プロローグ
長編連載です。毎週月曜日に私の力が続く限り連載したいと思っています。よろしくお願いします。
「お父様っ!」
たくさんの兵が目前に迫り、お父様は私の前に立って剣を握る。
このままだとお父様は死んでしまう。どんなに強くても数の力の前には勝ち目は薄い。
けれど、お父様は引かなかった。それどころか私に笑いかけた。
「お前は逃げてくれ…ココオン、いや真由美。『スキル 譲渡』」
その瞬間、私は全てを思い出した。
私はココオン・アコルデ。そして金倉真由美であり、日本からの転生者だと。
***
剣と魔法の世界、ジクルド。この世界は前世の価値観から言えばこう表現せざるを得ないような不思議に満ちている。
力を持つ言葉を発して魔法を使ったり、間に合えないほどの速さでの剣戟。それが日常のように行われている世界だ。
そして、種族も多種多様。地球の人たちと差がつかないような見た目の普通種、尖った耳を持ち魔法に長けるエルフ、獣の耳に尻尾を持つ運動能力の高い獣人、低い背と器用な手と高い知能が特徴のドワーフ。それ以外にもたくさんの種族が暮らしている。
その中でもここ、システル王国はヒト族の住まう国の中で最大の規模。広大な面積と強力な武力を持つこの国には三公爵家とよばれる3つの家があり、その家を中心にシステル王国は回っている。
武力を統括するアコルデ家、魔法の研究・進化に励むリルラ家、政治を主導するワーファ家。この三家の血を継ぎ意見を総括するという立ち位置で王家がある。だからこの国での公爵家当主は大きな権力を持ち、三家全ての同意があれば王の退位や王子王女の王位継承権剥奪さえ可能だった。
そんな三公爵が一角、『剣のアコルデ家』に私、ココオンは後継たる長子として生まれた。
物心つく前から鍛錬をはじめてもう7年。すでに騎士団では敵なし、唯一負けるのはお父様だけというところまで強くなった。
けれど私はそれが不満だった。
この世界にはスキル、と呼ばれる才能がある。
厳密に言えば各国の王侯貴族や名家に存在することの多い血縁関係によって代々受け継がれる『血継スキル』と、2つとして同じものはないとまで言われるほど多彩で世界中に1割ほどしか持つ人のいない『個人スキル』の2種類が存在する。なお、スキル持ちの親からはスキル持ちの子供が生まれやすいとあって庶民で弱いスキルしか持っていないとしても、将来は安泰だと言われている。
ちなみに我がアコルデ家も当然血継スキルを持っているが今は割愛。
そして個人スキル。お父様も私も持っているものだが能力は全く違う、
私の持っている個人スキルは『同時多重思考』。つまりは同時にたくさんのことを考えられるというもので、一手一手に対しものすごいスピードでたくさんの手とその対処を考えつける。
一方お父様の持つ個人スキルは『譲渡』。自分の持つ力を他人に譲渡する力。それは武力に直結することのない力で、それどころか使い道のないスキルだった。使うとしたら死ぬ間際くらいだ、とお父様はよくおっしゃっていた。
それなのに私はお父様に勝てたことはない。一本取ったことすらない。
そして今、お父様は私に全ての力を譲渡した。
…それは、お父様が自らの死を悟ったのと同義だった。
こんなことになった原因、お父様が私にスキルを使うような事態に陥った理由は数時間前に遡る。
くわしいスキル解説
アコルデの継承者
・使用武器性能200%UP
使用者が武器と認識したものの性能が200%上昇する
・超越せし武人
使用者が武器と認識したもの全てを使いこなすことができる
・精霊剣の主
精霊剣アコルデを使用することができる
多重思考
同時に物事をいくつも思考できる。分担して1つのことを超速的に思考することもできるがとても疲れる
譲渡
自らの持つ魔力とスキルを他人に譲渡できる