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第一話 霊長類最強の男、異世界進出を果たす




 荒神王鍵(あらがみおうけん)が自宅のドアを開けると、そこは見知らぬ真っ白な空間であった。

 白、白、白。家具どころか、部屋そのものが綺麗さっぱり消えていて、見渡す限り何もない。

 振り返ると後方の空間もドアごと消失していた。

 四方八方その全てが見知らぬ空間へと変貌している。



「…………」



 アラガミは黙したまま、その二メートル五十センチを越える巨躯を前進させる。

 自宅が謎空間へと変貌しているというのに恐ろしい程冷静な男である。




「おぉーい、兄ちゃん、こっちじゃこっち」




 しばらくアラガミが漂白された自宅を歩いていると、ふとしわがれた声が聞こえてきた。

 彼が声の方へ視線を寄せると、そこには白い髭をたくわえた老人が朗らかな顔で手を振っている。

 アラガミは筋肉の要塞の様な身体を動かしてその老人の側に近づいていき、彼の目の前に腰を下ろした。




「目的はなんだ?」



 空間に響き渡る貫禄あふれた重低音に老人は満足そうに笑みを浮かべた。



「直球じゃのォ。ここはドコとか、ワシは誰とかそういうのに興味ないんかい?」

「必要ない。俺はここを出られるのであればそれで構わない。条件を言ってくれ。こちらは可能な限り条件を飲む腹積もりだ」



 出会い頭のたった二言で、質問と要求、そして自身の交渉カードの提示を手早く済ませるアラガミ。

 そこには一切の無駄を嫌う彼の性質が如実に表れていた。




「コッコッコ。部下の話では人間というのは、こういう非常事態に恐慌じみた反応を示すとの事じゃったがお主恐ろしい程冷静じゃのう。いやはやこちらとしては話がスムーズに進んで助かるのじゃが、せめて自己紹介ぐらいはさせてくれんか?」

「構わない」

「ありがとよ兄ちゃん。ワシの名前はグランギエータ、おまえさんが世界とは別の世界で創造神なぞと呼ばれている者じゃ」



 創造神という常軌を逸した非日常ワード。

 しかしこれを受けたアラガミはあっさりとその言葉を飲み込み



「成程。つまりこれは異世界転生モノの転生前の面接という事か。わかった。アンタの世界に転生しよう。こちらの理想としては転移であるとありがたいのだが、無理であるのなら贅沢は言わん」



 顔色一つ変えずに恭順した。



「んえっ!? えっお主ちょっと理解するのが早すぎない? 普通、神とか名乗られたら驚いたり疑ったりしない?」




 逆に驚く側に回ってしまった老人グランギエータをよそにアラガミはあくまで淡々と口を動かしていく。




「突然自宅ごと謎の空間へ拉致されたんだ。原理も手段もわからない以上、超常の存在と定義した方が簡潔だ。そしてこのような展開から始まる若者向け異世界小説を書く友人と知り合いなものでな。これからの展開もおおよそ見当がつく」

「あっ、いや、まぁ、その通りなんじゃが…………凄いなお前さん。のみ込み早すぎじゃろ」



 早すぎて若干引きかけたグランギエータだったが、なんとか咳払い一つで心を落ち着けた。

 


「……お前さんの言うとおりじゃ。ワシがお前さんを呼び出したのは他でもない、ちょいとお前さんの力でワシらの世界助けて欲しいのじゃ――――こちらの世界で『霊長類最強』と称えられとるお前さんの力でのう」



 

 霊長類最強。

 プロアマ問わずあらゆる格闘技の無差別級で頂点を取り、果てはシャチやライオンなどの大型の肉食動物を素手で制圧したアラガミにつけられた称号の様なものだ。

 彼自身はこのような大仰なあだ名は好きではないのだが、周囲の人間が好んで彼をそう呼ぶので仕方なく認めている。




「助ける、というのは具体的に何をすればいい? 魔王と呼ばれる独裁者でも倒せばいいのか?」

「魔王はいるにはいるんじゃが、別に彼奴は無視してもええ。 お主に頼みたいのは『残怪物(レガシー)』と呼ばれる存在の討伐じゃ」




 グランギエータはその後『残怪物(レガシー)』についての詳細を語りだした。


 曰く、レガシーとは異世界転生者のなれの果てであるらしい。

 

 グランギエータの創り出した世界は、多数の神とその眷族によって運営されており、昔から神々(おのおの)神々(おのおの)の都合で好き勝手やっていたそうだ。

 彼らは自分達の主義や理想を叶えるべく、異世界の人間を招き入れては神の力を授け、代行者として世界の理を捻じ曲げたという。




「じゃが神の力というものは、やはり人の身には重いらしくてのォ。増長する者、堕落する者、衝動に支配される者――――まぁ平たく言って力に溺れる者が続出したんじゃい」




 そしてそのように力に溺れた者の末路がレガシーなのだとグランギエータは言った。




「レガシーっちゅうのはそうやって神の力に溺れちまった人間が、その死後怨念と化して神々の力と融合したような存在じゃ。自我を持ち、モンスター化した神々の力とも呼ぶべきモノでのう。今ワシらの世界では、そいつらの存在が大問題になっとるんじゃ」

「成程。つまり俺は転生者と同化した神の力を回収し、同時に世界の秩序を取り戻せばいいのだな」

「あっ、うん。そうじゃ」



 一々飲み込みの早い霊長類最強の男に、さしもの創造神もちょっと引き気味である。



「ちなみに一応聞くが俺がアンタの申し出を拒否した場合どうなる?」

「申し訳ないが、お前さんが首を縦に振るまでここでワシに付き合ってもらう事になる」

「だろうな」




 異世界とはいえ、神と呼ばれる超常の存在の申し出だ。

 元よりアラガミ側に拒否権がないのは彼も重々承知していたので、続く言葉で異世界で謎の怪物と戦う事を了承した。




「わかった。アンタの申し出を受けよう。しかし一つ疑問がある。何故アンタ達自ら出向いてそのレガシーとやらを討伐しない? 軟弱な人間に任せるよりもよっぽど確実だろう?」

「残念ながらそういうわけにはいかんのじゃ。ワシらは自分達の世界に直接介入することを深く禁じておる。じゃから彼奴らは自分の力を異世界の者に分け与え、転生させたのじゃ」




 それにのう、とグランギエータは気まずそうに頬をかきながら言う。



「多くの神々は転生者に力を分け与え過ぎて、弱体化しとるんじゃ。じゃから直接出向いた所であんまり力にならん」



 自業自得、という言葉がアラガミの脳裏に浮かんだ。




「まぁ大方の事情は理解した。それで俺はこれからどうすればいい?」

「うむ。お主の了承を得た以上、早速ワシらの世界に出向いてもらう――――と言いたい所じゃが、その前にワシからお主へ授け物がある」



 そう言ってグランギエータは茶目っ気たっぷりにウインクして見せた。



「さぁさ、お待ちかねの転生転移特典(ギフト)の時間じゃ!」







第一章は毎日更新させて頂きます。また、初回の本日は三話まで投稿させて頂きます。

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