おっさんはクズな間男を全力で叩き潰す
とある王国の王都にある小洒落たカフェ。
テラス席で二人の男女が仲睦まじく談笑していた。
「おい、兄ちゃん。ちょっと面貸せよ」
「ああ? なんだよオッサン」
不躾に告げられた内容に怪訝な表情をしたのは、中性的な顔立ちの身目麗しい青年。甘いマスクは道行く女すら虜にする。
恋人との逢瀬を邪魔されて大層ご立腹の様子だ。
ドゴォッ
唐突に青年は顔面を殴られ、周囲のテーブルやイスをなぎ倒しながら錐揉みして派手に吹き飛んだ。
「あがが……」
「いいご身分だな。クズが」
青年の顔面を陥没させたのは熊のような大男だった。胸倉を掴み、憤怒に歪められた表情は殺意を帯びている。大男は青年を引き摺り、立ち去った。
唖然とした女のテーブルには、いつの間にか金貨が数枚、置かれていた。
どうして大男は怒っているのか。それは、ひと月前に遡る。
俺は船乗りをやっている。海に出れば数か月帰れないことはザラだ。
家には愛する妻と幼い娘が二人、帰りを待っている。会えないことは寂しいが、家族を養うために頑張っていたつもりだ。
今回の仕事は半年ほど帰れなかった。海にいる間に妻と結婚して十年になり、結婚記念日を祝えなかったことが残念でならない。
俺は、花束を持って帰宅した。
何も、無かった。
家には妻と娘がいないどころか家財道具すら無く、もぬけの殻になっていた。船乗りの間では、入港して家に帰ると家族がいなくなっていることは良く耳にする笑い話しだ。でもまさか、俺の身に降りかかるとは思わなかった。
慌てて妻の実家に連絡をしたが、帰省はしていないらしい。
「どういうことだ……?」
妻は縁のある貴族の箱入り娘だった。幼い彼女と遊んでやったこともある。そんな彼女と結婚したのは俺が三十八、妻が十六のときだ。二回り近く年が離れている。こんなオッサンで本当に良いのかと尋ねると「あなたが好きなの」と恥じらいながら告げられた。彼女の父親も「お前になら娘を預けられる」と太鼓判を押した。海から帰ってくる俺を真っ先に迎えたいと言い、実家の屋敷を出て港町に移り住んだ。彼女がいたから陸が恋しくなった。
この港町にはスラム街がある。掃きだめのような場所だ。俺はスラムの裏通りにある複雑に入り組む路地を迷いなく進んでいく。しばらく歩くと、廃墟のような建物の前で男が二人壁に寄りかかっていた。
「マティアスに会いに来た。通るぞ」
「ああ?」
「あっ!? おい、馬鹿! この方は……」
「気にするな」
下っ端に目くじら立てるほど子どもではない。
適当にあしらい廃墟に入っていく。見覚えのある構成員は頭を下げてくる。
無言で通路を歩き、突き当りの部屋に入った。
「邪魔するぞ、マティアス」
「どうした兄弟、物騒な雰囲気だな?」
この場に似つかわしくない、見た目だけは中年の紳士然とした男が座っていた。仲間の前以外では本当に紳士を装っているらしいが。彼は裏社会の長、マティアス。この国の闇に生きる者を支配している。本当の兄弟ではないが、昔馴染みの奴だ。
「家財道具ごと家族が消えた」
「……心当たりが無いんだな?」
「ああ。不倫かもしれんが、居場所がわかればいい」
俺も船乗りだ。若い頃は各港に女がいたこともある。不倫程度なら目くじらは立てない。もちろん嫌ではあるが、寂しい思いをさせている自覚はある。
「数日かかる。ラウル、何処に連絡すればいい?」
「家の近くの宿で頼む」
「わかった。情報が集まったら使いを出す」
「もし不倫だったら、相手には手を出すなよ?」
最後に念を押して俺は廃墟を後にした。
『ラウルさま!』
幼い少女が庭園に咲いた花を手に駆け寄ってくる。
『どうした、レティシア?』
『いつもこの国のために頑張ってくれてありがとう!』
花を手渡された。生憎、花に興味はなく名前も知らない。だが、少女の笑顔と贈り物に荒んだ心が癒されたのだ。
王国は腐敗していた。海を挟んだ国からの脅威にも晒されていた。俺たちは未来の為に戦っていた。
マティアスからの使いがやって来た。急いでアジトに向かう。
「彼女の居場所はわかった。だが子どもの足取りは途中で消えている」
「なっ!? ララとレア、二人ともか!?」
「他国に連れていかれている可能性が高いな。少し時間がかかりそうだ」
「いい度胸じゃねぇか……」
一刻も早く娘を探したいが、妻が心配だ。
「レティシアはどこにいるんだ?」
「王都の……娼婦館だ」
「……は?」
「どうやら男に貢ぎ、入れられたようだ。…薬物中毒になっている」
頭をぶん殴られたかのような衝撃が襲う。レティシアが薬物中毒、だと?
