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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オレの冒険はコレからだ!

作者: 不覚庵

コロナで余りに退屈なのでひっさびさに。



「冒険者になりたい」


俺はオヤジに向かってそう答えた。




---


街道、なんてモンはウチの村には無い。


幾つかの山の麓にある小さくは無いが大した大きくもない林業と自分らの食い扶持だけが手一杯の畑と、後は時折出てくる魔物とか鹿とか熊とか猪とかテキトーに狩ってバンメシの一品にする位。


まぁ、ハッキリ言おう。


限界集落そのものの超が付くド田舎だ。



ガキんちょの頃から腕っプシには多少自信はあるけれど。


5日に1度、爺さん先生が素手の喧嘩術と簡単なエモノの使い方を山の中腹にあるそこだけなんか立派なお屋敷迄みんなで通って習ってた位。


じゃないと悪いオッさんにサラわれちゃうから、と。



そんなこんなで13になった俺は今し方家族とひとときの別れを告げて馬車道を行く。



「都会にはあんまり行けなかったからなぁ。」



なんせこっから一番近い隣の子爵のおじさんが治める町迄歩いて3日、馬車で2日。



とてもじゃないが年に数回連れて貰えりゃ良い方だ。ウチの村貧乏どころかそもそもオカネの使い道すら無い村だし。



あ、ちなみに子爵のおじさん、マジいい人。

時々お土産持って遊びにくる。



青ぶくれして目の下真っ黒にしてウチの村に来たと思ったら

帰る頃にはスッキリサッパリリフレッシュ!とばかりに元気になって帰って行く。



まぁおじさんが居る間って山のどっからか「ヒャッハー!」だの「ホントにあいつらのツラ見てるとブン殴りたくてもうタマラン!」


と愚痴と奇声を毒を盛大にゲロっ吐きながらドカドカ山のあちこち走り回ってなんか暴れてりみたいだけど。


お仕事お疲れ様です。お貴族って大変なのね。


俺達にはいっつもお菓子くれる優しいおじさんなんだけどなぁ。



さて馬車道、オヤジとその郎党のオッチャン達が農閑期に手入れしている素人仕事のやや荒れた道。



ひょいと出くわす緑の小人ゴブリンさん。



『よぉ、この村出るんだってな』


右手を上げてアイサツすればコッチも右手を振ってゴアイサツ。


山の中腹にある洞穴を仮宿にしてる馴染みのゴフさんお名前は確かサンゴロウ。


キミたち、ゴブリンさんは女の子に発情して襲いかかる事も無ければ人間に無闇に襲撃とかしないからね。


イイネ?(ちゃんとゴブリンさんにはメスも居ます、いや女の人って言った方が良いか)


