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第四話 霊長類最強の男、SSS級を超越したクラスに分類され、その後金髪エルフに誘われる








 登録が終わり、晴れて冒険者となったアラガミは早速レガシーの討伐依頼がないかと尋ねた。

 アラガミは職務に忠実な男である。

「せっかく異世界に来たんだし自由に楽しまなきゃ~」的な遊び心は存在しない。

 彼は権利よりも義務を優先する男なのだ。



「申し訳ありませんアラガミ様。レガシー討伐は最低でもランク8以上の冒険者でなければ受注できない決まりになっておりまして」



 ギルド職員のミソワが言うには、この世界最大の脅威であるレガシーから半端な冒険者を守るための措置らしい。



「レガシーはS級以上の能力値を持った冒険者ですら容易に屠ります。ましてや駆けだしの冒険者ではとても歯が立ちません。貴重な人材を守るための当ギルドの配慮をどうかご理解下さい」

「つまり冒険者としての実績を積めということだな」

「はい。アラガミさんの場合ランクさえあれば後は問題ないので(・・・・・・)



 実のところレガシーの討伐には二つの条件がある。

 一つは冒険者ランクと呼ばれる社会的な実績。

 そしてもう一つはステータスと呼ばれる実際の能力値だ。

 

 冒険者ランクがその冒険者がどれだけの実務経験を積んでいるかを示しているのに対し、ステータスはギルドの特殊な計測装置によって数値化された冒険者の実力を表している。

 冒険者ランクは十三段階の格付けで出来ており、ステータスはG級からSSS級までの十段階によって構成されているとミソワは登録の際に説明してくれた。


 そしてその丁寧な応対は、計測器によってアラガミのステータスが最大レベルのSSS級よりも更に上の領域(・・・・・・)にあるとわかった後も一切変わっていない。

 取り乱すわけでも露骨に媚びるわけでもなく、彼女は粛々とアラガミの異常過ぎる能力値を受け入れ、そして今もこうして真摯に対応してくれているのだ。

 アラガミは彼女のプロ意識に深く敬服し、今後何かあれば彼女を頼ろうと決めるのだった。






 ひとまずランク8を目指すことにしたアラガミは効率的にランクを上げることの出来る依頼を探すことにした。

 冒険者ランクを上げるために必要とされる冒険者ポイントは、依頼の難易度に比例して高まるということをミソワが教えてくれた。



「ただしクエストには適正ランク条件というものが存在し、適正ランクより下のランクの冒険者はそのクエストを単独で受注することが出来ません。現在アラガミ様のランクは1の為、始めの内は駆け出し冒険者用の依頼を受けてもらうことになります」



 ミソワに用意してもらったランク一用の依頼書を見てみたが、下水道の修理や薬草の採取等が主であり、ポイントの効率はあまり良くなかった。



「これらの依頼をこなしたとしてランク2にはどれくらいの早さで上がる?」

「そうですね……ランク1の依頼を毎日一つずつこなしたと仮定すれば、大体二ヶ月程でランク2に上がるだけのポイントが確保できると思います」



 あくまでもソロ活動の場合の話ですが、と補足するミソワ。

 中々シビアな道のりの様だ。



「一般的に駆け出しがランク8まで上がるのに要する時間は?」

「才能のあるもので数年、凡庸な冒険者では十年以上かかることも珍しくありません」



 アラガミはランク8の冒険者へ至るための道のりがとても遠い事を理解した。

 


「ランクを効率的に上げる方法はないか?」

「上級冒険者のパーティに入れてもらい、上のランクのクエストを受けるというやり方がオススメです。パーティの参加者としてなら自分のランクより二つ上のクエストまで受注することが出来ますので」



 ただし成功報酬はギルド側での査定を基に相応のレベルまで割り引かれるらしい。強いパーティに寄生して不当にランクを上げる者を防ぐためだとミソワが補足してくれた。



「勿論、相応の活躍をした方には例え下のランクであろうと適正な報酬をお渡ししております。基本的には本人の貢献度がそのクエストにおいてどの程度の割合を占めていたのかを精査し、基準値を満たせばランク相応の報酬が貰えると考えて下さい」

「成る程」


 ミソワの話を聞き、アラガミはランク上げの方針を固めた。








「ねぇアンタ、パーティの相手を探してるでしょ?」




 上級者パーティを探す決意をしたアラガミの前にその少女が現れたのは、ミソワと別れて直ぐの事だった。

 冒険者ギルド一階の飲食フロアで鴨肉のローストを十人前ほど平らげていたアラガミの前に現れたの金髪ロングの美少女。彼女の美貌と長く特徴的な耳からアラガミは少女がエルフであると認識した。



「ミソワさんとの会話を小耳に挟んだのよ。あっ、ここいい?」


 構わないと首肯し、アラガミは金髪エルフの相席を許可した。




「ありがと。私の名前はティルフィーゼ・ティタニエル・ティリス。長いからティーでいいわ」

荒神王鍵(あらがみおうけん)だ。本日づけで冒険者を始めた」



 軽い握手を交わし、エールを一杯頼んだ後ティーは「早速だけど」と話を切り出した。



「ランク3から受けられて、しかも上手くいけばランク5以上の報酬が獲得できるクエストがあるんだけど興味ない?」



 それは降って湧いて来たようなうまい話だった。ランク1の駆け出しでも受けられて、上手くいけばランク5相応の報酬を獲得できるというのは破格の条件である。効率的なランク上げを望むアラガミにとっては正に渡りに船のクエストだ。