不倫相手がいることは覚悟していた。彼女の笑顔が脳裏にちらつく。
「男の情報はあるのか?」
「オルグレン男爵家の三男坊だ。名はローラン。社交界でも有名な美青年らしい」
「王都に行ってくる」
「ああ。手が必要なら連絡してくれ」
俺の妻に何してくれているんだ? 待っていろ、ローラン。貴様を叩き潰してやる。
王都中央に位置する王城。事前に国王との謁見を申請していた。謁見とは言ってもプライベートなもので、談話室で行われるのだが。
「ラウルがここに来るのも久しいな。いつ以来だ?」
「少し前まで他国との海戦で忙しかったですし、クーデター以降は憶えがありません」
「そうだったか……。グリフィス伯爵の娘と結婚していたな。彼女は息災か?」
「……そのことで、お願いがあって参りました」
「病気か? 神殿から選りすぐりの術者を送ってやるぞ」
「いえ、その……妻と娘が……」
事情を聞いた国王は頭を抱える。ラウルは国王が侯爵家の子弟であった頃からの友人だ。国を憂い、共に立ち上がったクーデターの立役者の一人。本来であれば爵位を与え、軍を束ねる将軍として重用したかったが、島国である王国にとって主戦場は海であるため、最前線で戦うラウルはそれを辞退した。実質的に海軍を率いているが、あくまでも艦長の一人という扱いになっている。
クーデターに参加した王国の貴族もそれを理解しており、今でも交流を持っている貴族は少なくない。
「なんと馬鹿な真似を……。オルグレン男爵家の取り潰しと奴隷堕ちで良いか?」
「いえ、オルグレン男爵の人柄は私も知っています。当事者のローランの身柄を頂ければ、それで充分です」
「好きにするが良い。男爵には儂から伝えておく。娼婦館はどうする?」
「妻の身柄を引き取りたいので口添えだけお願いします」
俺は国王から王家の紋章がある親書を貰い、妻を迎えに行くために娼婦館に向かった。娼婦館の主は震える手で親書を確認し、奥の部屋に案内した。
「ラウル様……」
「レティシア、迎えに来た。帰るぞ」
部屋にいたレティシアの手首を掴み、連れて行こうとする。
「は、離してっ!」
「レティシア……」
レティシアは振り払おうと暴れる。
「わたしはあなたを裏切ったの! 帰る資格なんてないっ!」
「俺が悪かった。寂しい思いをさせてすまない」
「違うっ! あなたが悪いんじゃない! わたしが……全部、わたしが悪いの」
「レティシア、お前だけが悪いんじゃない」
「町で何度か声をかけられて、それでホイホイ着いて行ったのよ!?」
「俺もお前ぐらいの頃は散々遊んだ。それを咎めるつもりはない」
「薬欲しさに家のお金にも手を出したの! 何度も何度も何度も!!」
「それでも良い。レティシアが帰って来てくれるなら……俺はッ」
「ララとレアがいないの…わたしが悪いの……お金払えなくて……気がついたらここにいて……。ここを出るのにもお金が必要で。薬も欲しくて……抑えられなくてッ」
「良いんだ……良いんだレティシア。俺はお前を愛している。お前がいないと駄目なんだよ……」
「ラウルッ!! 怒ってよ!! でないとわたし、わたしは……ッ」
「……ああ、腸が煮えくり返っているさ」
「……ッ」
「でも、それはレティシアにじゃない。俺自身にだ。俺はずっとお前を見てきた。よちよち歩きしていた頃から知っている。それなのに何もわかっていなかった。怒れるはずがない」
「わたし……わた……し……は……」
「ずっと一緒に居たいんだ。レティシアが望むなら軍も辞める。ララとレアも必ず取り戻す」
「……っ……うぅ……」
俺はレティシアをそっと抱き寄せた。咽び泣く彼女の身体は酷く頼りない。失うことを恐怖する。彼女から伝わる震えと体温を感じながら、決意を新たにした。あのクズは絶対に赦さないと。
俺はレティシアを馬車に乗せ、彼女の実家であるグリフィス伯爵の屋敷に向かう。発作的に暴れそうになるレティシアを抱きしめ続けた。グリフィス伯爵に事情を話すと悔しそうに顔を歪めた。俯き、震える手は固く握りしめられていた。
レティシアを屋敷に残し、俺は王都に戻る。クズの情報は王都に集めるようにマティアスに頼んだ。
「恋人がいる?」
王都の宿に待機している俺に情報が集まる。
