨大ムカデだけだということを。
人間どころか、魔物とすれ違うことがないのだ。ダンジョンというからには、やはり魔物がウヨウヨいるはずだ。なのに、出会ったのが2匹だけだというのはおかしい!人間だけならまだしも、魔物までいないなんて。それに気づいた俺の結論は、この世界が滅んだ世界だということだった。
「・・・マモマモ・・・その答えは、このダンジョンを出た時にわかるよぉ?だから、今ウチの口からは何も言えない・・・ぷ。」
「え、何?なんで最後笑ったの?」
「笑ってないよぉ?語尾だよ、語尾っぷ!」
「いやいや!今までそんな語尾ついてなかったよね!?お前、俺のこと馬鹿にしてるだろ!」
「そんな、滅相もなぁい!面白いとは思っているけどねぇ?」
「・・・馬鹿げた話だったな。よく考えれば、お前みたいな奴を連れていたら、ダンジョンの魔物も怖くて出てこれないよな~お前、おっかなぁ~い顔してるし!」
「おっかないってぇ!?かっこいいって、かっこいいって、言ったよねぇ!あの言葉は嘘だったの?」
「さぁ、どうだったかな?」
「むぅ!マモマモのばかぁ!いいよぉ。マモマモなんて、怖い怖い、おっかぁなぁ~い魔物に囲まれて、ウチに泣きつけばいいんだー!」
ぷいっと、顔を背けて歩き出すリュウコ。俺は笑いながらその後に付いて行って、足を止めた。
あれ、なんか後ろから音が聞こえたような?
振り返ると、そこには白いふわふわの毛皮を持つ、凶悪な顔をしたウサギがいた。大きさも凶悪で、リュウコよりは小さいが俺の2倍くらいの身長がある。
で、でかっ!
「ななななな!?りゅりゅりゅりゅりゅる!」
「うわぁ~マモマモ、ビビりすぎぃ!」
「普通にビビるわっ!何だよこのおっかないウサギは!うさ耳ついてるんだから、つぶらな瞳でもしとけよ!血走った目で俺を見るなぁ!」
「グレーターラビット・・・メスだよぉ?マモマモ、助けて欲しいぃ?」
「やっぱりウサギ!余計なものが前についてるけど・・・ウサギ。これがウサギ・・・癒し系の動物・・・血走った目で、鋭い牙をもって・・・あ、あの爪とか、俺の首はねそう・・・」
変なことを言ったせいか、グレーターラビットの鋭い爪を持つ前足が、俺の方に伸びる。ちなみに、グレーターラビットは後ろ脚だけで立っているので、2足歩行の動物・・・魔物のようだ。
「ひぃ・・・ん、メス?」
「うん、メスだよぉ?それに、敵意はなさそうだね・・・」
「嘘だ・・・目がめちゃくちゃ血走ってるし、爪をこっちに向けてるぞ!」
「ハァハァハァ。」
リュウコと話しているうちに、グレーターラビットと俺との距離が縮まって、荒い息遣いが聞こえてきた。餌を前にした肉食獣のような・・・あれ、ウサギって草食系だったよね?
「お、俺は!肉だ!」
「え、マモマモ?それは食料宣言?」
「ち、違う!だって、こいつ草食だろ、なぁ?草食だよな?」
「うーん・・・肉食系だけど?」
「・・・嘘だろ。」
生暖かい空気が俺の顔に当たって、ざらざらとした温かくて湿った何かが俺の胸から顔にかけて触れていった。どうやら、なめられたようだ。
「う、ぺぺっ・・・口に入った・・・」
グレーターラビットの唾液が俺の口に入って、吐き気を催す。もう最悪だ・・・リュウコの奴は助けるつもりはないようだし・・・だからと言って、助けを求めるのは癪に障る。
「あーもう!よく見てろよリュウコ!お前なしだってな、このウサギに血を流させて、テイムしてやるよ!そしたら、この寝心地よさそうな毛皮を布団にしてやるっ!」
「そ、それは、私がしたという意味でしょうか?あ、それとも掛布団?」
「!!!?」
「あ、テイムされてる・・・」
唐突に話し出したグレーターラビットに驚いたが、さらにリュウコの言葉に驚かされた。血も流していないのに、なぜかテイムが成立したらしい。
混乱するが、まずは順番だ。
「しゃ、しゃべった!?」
「テイムされたことによって、グレーターラビットの能力が上がったんだねぇ。あ、ウチは元から話せたよ?」
「は、なんだそれ。てか、なんでテイムできたんだ?ウサギも俺も血を流していないのに・・・」
「唾液だよぉ?マモマモの力が上がって、唾液を混ぜることでもテイムできるようになったんだよぉ?気づかなかった?」
「気づくかっ!」
テイムをしたのはまだ2回目だ。力が上がったといわれても、体が軽くなったりレベルアップの表示が出たりするわけではない。わかるわけがないだろっ!
「あの、えっと・・・布団になる前に、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「え、守だけど?」
「守様・・・守様・・・ふふっ。」
鋭い爪を持つ両手を頬に当てて、グレーターラビットは体をくねくねとさせた。可愛らしい動きなはずなのに、鋭い牙と爪、血走った目がそれを台無しにしている。
てか、怖えぇよっ!
「では、守様どうぞ私をご自由にお使いください。私はあなたを受け入れます。あなたのすべてを包み込みましょう・・・はぁはぁ・・・」
「・・・リュウコ、なんか怖いんだけど。」
「怖いことないと思うよぉ?それより、名前は付けないの?」
「名前か・・・ないのか?」
「私の名前ですか?ないですよ、そんなもの。ご自由につけて、ご自由にいれてください。」
「わかった。魔物って名前の文化がないのか・・・あ?え、入れる?入れるって!?」
「マモマモ、いちいち反応するなんて・・・さすが未使よ」
「あぁぁああああああっ!お前、ウサミな、ウサミ!どうだ、いい名前だろ!」
「ウサミ・・・素敵な名前をありがとうございます守様。これでもう、後は私のすべてを捧げるだけですね。」
「ぶはっ!?え、ナニコレ?目瞑ってたら楽園なんだけど!現実は怖えぇー!」
ウサミと名付けたグレーターラビットの声は、少しおっとりとしていて耳渡りのいい声で、ぶっちゃけ俺の好みだった。ただ、俺よりでかくて、凶悪な牙と爪、血走った目があるので、現実とは残酷であるということを俺は再確認した。
「・・・というか、俺にはそういう趣味ないんだよね。その、人間までが俺の守備範囲だから。あ、女の子ね。人間の女の子・・・うん。ごめんね。」
「守様、人は常に変わり続ける生き物です。私、ずっと待っています・・・いえ、私が変えてみせましょう・・・」
「リュウコーーーー!」
ギランと、ウサミの血走った目が光る。俺は身の危険を感じて、リュウコのしっぽの向こう側へと隠れた。
我ながら、とんでもないウサギをテイムしてしまったと後悔したが、一度テイムしたものは仕方がない。責任を取って・・・いや、飼い主としてね?育て上げようと心を決めた。
俺、拾った動物を捨てる人間にはなりたくないからっ!
魔物だけどな!
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