「あ〜、サンゴさんのムラにもアイサツがてら寄るべきだったかなぁ。」


『いやイイさ。俺達もそろそろ巣立ちの時期だ。


この辺のネズミやカエル、トカゲにヘビとまぁあらかた狩り尽くしたみたいだし向こうの山に移ろうかってな。どの道そしたらまたしばらく会えなくなるしな』


ゴブリンさんの主食は虫とか爬虫類とか小動物、たまに野良犬とか猪も狩るみたいだけど狩猟生活ひとっところに定住しない。


たまにお裾分けでヘビの蒲焼きとかくれる代わりにお下がりの服とかお塩とか物々交換してる間柄。


「今年生まれた子たちはもう歩けるんだ?」


『そろそろ狩りを教えなきゃならないしなぁ。


…今年は何人生き残ってくれるかなぁ…』


毎年の事ながらコレばっかしは悲しいけれどしょうがない。


ヘビに噛まれた、ハチに刺された、野良犬を追い込み猟で噛み殺された。


人間だってそうだけど、YAMAで生きるってのは常に死がすぐそこサンクスだ。


「もしハチの巣が見つかったらセッテのオッチャントコに持ってきゃ一級品のナイフと槍作ってくれるよ。


オッチャンの本業は年の半分以上開店休業で腕かナマるとボヤいてたから。」


『ハチノスは俺達も好物だけど、良く切れるテツの刃は俺達じゃ作れないからなぁ。』


しばらく顔馴染みのお隣さんとさざめきあい。



「じゃ、また。」


『おう、またな。』



その「また」がいつなのか俺達にはわからないけれど、男同士の別れってこんなもんだろう。


振り向かず俺は馬車道を進み、サンゴさんは再び分け入ってヤマに戻る。



今日は野宿だけれどクマさえ出てこなきゃ大丈夫。まだしばらくはサンゴさん達の縄張りだ。



ーーー




ウチの村の夜空は高く、月がデカい。


ホッホッホーとフクロウなのかな?それともミミズク?まぁどっちでも良いや。



「おいコラ坊主、イテェ思いしたくなきゃあ黙って俺達についてこい。」


まだ居たのぉ?こーゆーヤカラ。


最近滅多に戦もないし隣村で悪い噂も聞かないんだけど。



手入れのなってない本身チラつかせてぐるっと囲む汚ッサン達。



けど、ウチのムラの事知らないって


モグリかよ。



「なんだぁそのツラ、気にいらねぇな?」


グッと腰を落として左右に散らばるオッさん達をぐるり見渡し再確認。


コイツら、農兵上がりのハンチクモンが誰に向かってコきゃあがる!


息を吸って吐いて、一気に吸いこんで息を止める。



ーーー



きたねぇオッさんをコロがし終わって、あおのけにして右の鎖骨踏みぬき終わる迄四半時。


最初の一人は懐に潜って全力で伸び上がりからのパチキ


俺の脳天に骨が砕けた感触を確かめながら振り向きザマにローキックで踏み込みザマにズッこけたトコにお口に爪先ガツンとネジ込み引っこ抜いて何本か歯を飛ばし


上から多い被さるようにナマクラを振り下ろされる前に飛び込んで投げ飛ばし全体重乗せてヒザを落とす、勿論喉に。


混乱してめちゃくちゃにヒカリモン振り回すオッさんには小石を投げて怯んだ所を飛び蹴りカマしてひたすら弛んだドテっぱらに向かって蹴るべし蹴るべしツラが浮いたらソイツも蹴飛ばし。



喧嘩慣れしてねーハンチクなんぞこんなもん、痛みに慣れちゃねーからたかがロッコツの一本二本でゲームオーバー。


うめいてコロがるオッさんどもを淡々と起こして右の鎖骨を全力で踏み折る。


念のために親指もへし折っとこうか。


ヒカリモノを集めてコイツらの着てるモンで縛って包む。


こんなナマクラ荷物にしかならねーけど、その辺にコロがしてく訳にもいかないし。


後はまぁ何も持ってねぇトコみるとその辺に寝ぐらでもあんのかねぇ…


ま、良いか。まだこの辺りはウチの領地、その辺コロがしときゃあ3日も経たずにウチのムラ衆にブッ"潰"されてるだろ。



しっかし、眠気も冴えちまったし、しゃあない歩くか。


今日は晴れてて夜道も明るい、夜通し歩けば朝方には隣の領地のムラにつくだろ、あー災難だ。


そうして俺はオッさんどもの荷物を担いで歩き出す。


ちなみに靴と服は焼き捨てた。

オッさんどもは縛ってその辺にコロがしてある。


ま、野良犬に食われたらご愁傷様って事で。



ーーー


はぁ、眠。


ちらほら柵で囲ったムラが遠目に見える、そろそろ一番鶏が鳴く頃かな?



「おはようごさいま〜…す、アフっ」



ムラの木戸板に夜番の爺ちゃん門番にオアシス運動、コレ大事。



「おぉ、お隣の坊ちゃん…誰だっけな、カオは覚えてるんだが名前が出てこねぇ。


ハァ年は取りたくネェもんだ」


「爺ちゃん、俺、夜通し歩いて来たたら眠くて眠くてさぁ、どっか泊めてくれるトコない?


あ、後こっから三刻あるった先にヤカラが絡んで来たたらボコってコロがしといた、はいこれソイツらの。」



「おおう、坊ちゃん"も"中々つぇえんだなぁ、無傷じゃないか


一応ウチのムラ衆も寄越しとこうかい、坊ちゃん"ソレ"はどうするね?」


「イラねぇよこんなナマクラ、その辺にぶん投げとく訳にゃいかねぇから持ってはきたけどさぁ。


爺ちゃん引き取ってくんね?宿賃とメシ代がわりにさぁ?」


「こんなナマクラでもイチから鋼にするってなると中々高くつくからなぁ。



とりあえずハラ減っとるじゃろ?

一眠りする前に朝飯でもどうじゃ?

