3.初の夕食
「自己紹介も済んだところですし、ご夕食にいきません?ちょうど食堂が開いた頃ですわ」
気づけば時刻は5ノ刻。少々早いが食堂はこの時間から空いているらしく、混雑を避けるためにも夕食に行くことにした。
「ここのご飯はビュッフェスタイルでとてもおいしくてびっくりしました…」
「さすが天下の学園といったところか、お金の使い方がえらい贅沢やなぁと思ったわ」
「それはいいね」
そもそも今世、公爵令嬢という立場のせいで他人と一緒にご飯を食べるというのに疎かったから楽しみだ。
食堂に着くと、すでに結構人が入っていて、様々な種類のカラフルな衣装が目を楽しませる。というのも、学園には制服がない。それは世界中から生徒が集まるので服を指定するといらぬ軋轢を生むかららしい。実際、私は軍服、桜さんは袴っぽいもの、シルディさんはお腹の出た服、キリエさんなんて黒のエンパイアラインのドレスを着ている。エリナさんは普通のワンピースだけれど。
料理も同様出身地の配慮のためか相当数の種類が所狭しに並んでいて、どれもこれもいい匂いを漂わせている。
公爵令嬢の私でさえも見たことのないような料理。だめだどれもこれも美味しそう…。
「すごい豪華だね」
「本物の貴族ですら豪華と認める…ものすごいですね、学園は」
改めて感心したようにシルディさんがうなずく。
そうこうしている間にも席は埋まり始め、あわてて席を取ったあと、各々料理をとってこようと食堂内を見て回ることになった。
「ココオン!あのルーテシア風ミートパイ取って」
「え、サラも食べるの?」
「わたしだって生き物なんだから食べ物食べないと死ぬよ。ほらほら、はーやーくー」
「あーもー、わかったから」
なんてサラのわがままもありつつも色々と取り、両手がいっぱいになったところで席に戻る。
「ココオンさん、随分と持ってきはったなぁ」
「ほとんど私じゃなくてサラのだけどね」
「ルーテシア料理が随分と多いですわね」
「あ、確かに」
言われてみればサラに指定された料理は全てルーテシア料理。ルーテシアは精霊と親和性が高い国だと聞く。だからサラも好きなのかなぁ。
全員が揃い、食べ始めて少し経った頃、そうだわ!とキラキラした目でエリナさんが提案をしてきた。
「親睦を深めるためにも呼び捨てで呼び合いませんこと?わたくし憧れていましたの」
「いいね、これから3年間同じメンバーでやるわけだし」
と、一も二もなく賛成し、私たちは呼び捨てで呼び合うことにした。
けれどシルディアは『呼び捨てで呼ぶのは慣れていないので僕はさん付けさせてください』と言っていたけれど。
「アコルデのネームバリューに忘れてましたが、ココオンはまだ11歳なんですのね」
「あ、はい。つい先月誕生日を迎えたばかりで」
「精霊もすでに召喚したと。学園の二年次で習うと記憶しているんやけどなぁ…」
「ああ、それは友達がいないぼっちココオンが寂しくて呼び出したんだよね」
「サラ黙ってて!…まあ、話し相手が欲しくて精霊召喚しようとリルラ家に押しかけたことはあります」
「リルラ家?魔法特化の公爵家ですわよね?交流関係も豪華ですのね…」
話終了。シン、としたなんとも気まずい雰囲気がただよう。
…えっと、話題を提供しないと。
「キリエ、幽鬼族について教えてくれない?何も知らないから」
「幽鬼族は多分、世界中のどの種族より見た目が多種多様。共通しているのはツノがあることだけど…その形だって千差万別」
「確かに!キリエさんには立派な二本のツノがありますね」
「幽鬼族の祖先は魔物。私のルーツはオニ。幽鬼族の中でも特に立派なツノ」
魔物は魔力を持った生物のことを指す。大義的には人間だって魔物だ。
「幽鬼族って結構獣人族と似ているんですね。僕たちはただの動物からの進化ですから魔力は持っていませんけど」
「獣人族って魔力の代わりに妖力ってのを持ってるって聞いたんだけどほんと?」
「それは三幻獣人族っちゅう3つの種族だけや」
「桜さん…?!」
突然慌てたようなシルディを不思議に思ったが、とうの桜はニコニコしている。まあずっと笑っているけれど。
……話が続かない。というか話題がない。
今日知り合ったばかりだし、当然なのかもしれないけど気まずいものは気まずい。
「…明日も早いし、もう部屋に帰る?」
「せやな」
なんて、夕食は終了。
…これ、仲良くなれるかなあ。
部屋に戻った後も、リビングスペースでゆっくりおしゃべり、なんてことはなく全員速攻で自室に引きこもった。
この学園の寮の部屋は月に一度行われる試験により決定され、合計点数が高い順に学年クラス一切関係なく順位が割り振られる。その順位により部屋の規模やクラスが変動するのだ。新入生は入学試験で決定されるとか。2年生、3年生は学術試験の点数にそれぞれ1.1倍、1.2倍。実技試験は全学年共通の基準で行われるため学年が上の方が有利だ。
ちなみに、行事などでいい成績を残すと加点もされるらしく生徒たちは己の待遇を良くしようと必死だという。
私の部屋、1年女子1班は現在60部屋中第11位。3番目にいい部屋を与えられていて、小さいものの1人1部屋の個室もある。新入生で11位は史上初の快挙だと言われた。
とりあえず荷物整理をと思いトランクケースを広げるも、そもそもの荷物が少ないのであっという間に終わった。
ベットに転がると、いつもとあまりに違う感触に「ああ、違うところに来たんだ」という実感が立ち込め私の心を不安にさせる。
「サラ、ほんとにここで前国王陛下が操られた原因がわかるのかな」
「知らないよ、そんなの。とりあえずは楽しめばいいじゃん」
「…そうだね」
空には赤い月が見下ろすかのように輝いていた。
***
「桜さん!なぜ夕飯の時三幻獣人族なんて単語をわざわざ出したんですか」
「なんでって…流れを見て言わへんとおかしかったからや」
「だからってうまく誤魔化す方法はありますよね?!」
「細かいなぁ。そんなこと言うたらシルディやってわざわざ狼なんて訂正してたやんか」
「それは…他の人狼族の毛色はグレーでそこまで差があるわけじゃないですし」
「はっ、そんなの目を見れば1発やん。そのエメラルドグリーンの目、世界で1番綺麗なんて言われてる目は銀狼族しか持たへんよ?」
「それを言ったら桜さんだって、通常の狐人族がアコルデ家より武術試験において上だなんて不自然にも程があります。本来狐人族は戦闘を得意としていない、それころ九尾の狐でもない限り」
「…はっ、他の人らが獣人に疎いことを祈るばかりやなぁ」
「そう…ですね」
お読みいただきありがとうございました
下記より評価を入れていただけると励みになります、よろしくお願いします