9.即位式
遅くなってごめんなさい
普段でも華やかな王宮は今日、より一層煌びやかに飾り立てられ、大広間では大勢の客が静かにその時を待っていた。
今日は即位式。ヴィルヘル・ターナ・システル殿下がシステル王国の国王となる日。
公爵家当主として、そして王位を『授ける』者として出席している私は、先日の三公会議の一幕を思い出していた。
***
「やるべきことのもう一つ、何かわかるよな?アコルデ公爵」
そのワーファ公爵の問いに間髪入れずに答えた。
「この一連の事件を起こした犯人を見つけ出すこと。王と公爵を殺し、システルの平穏を乱した犯人を必ず捕まえねばならない」
頷くワーファ公爵にホッと息をなでおろす。
どうやら正解だったらしい。
「手がかりはほとんどないに等しいですがね。まるでヒトではないかのような手口。幻術が使われたと聞きますが、魔力の痕跡が一切ない。本来魔法を行使したらその痕跡は必ず残るもの。それがまったくないだなんて…正直、私をも上回る実力を持っているとしか思えません」
悔しそうな顔をしてリルラ公爵は言った。
「じゃあ…どうすればいいんですか?」
そういうと、なぜかワーファ公爵はニヤリと笑った。
「アコルデ公爵、学園に行け」
「え…学園?なぜです?」
唐突すぎてわたしの頭の中は疑問符だらけだ。
学園とは『世界特別教育学園』の通称。15歳以下の世界中全ての者に受験資格が与えられ、唯一世界中の国が共同で運営する学校だ。
在学期間は3年で、1学年の定員は男子50人女子50人の計100人。卒業すればそれだけで最高のステータスとなる。長子存続が絶対である我がシステル王国にはあまり関係がないが、他国では後継者争いにおいて一手有利になるとも聞く。
「オレのスキルは『真実への道』。知りたい真実を知る方法を教えてくれる。それによるとアコルデ公爵が次の試験に女子5位以内で合格し、入学することでこの事件の犯人がわかるらしい」
「入学試験は毎年9ノ月のはじめに行われますから、試験まであと2ヶ月ですね。頑張ってください」
「5番以内…それって1班に入れってことですか?15歳ならともかくとして私まだ10歳ですよ」
学園では男女別の成績順で上から5人ずつ班がつくられる。
班員は寮の同室メンバーになり、卒業まで変わることはない。
3年間もの間寝食を共にすることで一生続く縁になると聞く。
「何言っているんだ。一月後の8ノ月には11歳だろう」
「誤差の範囲じゃないですかね?!」
「まあ、私もワーファ公爵も12歳の時に主席入学しましたし。受験科目は基礎学力を問う筆記試験と武力を問う実技試験。アコルデ公爵なら実技試験で圧倒的な点数を叩き出せますし筆記がどうにかなればいけますよ」
「応援はしてるぜ。なんせオレたちはジークとエレステアの仇を取らなきゃならねぇんだからな」
その言葉にハッとした。
そうだ、お父様のためにも。さらなる悲劇を防げためにも私は頑張らなければいけない。どうにかしなければいけないと言っている。
***
時は戻って戴冠式。
王宮付き楽団のトランペットが高らかと響き、ザワザワとしていた会場がシンと静まり返った。
ヴィルヘル殿下入場の合図だ。
場はこれまでにないほど張り詰めていて、物音1つたてることを許されないような、そんな雰囲気が立ち込めている。
大扉がゆっくりと開き、青年が姿を見せた。
黒い髪に紫の目、少し尖った耳を持つ見目麗しいその人は正装に身を包みゆったりとカーペットの上を歩く。
ドワーフ族の黒髪、エルフ族の尖耳、そして貴族の紫目。三公爵の特徴を全て備えるのは王族の証。
即ち、彼こそがヴィルヘル殿下。
悠然と歩く姿はすでに王者のもので、堂々としている。
そして、ついには玉座前にいる私たちの前に来た。
小さく息を吐き、ヴィルヘル殿下に顔を向ける。
作法に則り『精霊剣アコルデ』をブレードモードにし、切っ先を床に向けながら私は問いかけた。
「三公爵が1人、ココオン・フォン・アコルデが問う。汝、国と民を守る為にその身を捧げると誓うか」
「誓おう」
次に言うのはリルラ公爵。
私同様、家宝の『神杖リルラ』をゴンっと床に叩きつけ問いかける。
「三公爵が1人、ユリウス・フォン・リルラが問う。汝、国と民の発展のためにその身を捧げると誓うか」
「誓おう」
最後はワーファ公爵だ。
『神器 時空の懐中時計』を首からかけた小さな公爵は威厳のある声で問いかける。
「三公爵が1人、トール・フォン・ワーファが問う。汝、国と民を愛し共に生きると誓うか」
「誓おう」
公爵の問いに答えることでこれは『契約』、絶対に破れぬ誓いとなる。
この誓いをもって国王は承認される。
今度は三公爵は同時に宣言した。
「我らの名の下、ここに、システル王国第62国王
ヴィルヘル・ターナ・システル陛下の即位を宣言する!」
「「「ヴィルヘル陛下、万歳!」」」
「「「システル王国、万歳!」」」
貴族たちの万歳三唱が響き渡る。
新しい時代の幕開けを祝って。
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