昨日潰したトリ鍋一緒に食うか?」


「毎度あり」


「コレコレ、朝飯くらいで坊ちゃんからタカりはせんよ遠慮なく食ってきな」


門番の爺ちゃんと並んで村に入っていく。ウチの村より開けて遠目に青々とした麦畑が目に入る。


もうそんな時期だったか。



「あ、お爺ちゃんお帰り。夜番お疲れ様。


楽しみにしてたトリ鍋も煮えてるから食べてからお昼寝しなよ。


…アレ?隣村の坊ちゃん?」


「爺ちゃんならともかく、おばちゃん迄坊ちゃんはやめてくれよ恥ずかしいなぁ。


俺なんてミソッカスの6男坊なんだから、どこいっても行く先平民のおばちゃんよりエラいなんちゃないんだし」


「いやいや、坊ちゃんントコのお父様には御領主様からウチら迄ひとかたならないお世話になっているっけねぇ。


お父様のおかげでウチの村、アタシャが娘っ子の時分より随分おっきくなっさもんさ…


しっかしまぁ、それにしても坊ちゃんが一番良く似てるよねぇ、お父様に。」


「ムラでもコッチでも良く言われたなぁ、ソレ。


一番オヤジ似だからか兄貴達に比べたらオツムの方もサッパリでさ。あんましむつかしい事も出来ないしコレから町に行って冒険者にでもなろっかなって。」


「まぁまぁホント勿体ない。坊ちゃんきっといい男になるからウチの娘も妾の一人に貰ってやって欲しいけれど。」


「やめてくれよなー。俺一人の食い扶持すら稼げるかどうかすらわかんねーのに嫁すっ飛ばしてメカケとか勘弁してくれや」


「まぁ男の門出だ、こんなボロ屋で悪いが腹一杯食べて一眠りして行きなさい。


ほらお前もさっさとお椀とスプーン持ってきなさい」


「ハイハイ、食べながらにしましょうかね。」


ーーー



爺ちゃん一家で仲良く朝飯ゴチになって一眠り。


だいぶん疲れてたのか目が覚めたらカラスが鳴いて日が暮れて。



「おおう、坊ちゃん昼飯食いそびれただろ?腹減ってるだろうし顔洗ったらそろそろ晩飯にしよう。」


ホント、随分良くして貰っていーのかねー。コッチは朝から食っちゃ寝だけれど。


「あぁ、あの後な、村の若い衆走らせて山賊もどきふんじばりに行ったらな。


坊ちゃんトコの村衆が寝ぐらを焼いとったワイ。


なんでも夜更けにギャーギャー騒いでたのでまさかと村衆総出で坊ンの後追っかけたらバカがふんじばれてコロがされてたのを寝ぐら吐かせて朝を潰したそうじゃ。


村衆さんざ褒めとったよ"さっすが親父様の坊ちゃんだ、若い頃の親父様より強くなるかもなぁ"ってなぁ。」


「俺、村のオヤジ連中から最後迄1本とれず仕舞いだったんだぜぇ?褒め過ぎだろソレ。」


「むしろ13やそこら、まだまだ手足の伸びきって無い坊ちゃんが大のオトナ相手に大立ち回り、


この爺なんぞ手もなくヒネられるじゃろ、坊ちゃんなら。」


「武勇伝は俺も前から聞いてるから爺ちゃん相手にナマ抜かせねっての。


それよりちょっとごめんよ、便所便所。」


「おおう悪いのう、手洗ったら台所で待ってるぞい。」



ーーー



爺ちゃんチの外、備え付けの便所でブッてぇのをヒリだした後、水場に向かっておてて洗ってツラも拭ってモゴモゴペッ。


「アンタ、アタシも連れてきなさいよ」


誰だっけ?水に濡れたツラをゴシゴシ袖で拭いて声の方を振り向いたら。


「あぁ、爺ちゃんトコの。


だめだめ。昨日他所モンがヒカリモンプラプラさせてこっから半日ントコで出たのん聞いただろ?