「はい。婚約者もいますが、複数の女性と関係を持っているようです」
「なるほどな。今日も王都のどこかの店にいるのか?」
「行きそうな場所をいくつか絞りました。これです」
「すまん。助かる」
数箇所に印がついた王都の地図を受け取り、クズを探しに行く。まさか、一つ目の店で見つかるとは思わなかったが。
王都で有名なカフェらしい。そのテラス席に仲睦まじくお茶している男女がいた。…アイツか。俺はクズに声をかける。
「おい、兄ちゃん。ちょっと面貸せよ」
「ああ? なんだよオッサン」
鬱陶しそうな反応に怒りが爆発した。
渾身の右ストレートを顔面に叩き込んだ。
店員が飛び出してきたが、迷惑料込で金を握らせ引かせた。クズの恋人のテーブルにも金を置いておいた。こういうときは男が持つからな。
倒れているクズの胸倉を掴み引き上げる。足が宙に浮いた。
「あがが……」
「いいご身分だな。クズが」
何が何だかわかっていない顔だ。
胸倉を掴んだまま引き摺り、表通りを外れ裏路地を進んでいく。マティアスの伝手で、裏社会の人間が絞めるときに使う尋問部屋を借りた。
「おい。どうしてこうなったか、わかるか?」
「し、知らないっ!」
ドガッ
鳩尾に拳を叩き込む。
「し・り・ま・せ・ん、だろ?」
「……しりません」
「レティシアを知っているか?」
「…………」
ドガメキィ
鳩尾に蹴りを叩き込む。
蹲るクズの前髪を掴み壁に押し付けた。
「お前、名前も覚えていないのか?」
「うぐ……ッ」
必死に思い出そうとしているのか、目がきょろきょろ動いている。もう一発腹を殴った。
「なあ、本当にわからないのか?」
「……すみ、ません」
「娼婦にした女は把握しているか?」
「…………」
「お前……」
まさか名前すら知らないのか?
それとも把握できないぐらい堕としたか?
なんだコイツは。何を考えて生きてやがる。
「ごめんなさい……」
顔を殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。
「そんなことを聞きたいのではないのだがな」
髪を掴んでいた手を放すと、地面に崩れ落ちた。
鼻がへし折れ、顔がパンパンに腫れている。あばらも数本折れていそうだ。
「ああ、すまん。やりすぎたか」
クズの身体に手を当てる。
「【ヒール】」
骨折を治し、多少マシな状態まで戻す。
「治癒魔法は少し使えるんだよ。これでまだ殴れるな?」
絶望した表情のクズが意識を失うまで殴り蹴りを放ち続けた。
意識の無いクズに隷属の首輪を嵌める。
マティアスの手下を呼び、港町に搬送した。
ローランは廃墟のような場所で目を覚ました。
「おはよう」
「ひぃぃ!?」
「お前が知っているかもしれない場所に連れて行ってやる」
男を呆然と見上げるが、足がすくみ立ち上がれない。
「おい、【早く立て】よ」
頭を締めつけるような激痛が走る。
「あ……がぁ……ッ」
「首に付いているものを確認しろ。早く立たないと死ぬぞ?」
死の恐怖に、訳も分からないまま必死に立ち上がる。
首を確認すると首輪が嵌っていた。
「隷属の首輪だ。似合っているな」
わからない。どうしてこの男を怒らせてしまったのか。
男に連れられ、見覚えのない道を歩き続ける。
そして、しばらく歩いたとき、ようやく知っている景色が見えた。
港町だ。とある女の顔が脳裏をよぎる。まさか、この男は……。
スラムを抜け、町の表通りを歩き始めてからクズの様子が変わった。無視して歩き続ける。そして辿り着いたのは、俺たちの家だった。もう何も残っていない、空っぽの家。
「どうして俺が怒っているのか、わかるか?」
「はい……」
「何か言うことは無いのか?」
「すみませんでした……」
「妻に薬物を使って手籠めにしたんだな?」
「…………」
「娘はどうした? 二人いただろ?」
「…………」
「……売ったのか?」
「すみま――」
「【黙れ】」
わかった。もうそれ以上は喋るな。
「お前が売った娘は、他国にいる。最後まで付き合え。お前の処分はその後だ」
クズを連れ、アジトに戻る。娘の行方が判明するまでマティアスにクズの面倒を頼んだ。酷く、疲れた。俺はグリフィス伯爵の屋敷に向う。レティシアの側にいたかったのだ。
