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深海魚

作者: 城間遙子

海の 深い海の底に生きている魚が


水の 深い水の重みに身体をあずけて


夢をみる




そこは深く深く 青い水はとても深くまでつづき


太陽の光さえ届かないほど深い


光のない世界で 魚は


岩を 敵を 仲間を 見ることをやめて


暗闇のなか みえない瞳で 夢をみる




深い海に その魚は生きつづける


何日も 何年も 何度でも 生きる


魚は 深い海の魚以外に 生きたことはない


魚は こぽりと口をあけ とじて


ひらかないまぶたのむこうで


ゆっくりと 夢をみる






ある日 1000年昔に崖から沈んだ


陰気な岩が 魚にきいた


「何をしている?」


魚は こぽりと口をあけて こたえた


「夢を みているんだ」


岩は あざわらうように ききかえした


「夢だって! 何を?」


魚はすこし考えて こたえた


「そうだな,空を」


岩はいよいよわらいながら からかった


「空か。こんな暗い海の底で,空か」


その声に 岩をかくれがにしていた小さい魚が すうっと逃げた


魚は 口をとじて だまった


海の 深い海の魚は 空を知らなかった


魚は黙り もういちど 夢をみる






ある日 1000回生きて色を落とした


半透明の生き物が 魚にきいた


「何をしている?」


魚は こぽりと口をあけて こたえた


「夢を 見ているんだ」


半透明の生き物は 腹の中まですかしながら 踊ってみせた


「夢だって! 何を?」


魚はすこし考えて こたえた


「そうだな,陸を」


半透明の生き物は いよいよ魚の周りを踊り狂い わらった


「陸か。水の重みのない陸か。水に浮かされて生きるきみが,陸か」


その声に気づいた大きな魚が 半透明の生き物を捕えにやってきた


半透明の生き物は 1001回目のために 身体を捨てて


魚は 口をとじて だまった


海の 深い海の魚は 陸を知らなかった


魚はだまり それでもやがて 夢をみる






ある日 1000の身体に 吸われて吐かれた


丸い気泡が 魚にきいた


「何をしている?」


魚は こぽりともせず だまっていた


「何も,していないのか?」


気泡は ゆるゆると上にのぼりながら 魚の腹にぶつかった


魚は 何もこたえずに


ぶるりと身をゆらして 気泡をはらった


「これだから,深い海の生き物ってやつは」


気泡は くるくるとまわり 怒りながら


1001体目のものの待つ てっぺんへと のぼっていった


海の 深い海の魚はだまり


ひらかないまぶたのむこうで


ゆっくりと 夢を待つ






ある日 1000の時をかぞえたころに


仲間の魚が くろい潮に流れ 魚のそばに来て きいた



「何をみている?」


魚は こぽりと口をあけ とじて


ゆっくりと潮にただよいながら


ひらりと エラで あおいでみせた


仲間の魚は 一瞬 潮以外の流れにゆらぎ


もういちど きいた


「何をみている?」


魚は こぽりと口をあけて こたえた


「夢を」


そばに来た仲間の魚は 小きざみにエラをゆらし


流れからとどまって こんどは別のことを きいた


「何の」


魚は ゆっくりと潮にただよいながら こたえた


「揺りかごの夢さ」



海の 深い海の魚は 揺りかごを知らなかった


そばに来た仲間の魚は けれど わらいもせずに つぶやいた


「それは,夢か」



海の 深い海の魚は ふたたびだまり


ひらかないまぶたの むこうで


深い海を 夢で みている








海の 深い海の底に生きている魚が


水の 深い水の重みに身体をあずけて


夢をみる




そこは深く深く 青い水はとても深くまでつづき


太陽の光さえ届かないほど深い


光のない世界で 魚は


岩を 敵を 仲間を 見ることをやめて


暗闇のなか みえない瞳で 夢をみる




深い海に その魚は生きつづける


何日も 何年も 何度でも 生きる


魚は 深い海の魚以外に 生きたことはない


魚は こぽりと口をあけ とじて


ひらかないまぶたのむこうで


ゆっくりと 夢をみる


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― 新着の感想 ―
[一言] いいけど詩かな、発展性と起承転結の承転がないと思う。作品としてはすばらしいと思います。
2009/02/19 00:39 退会済み
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