俺ひとりならそこらのチンピラなんざ屁じゃねーけどさ、ねぇちゃん背負って立ち回れる程でもねんだよなー、残念だけど。」


ホント残念だ。俺より確かイッコ上、まだまだチビな俺より背ぇ高くて出るとこ出てるカワイコちゃん。


でもさぁ、


「おじさんンの街迄大人が付いてくれんならともかく、山道はねぇちゃんにゃまだまだとってもブッソウだ。


悪いコタ言わねぇからあきらめてくんな、まだまだガキの俺にゃちと荷がキツい。


「そうじゃなくて!」


「おばちゃんの軽口真にに受けんなら尚更だぁ、村でヒキって山暮らしてんならともかく、街じゃ俺っちなんて箸にも棒にもかかんねぇ駆け出し以下のクソガキだ。」


そら村の娘っ子にも泣いて縋られちゃあいたんだわ。オヤジ似のツラばっかりは出来いいもんで。


「どこぞのド田舎のボンがナンボになるのか知らねーが。


今んトコ大した値打ちはねんじゃねの?」


立ち尽くす、きっとハクいオンナになるちょっとだけ年上のねぇちゃんと行き違い


「まだ俺はどこの誰ベェでもねんだから。」


とりま街に付いて仕事にありついてテメェの食い扶持稼ぐ、ます男のやる事誰もがやらねばならない当たり前。


最初の一歩までもう少し。



ーー


腹一杯バンメシゴチになって、もう一眠りして空か白んで村衆がクワにカマにと手に持って朝飯前の一仕事。


そんなド田舎村の当たり前を遠目にしながら


「爺ちゃん、おばちゃん、朝飯に弁当迄つけてくれてあんがとな。


今から出りゃ多分夜には街に着くよ、お礼になるもんなんも無いけどさ、


じゃ、元気でな。」


「おおう、爺がくたばる前にまた遊びにきんさいな。」


「何言ってんのよお爺ちゃん。


坊ちゃん、気にしないで何時でもいいからまた来てね、ホラあんたも。」


イッコ上のねぇちゃんも出送りに来てくれた。


「…街で食えなくなったらウチのムラに来なさいよ、アンタ一人の食い扶持ぐらいどうにかしてあげるから。」


「そらお断りだ、悪りぃけど。


だってカッコゥ悪りぃだろ?」


二ヘラと笑ってみせる男の門出。


「冒険者かダメでもなんやかんや仕事探して食い繋ぐさ、一応読み書きそろばんだきゃあ一通りできっから」


「そっか」


「あぁ、じゃあな」


振り向いて村から伸びるウチの馬車道よりちょっとばっかし出来の良い道へまた一歩。


そうだよな、オレはまだ何モンでもないけど、


行く道の向こうの先にきっとある。


ーーー


村から村へと繋ぐみち


村から街へと繋ぐみち


朝からボチボチ歩き通して見えてきた。


オレの三倍は丈のありそうな門の前。


「兵隊さん、この街の冒険者ギルドって何処なんだい?」


「大通りの交差点3つ行って右曲がって直ぐ、まる盾にナナメの短剣の看板がそれな。


ボウズも冒険者志望かい?」


「あぁオツムはアレでもウデっプシならちょっとしたもんよ。


いっぱしのオトコ目指して働きますかねってさ!」



「ははっ!中々威勢のいいこった!


おし行ってこいボウズ!」


「あんがとよ!」


オレの冒険はコレからだ!

俺(坊ちゃん):どこぞのド田舎の辺境領主のバカ息子。6男坊でガキ大将。

オヤジ(親父様、お父様):どこぞのド田舎の下級貴族。

…の郎党:ド田舎辺境領主の一応部下。だいたい脳筋半士半農、開拓村の村衆(村自体は複数あり)

爺さん先生:村の中腹にあるお館に済む武術師範。ド田舎なんで自主防衛力必須なもので

村衆:…だいたい武闘派。普段は木こり。

子爵のおじさん:年に2、3回オヤジの領地に遊びに来るおじさん。貴族はストレス半端ないのかアウトドア生活満喫して帰る。オヤジ?基本自分の事貴族とすら思ってねわ。

サンゴさん:ゴブ一家の棟梁。本文通り、この世界のゴブは人間食わないしハラませません、必要ないし。

だいたい森を寝ぐらに狩猟生活。

セッテのおっちゃん:領主付きの鍛治屋。家庭用の鍋釜からヒカリモン迄なんでもござれ。

爺ちゃん:隣村の隠居村長。若い頃は冒険者でブイブイ。

ねぇちゃん:境界またいだ向こうの開拓村の三人娘の次女。

兵隊さん:子爵のおじさんの直轄兵。

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[一言] 作業を始めると、現実逃避に他人様のお話を読み耽っちゃう。作者様からすれば「片手間に読むんじゃねぇーよ」と言われてしまいそうな失礼ではありますが。 ……3回も読んじゃったよ。 どうしよう……
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