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1 分け合う力



 うわっ、まぶしー・・・え、真っ白?

 目の前にある空間は、部屋なのか?ただ白い壁が続いているようにも見えるし、光で目の前が真っ白なだけにも見える。だが、前者であることは隣の女の子が証明してくれた。


「え、君誰?」

「私ですか?たからと言います。えっと・・・ここどこなんでしょうか?」

「え、わからない・・・あ、俺は早稲守わせまもる。えーっと、たからちゃんは・・・名字?下の名前?」

「名字です。早稲さんは・・・」

「守でいいよ。たからちゃんの下の名前は?」

「・・・玉芽たまめです。」

「なら、たまちゃんね。なんでここにいるかわかる?」

「たまちゃん・・・あ、うーん・・・思い出せませんね。覚えているのは、授業を受けていたということ、確か古文でした。」

「奇遇だね、俺も古文やってたよ。まぁ、でも関係ないだろうね。」

「でしょうね。」

 たまちゃんは、俺から視線を外して周囲をうかがっているようだ。それにしても、綺麗な肌してるなー・・・大人しい感じで、俺好み。別のところで知り合いたかったよ。


「あっ、わ、ま、守さん・・・他にも人がいます!」

「え、本当だ・・・うわ、女神か!めっちゃきれーな女の子!」

 たまちゃんの視線の先にいたのは、金髪青目の美少女。俺たちと同じくらいの年に見えるが、なぜか年上のオーラのようなものをまとっていて、100歳と言われても驚かないような不思議な空気をまとっている。


「あらあら、なぜ2人もいらっしゃるのかしら?確か一人と聞いていたはずだけど。」

「え、君はこの状況を理解しているの?」

「えぇ、もちろんよ。ここは私の神域。ここであなたたちに力を授けて、別の世界へと送るのが私の役目なの。理解はできたかしら?」

「守さん、理解できました?」

「超常現象が起きていることは理解できたよ。」

「いや、それは最初からわかっていることですよね?」

「あらあら、どうやら混乱させてしまったようね。仕方がないことだわ・・・でも、時間が無いの。理解していなくても、あなたたちを送らなければ、あなたたちは消えてしまうわ。」

「「消える!?」」

「あら、仲がいいのね。ほら、足元をよく見て。」

「・・・ま、守さん、す・・・透けて・・・」

「ぬわっ!たまちゃん幽霊だったの!?」

 たまちゃんの足元をよく見れば、足首までしか存在していなかった。ふくらはぎあたりも透けているし、幽霊という奴だろう。


「て、俺も!?」

「わ、私も!?」

「あらあら、本当に仲がいいのね。そんな2人を引き裂くのは申し訳ないけど、あなたたちは別々に異世界に行ってもらうわね。でも、頑張ればいつかきっと会えるから、希望は捨てないでね。」

「・・・やだ、死ぬの私・・・」

「俺、なんで死んだの・・・」

 女神の話など聞いておらず、俺たちは頭を抱えて嘆いた。そんな俺たちを置いて、女神は話を容赦なく進めていく。


「それにしても困ったわ。異世界に送るのは分割でいいとして、ギフトは1つしか用意していないのよね・・・う~んこれも分割しましょうか。えいっ!」

 何やら光の玉を取り出した女神が、手刀でその玉を割った。可愛らしい掛け声とは違って、玉は地響きのような音がして割れる。その音に驚いて、俺たちは女神の方へと目を向けた。


「な、なに!?」

「世界の終わりか!?」

「さぁ、これを受け取って。あなたたちの命綱ともいえる能力「テイム」を授けましょう。半分ずつだけどね?」

 俺とたまちゃんの頭上に、光が降り注いだ。あたたかい光にこんな状況だというのに、うとうととし始める。


 寝ぼけたような、半覚醒状態の脳に、女神の声が響いた。


「早稲守さん、あなたに与えた能力は「テイム」の半分。テイムは、自分より存在値が低い相手か、自分のことを信用している相手の能力を引き出し、仲間にする能力です。テイム時には、完全回復という特典がついていますので、テイムする相手を瀕死状態にしても大丈夫ですよ。」