レティシアは屋敷で塞ぎ込んでいたが、少し笑うようになった。やはり彼女の笑顔は俺に必要なのだと実感する。軍務を休み、少し長めの休暇となった。ゆったりとした時間が流れ始めた頃、マティアスから娘の発見報告が届いた。レティシアは涙を浮かべていた。必ず連れ帰ると約束した。
「小国だが同盟を結んでいる国か」
「そうだ。積荷に紛れ込ませて奴隷を運んだようだ」
「無事なのか?」
「幸い……といったところだ。ラウルを知っているから、身元が判明した時点で保護したようだ」
「あの国にとっては良い迷惑だろうな」
「違いない」
本当に良かった……。未だに手が震えている。
「遠洋航海がてら迎えに行ってくる」
「艦を動かして大丈夫なのか?」
「演習のついでだ。問題ない」
「アイツも連れて行くんだろ?」
「ああ、引き取っていくから心配するな」
クズを回収し、乗組員を招集して艦を出港させた。片道一か月ほどの航海になる。小国に着くまで、俺はクズを部下に任せ放置した。仕事をやらせろとだけ言づけた。艦中は社会の縮図だ。仕事ができない者や人付き合いの下手な者は排斥されるが、逃げ場の無い洋上では常にそれが行われ、精神を擦り減らす。俺を慕う部下たちは、お前を赦さないだろうな。
日に日に弱るクズを尻目に艦を進めた。
小国の港に入港すると、俺たちは熱烈な歓迎を受けた。王国の海上戦力は小国と比べると天と地ほどの差がある。未だガレー船を使用している国とは勝負にもならない。仮にも同盟国である。艦の精強さを見せつけられて無下にすることはできないのだ。
「「うわぁぁぁぁん」」
港にはララとレアがいた。綺麗なドレスを着せられ、妖精のように思えた。親馬鹿なのは自覚している。泣きながら飛びついて来た二人を抱き上げた。まだまだ幼い我が子だ。心細かったに違いない。俺の目からも涙がこぼれた。
食料等の物資を積み込み、三日だけ部下に休暇を与えた。英気を養ってもらう必要がある。俺は娘を部下に預け、クズを連れだした。娘には会わせたくない。
俺はクズと共に、ガレー船の船長に会っていた。
「この奴隷を預かってくれないか?」
「ほぅ……これはこれは」
船長は含み笑いを浮かべる。
「下の世話をさせても良いが、漕ぎ手として使ってやってくれ。別に死んでも構わん」
クズは目を見開いた。船乗りで男色の奴は珍しくない。両方いける奴も合わせると意外といるものだ。数か月洋上にいるんだ、溜まっている奴もいる。見た目は中性的な美青年だから適任だろ。だが、本命は漕ぎ手だ。
俺はクズを見やる。
「ローラン、三年だ。三年経ったら解放してやる」
「……ッ、わかりました」
あとは船長に任せ、立ち去る。なあ、知っているか? ガレー船の漕ぎ手は三年以内に三割以上が死ぬ。お前は生きていられるのか。
出港までは娘と町を観光した。いつか四人で旅行したい。
そして、俺たちは王国に帰った。
王国に帰った俺は、レティシアの許にララとレアを届けた。抱き合う母娘の姿を眺め、その足で王都に向かった俺は、国王に軍を辞めることを伝えた。
正式に軍を辞めた俺は爵位を賜り、グラナドス子爵になった。グリフィス伯爵の領地に土地を貰い屋敷を建て、家族と移り住んだ。グリフィス伯爵の屋敷からさほど離れておらず、跡継ぎであるレティシアの弟とは家族ぐるみでの付き合いをしている。
レティシアは以前のように明るくなった。娘たちの成長を間近で見られることにも幸せを感じた。
約束の三年。客船に乗り家族を連れて船旅をした。
そして、小国に着いたその日の晩。皆が寝静まった頃に宿を抜け出した。
ローランは生きている。マティアス経由で連絡が来ていたのだ。ガレー船の船長に言伝を頼み、深夜の港で引き渡してもらうことになった。
港に訪れると、既に船長とローランがいた。ローランは変わり果てていた。目が落ち窪み、少し面影が残る程度だ。
「船長、役に立ったか?」
「ああ、楽しませてもらったよ」
「それは何よりだ」
「また良いのがいたら言ってくれ」
「機会があればな」
船長を見送った。俺はローランに向き直る。
「約束通り解放してやる。そこに座れ」
「……はい」
ローランは指示通りその場に座る。
