1.二年が経過して。
――二年の月日が流れた。
あの日と同じように、月明かりも照らさない闇の中を歩く。目指すは王都で悪事を働くとある貴族、その屋敷だった。
ボクはいつも通り、特別に気にすることなく正面玄関から侵入する。
足音だけは立てないように、注意を払った。
「……ここ、か」
そして、標的のいる部屋に辿り着く。
思い返すのは始まりの日のこと。あの時も、こうやって寝室に忍び込んで、ケイウスの喉元を切り裂いたのだ。当時と違う点を挙げるとすれば、暗殺術に精通したところだろうか。
だから、その頃よりも正確に。
かつ大胆に、与えられた任務を遂行することができるのだった。
「身から出た錆だ。貴様には『報い』を受けてもらうぞ」
寝息を立てる貴族の男に向けて、ボクはナイフをかざして言う。
大丈夫だ。せめて、一息にその命を絶ってみせる。
そう思った瞬間だ。
「な、お前は誰だ……!?」
「…………」
男が突然に目を覚ましたのは。
舌を打つ。せめて眠るようにと気遣ってやったのに、と。
「私の名前か?」
だが、問われた以上は答えよう。
ボクはフードを外して、笑ってみせた。
「私は、暗殺者――【A】だ」
いまのボクを表す、その名前を。
◆◇◆
家人たちが、男の絶叫を聞きつけて集まり始める。
その中を堂々と通り過ぎ、ボクは屋敷の外へと出た。そして、いつものように夜空を見上げて、こう呟くのだ。
「…………終わった」――と。
あの日と、同じように。
一つの任務を終えて、ボクは人混みの中へと姿を消すのだった。