5.サラの正体
城から脱出したサラとココオンは城のすぐ外にある幻獣の森に降り立った。正確には落ちた、というべきか。急に魔法効果が切れたかのように幻獣の森上空に入った途端2人の体は落ちていったのだった。
けれど幸いなことに落ち葉と柔らかい腐葉土がクッションとなることで大きな傷はなく、せいぜいかすり傷がいくつかできたくらいで済んだ。
「やっぱりこのわたしでも『魔法が使えない空間』のこの森で飛ぶのは無理か。これから…とりあえず公爵邸に向かうべきか。ココオンを他の公爵に合わせなきゃいけないしね。でもどうしよう、この姿じゃココオン運べないし…緊急事態かな、仕方ない」
独り言をつぶやくサラ。その目線の先には地面に横たわるココオンがいる。サラに気絶させられたココオンの目は固く閉ざされ、当分の間は開くことはないだろう。
「ごめんね、ココオン。父親の死に立ち会わせてあげられなくて。でも、わたしは言いつけを守らなかったことを後悔することを知ってるんだ」
その目は限りなく優しく、遠いいつかを思い出すものだった。
「お、みーっけ!こいつらかなぁ?雇い主サマに言われたヤツらはぁ?」
「っ誰だ!」
突然の背後からの声に驚き、振り向く。
そこにいたのはガラの悪そうな男6人だった。その顔は醜悪な笑みが浮かび一歩、また一歩と2人に近づいてきていた。
(見たところ追っ手…?王さまと公爵を殺し操った犯人に雇われたの?ならば話を聞き出すことは無理か…)
「ねえ、追っ手諸君?この子はアコルデ公爵でこの私の契約者だってわかってやっているの?」
「はっ、そんなの当然じゃねぇか。てめぇも見た所せいぜい最下級の雑魚精霊じゃねぇかよ。なにを偉そうに」
「偉いからね、わたしは」
サラは大きな赤い石がついたイヤリングに手を触れ、それを取り外した。
その瞬間あたり一帯に灼熱の魔力の奔流が巻き起こり、温度が一気に上昇する。
サラの周りは炎が渦巻き、それが晴れ現れたのは18歳ほどに見える美しい女性だった。
燃えるように紅い髪はポニーテールにされている。同色の少しつり上がった目は爛々と光っていて、これまた紅いマーメイドドレスを美しく着こなしている。
後ろでは大きなコウモリのような翼とドラゴンのような鱗のついた尻尾が揺れている。
「なっ…どういうことだ?!」
「その色、大きさ、翼に尻尾。まさか!」
「あら、1人わたしのことをよく知ってる人が。その通り」
ふふふ、と上品に笑うその女性はとても美しくまたとても恐ろしかった。
「この姿ではお初にお目にかかります。サラ改めサラマンダー。大精霊が1人、火の大精霊です」
サラが普段つけているピアスはその溢れ出る魔力を喰らうもの。
精霊とは魔法から成る存在。だからその魔力の量で大きさは変化する。
当然、精霊の頂点たる大精霊となれば超膨大な魔力を所持する。しかし魔力を常時とんでもないような勢い、それこそ常に世界から大陸ひとつなくなるほどの魔法を行使し続ければその大きさは保てなくなり小さくなる。サラは常にその状態で自分の正体とその能力を隠し続けてきた。
けれど、ピアスを取り外してしまえばそこにいるのは低級精霊ではなく大精霊。炎の支配者にして絶対的強者。
「契約者を守るために隠した正体を契約者を守るために晒すなんて笑えるけれどね。まあ気絶しちゃってるけど」
背後で未だ目を固く閉じているココオンを一瞥し、再び追っ手と向かい合う。
「大精霊様の契約者を殺そうとしたんだ。当然その覚悟はできてるんだよね?」
「ひいっ、お前はだれだ!ここはどこだ!」
「すっとぼけようったって無駄」
困惑したような表情の追手に、あまりにも冷たい目を向ける。
「後悔させてあげるー『業火の悪夢』」
サラマンダーが右手を突き出し放った魔法は悪夢系統の魔法。
人が行使できる魔法の中では最高難易度である悪夢系統魔法は大精霊にとっては容易いもので、爆炎は森を焼き尽くす。
「せいぜいこの炎獄の中で苦しむといいよ」
そう最後にいい、サラはココオンを抱きかかえ、翼を広げて空に飛び立った。
週2更新は無理という事がわかった週末の昼下がりでした。