俺は隷属の首輪を外した。彼は静かに泣いていた。
だから俺は――
「【アースウォール】」
このクズの首から下を土壁で固めた。
「なっ!?」
「お前の罪が無くなったとでも思ったか?」
「や、約束が違うッ!!」
「奴隷からは解放してやった」
「そんな……」
「この三年間で、レティシアは以前のように明るくなった。でもな、今でも、うなされるときがある。後遺症がまだ残っているんだよ。クズみたいなお前を生かしておける訳がないだろう?」
俺は土壁ごとクズを海に蹴り落した。
しばらく海面に上がる泡を見届け、俺は立ち去った。
数日後、身元不明の死体が浮かび上がったようだが、俺は家族と旅行を続けていた。
ラウル:元は侯爵家に仕える騎士の家系出身。同じ立場の家系のマティアスと侯爵家だった国王とは幼馴染。グリフィス伯爵とオルグレン男爵とは学園時代の友人だった。クーデターでは、ラウルとマティアスの実家が裏切り、腐敗した王族に加わったため、自分たちで切り捨てる。その際、家ごと爵位を取り潰し、騎士の身分を捨て海軍の最前線で戦うようになった。物語の開始時点では平和になっている。レティシアのことは当初、親戚の子どものように感じていたが、成長した彼女と恋に落ち結婚した。年下の妻を溺愛している。娘二人は目に入れても痛くない。王国を優先して家を空けることが多く、家族を顧みることができなかったことを後悔している。
レティシア:物心つく前からラウルは屋敷に顔を出していた。良く遊んでもらい、ラウルが初恋のまま育った箱入り娘。ラウルと港町に引っ越してからは、普通の民家で暮らしていた。ラウルが不在のときは、近くに頼れる者がいなかったため、独りで子育てを頑張っていた。そんな時、ローランに町でナンパされる。断っても日を改めてナンパされ続け、とうとう外食を一緒にしてしまう。徐々に心を許し、夜の酒場で飲んだ際に泥酔している隙に宿に連れ込まれ、薬も使われた。その後はなし崩し的に薬を使われ続け、自らも求めるようになる。家のお金にも手をつけた。薬が買えなくなったときに子どもをローランに要求されたが断った。実家にも頼らなかった。娼婦館に売り飛ばされ、子どもと家にあった物全てを奪われる。薬の後遺症により錯乱することがあるが、徐々に収まり普通の生活が送れるようになっている。ラウルのことは愛すると同時に尊敬している。
ララ&レア:双子の姉妹。奴隷として他国に売り飛ばされたが、ラウルの娘であることを本人が話したことで奴隷商を含め、売られた国が大慌てすることになり保護された。ラウルもレティシアも大好き。
マティアス:クーデター後に裏社会に身を投じたのは、王国を裏から支えるため。ラウルに情報提供しつつ、問題になった薬を取り締まっている。
国王:ラウルとマティアスを最も信頼している。王国に大きく貢献しているが褒美を受け取らない二人には、何か困ったことがあったら教えて欲しいと告げている。
グリフィス伯爵:クーデターの立役者の一人。ラウルとは学園から途切れず交流があった。ラウルとレティシアが結婚することを許可したのは、下手な貴族に嫁に出すより信頼できると思ったから。国王やマティアスとも仲が良い。
オルグレン男爵:クーデターの際は、どちらにも加担せず中立を守った。ラウルたちとは学園時代の友人だが、過激な彼らについていくことができなかった。穏やかで温厚な性格は貴族らしくはない。ローランがしていたことは国王から告げられるまで知らなかった。レティシアにローランの代わりに賠償金と慰謝料を払い続けている。
ローラン:家族に愛され、恵まれた才能と容姿を持っていた。将来有望であったが、自分は何をしても良いと思ってしまう。薬の売人とつるむようになってからは、もしものときは身分を盾にできる平民の女性を狙って声をかけていた。レティシアに声をかけたのも元伯爵令嬢と知らなかったから。多くの女性に巧妙に取り入り、身体を奪い薬漬けにしていた。金が払えなくなると娼婦館に売るのがいつもの手口。ラウルのことは知らず、家にいない男と認識していた。半年不在でなければ、寝取り中に遭遇した可能性もあるが、どちらにしても結果に大差はない。レティシアに手を出したことが運の尽きだった。