「話がうますぎるな。そんな効率の良いクエストなら駆け出し冒険者の俺に声をかけずにお前一人で独占すればいいだろう」

「それがそうもいかないのよねぇ。何せこのクエストは幾つものパーティが合同で参加しなければならないのよ」



 聞けばティーはランク5に成り立ての中級冒険者で、これまでほとんどソロでクエストをこなしていたのだという。



「たまに他のパーティに混ぜてもらったりはしてたけど、基本的にはソロで活動していたわ。だってソロの方が儲かるんですもの」



 だがランク5に上がり、中級冒険者に昇格した事でティーは一つの壁にぶつかったそうだ。



「ランク5以上になってくると依頼の難易度が跳ね上がってね……ちょっと一人で依頼をこなすのが難しくなってきたのよ」



 そして中々依頼が達成できず悩んでいたティーの所に舞い降りたのが今回の依頼だったそうだ。



「たださっきも言った通りそのクエストはパーティ単位での依頼でね。依頼人の申し出でソロで受注する事が出来ないのよ」



 折角見つけたおいしい話に潜んでいた落とし穴。基本ソロでの活動をメインとしていたティーがどうしようかと思案していた時に



「たまたまアンタの姿が目に留まったのよアラガミ」



 駆け出し冒険者でありながら、ただならぬ雰囲気を持つアラガミの姿にティーはビビッと来たのだという。



「アンタ相当強いでしょ。見ればわかるわ。その身体見る限りB級かA級レベルは固くないわね! どう、当たってる?」

「……参考までに聞きたいのだが、A級というのはどの程度のステータスを指すんだ?」

「そうねぇ。大体ランク8か9の依頼が達成できるレベルかしら」

「ならば大体A級だ」


 実際は最高位のSSS級より上の領域と診断されたアラガミであったが、余計ないざこざを防ぐためにしれっと嘘をつくのだった。



「やっぱりね! 一目見た時からタダものじゃないと思ってたのよ。やっぱり私の目に狂いはないわね!」



 自分の予測が当たったと喜ぶティー。その観察眼は驚く程ぽんこつであると露呈したわけだが、故にアラガミは彼女を信用する事にした。

 仮に彼女が何らかの騙し打ちを仕掛けてきたとしてもこのぽんこつぶりなら問題ないと判断したのだ。


「わかった。パーティを組もう。ティー」

「ホント!? やったぁ! 感謝するわアラガミ! これで激レアクエストに参加できるわ」



 アラガミがパーティ加入に気を良くしたティーは、早速「激レアクエスト」の詳細を話してくれた。





「依頼の内容は『古城調査』。とある曰くつきのお城を手分けして探索する仕事よ」

「遺跡調査のようなものか」

「そうね。最近見つかった古いお城――――なんか変な言い回しよね――――を探索するだけだから本来ならランク1~2くらいの仕事なんだけど立地が立地だけにギルド側も警戒しているんでしょうね」



 含みありげに語るティーにアラガミは「どういう事だ」と尋ねた。




「依頼の城がある場所はラトンルシアニヴァ。ランテスから馬車で三日ほど走った先にある葡萄の産地よ。そしてあの有名な『吸血妃』伝説の舞台でもある」

「吸血妃?」

「勇者殺しの吸血妃よ。知らないの? 五百年前、当時の魔王を倒してファスト王国へ帰る途中だった勇者が何者かに全身の血を抜かれて死んだって事件よ」



 何とも物騒な事件である。しかしそれが今回の依頼とどう関係があるのだろうか。



「生前勇者が立ちよった最後の村がラトンルシアニヴァにあるのよ。記録によると彼はそこでとても奇妙な事を言っていたそうなの。『今夜は近くの城に泊る。あの美しい女性に会いに行くんだ』ってね」

「城の女性と一夜を共にしたいと言っただけに聞こえるが」


 アラガミの疑問にティーは首を横に振って答えた。ちょっとドヤ顔だった。



「それがこの話の肝なのよ。いいことアラガミ、ラトンルシアニヴァにはね当時も今も城なんて呼べる建物は存在しないのよ(・・・・・・・)



 彼女の説明によればラトンルシアニヴァの領主は、代々質素倹約を信条としており、住んでいる館もとても城と呼べるほど豪奢ではないのだそうだ。



「それに勇者が死後発見された場所は、領主の館から遠く離れた森の奥深く。……何もない場所で彼は全身の血を抜かれ殺されていたの」



 そしてその場所の近辺で最近発見されたのが今回の古城なのだそうだ。




「場所が場所だけにもしかしてって可能性があるわけよ。だからソロ禁止な上に複数のパーティで調査するっていう厳戒態勢なわけ」



 まぁどうせ吸血妃伝説なんて嘘っぱちでしょうけどと高笑いするティーを見てアラガミは成る程と得心のいった顔で頷いた。



「これが死亡フラグというやつか」

「ふらぐ? 何それ」

「なんでもない。そうならないように俺が細心の注意を払おう」

「あっ、うん。慎重なのは良い事ね!」



 こうして霊長類最強の男は、ぽんこつエルフと共に初めてのクエストへ旅立つ事になったのである。




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