「いや、それは駄目だろう!」

 自分の声で俺は完全に覚醒した。


「そんなこと、駄目です!」

 同じく、声を上げたたまちゃん。どうやら、俺と同じく女神の説明を聞いて反応した様子だ。


「ただ、ギフトを半分にしましたので、早稲守さんは「女性」が「メス」のみをテイムすることができ、逆に宝玉芽さんは「男性」か「オス」のみがテイム対象となっています。」

「え、なんで男の人・・・」

「え、ハーレム作れんじゃん。」

「「え?」」

 お互いの反応を見て驚く。いや、どうせなら異性に囲まれたいし。男だらけってむさそうだし・・・あぁ、たまちゃんもむさいのが嫌なのか。


「悪いな、たまちゃん。」

「・・・運がなかったと諦めます。」

「お互い気は済んだ様子なので、早速送らせていただきます。」

「「え、はやっ!?」」

「時間が無いのですよ。ほら、もう太ももまで・・・」

「「いやーーーー!!」」

 よく見れば、太ももから下が無くなっていた。このままでは本当に消えてしまうと、俺は女の子みたいな悲鳴を漏らす。


「さ、送りますよ。」

「ちょ、説明足りないだろ。いや、消えたくないけど、ガイドブック的なものくれよ!」

「ありません。では、早稲守さんから送りますね。」

「俺からかーーー!」

「守さん・・・」

「な、なにたまちゃん?」

「頑張ってください。できればまた会いましょう。」

「あ、うん・・・君も、頑張って。」

「はい。あ、そうだ。」

 たまちゃんは制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出して、俺に渡した。女の子のブレザーっていいよね。セーラも好きだけど。


「これ・・・もらっていいの?」

「はい。向こうで私を探すときに使ってください。身分証も入っているので・・・あと、もしも前の世界に帰った時、それを両親に渡して欲しいと思って。私達、会えるかもわからないですし。」

「あー確かに。それじゃ、これ俺の・・・」

 たまちゃんの身分証を受け取って、俺の身分証をたまちゃんに渡した。その時、たまちゃんの手が震えていることに気づいて、俺は安心させるように笑った。


「大丈夫、俺が必ず君を見つけるから。それで、帰る方法見つけたら一緒に帰ろう。」

「・・・ぷっ。ありがとうございます・・・優しいんですね、守さん。」

「さん付けなんて、よそよそしすぎ!せめて君付けだろ?俺たちギフトを分け合った仲なんだからさ。」

「そう・・・だね、守君。って、早く送ってもらわないと!」

「ん?・・・あぁっ!腹から下が・・・俺の大事なものがっ!」

 下半身が完全に消えていた。少し長々と話し過ぎたようだ。


「お別れは済みましたか?では、いきますよ。」

「お願いします!・・・て、これだけの時間があるなら、もっと説明してくれても・・・」

「~~~~~~~」

「・・・・」

「~~~~~~~」

「あの。」

「~~~~~~~」

「えーっと・・・」

「守君、手が・・・」

 青ざめるたまちゃんを見て、俺はもう一度俺の体を確認して後悔した。胸から下がない。胸像のようだ・・・


「は、早く、女神様!」

「~~~~~~~」

 同じポーズをとって、なにやら口の中で何かを言っている女神様。送ることは結構大変らしい。だが、頑張ってくれないと困る!


「守君・・・」

「だ、大丈夫だよ・・・たぶん。」

「だって、もう頭しか・・・」

「ごめん、不安になること言わないでくれる!?」

「あ、ごめん・・・」

 しゅんとしたたまちゃんの顔。それが、俺が最後に見た光景だった。


 唐突に放り出された真っ暗闇におののいて、尻もちつく。


「いて!?あれ、岩?」

 ざらざらと石のような感触の床の上に、俺は座っている。


 これが、俺の異世界転移した瞬間だった。




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