第8話 魔王の娘、ブラジャーを買う
電話でタクシーを呼んだ。ちょっと贅沢だが、なるべく人目を避けてデパートに行くためだ。
リジーに適当なサンダルを履かせ、部屋を出てエレベーターに向かう。ドラゴンはお留守番だ。
タクシーに乗ること30分。地元では有名な老舗デパートに着いた。
久しぶりに来た老舗デパート。
1階の化粧品フロアは中国からの買い物客でごった返していたが、エスカレーターで3F婦人服のフロアに行くと、閑古鳥が鳴いていた。1階の喧噪が嘘みたいだ。
とりあえず、奥の方にある下着コーナーへ俺たちは向かった。
「何かお探しでしょうか?」
初老のベテランぽい女性店員が話しかけてきた。
「この女の子にブラジャーを買ってあげたいんですけど」
「まあ、かわいい。外国の方ですか?」
女性店員が笑顔でリジーに話しかけた。
「うん、ディオロニス魔王国から来たの! お兄ちゃんの妹だよ! 名前はエリザベス!」
女性店員の眉が一瞬、動いた。どう見ても日本人の俺と、どう見ても西洋人のリジー。兄妹なわけない。おまけに魔王国から来たとか言っている。どう見てもおかしい。
だが、そこは老舗デパートのベテラン店員。笑顔のまま接客を続ける。
「まあ、エリザベスちゃん。外国からようこそ。お歳はいくつ?」
「15歳!」
「あら、15歳なの」
15歳にしては幼いよな。
「初めてのブラなのね? じゃあ、これなんかどうでしょう?」
さすがベテラン。リジーのつるぺたを見て、ブラが初めてと見抜いた。
ベテランさんは何種類ものおすすめブラを持ってきた。「わーい」と言って、リジーは試着室へと消えていった。
が、すぐに試着室のカーテンがしゃーっと開いた。
「ね、これどう?」
上半身ブラだけ娘が俺に向かって微笑んでいる。流石にエロい。
「おい、それじゃ試着室の意味ないだろ!」
慌ててカーテンを閉める俺。
「お兄さん大好きなんですね。お兄さんは日本の方ですか?」とベテラン店員。
日本人の妹が外国人というありえないシチュエーションをさらりと受け入れる。
そんなあんなで、気がついたらおすすめブラ全部を購入することになっていた。
これが老舗デパートのベテラン店員の実力か。
おすすめの高級ブラジャーを着用したリジーは、まな板からAカップに成長していた。
さすが高級ブラジャーだけのことはある。
リジーも胸が大きくなったことが嬉しいらしく、俺に胸を見せつけてきた。
「どう? 結構胸おっきいでしょ? レディの魅力たっぷりでしょ、お兄ちゃん。あ、胸触りたくなった? 駄目だからね!」
さっき下着姿を見せておきながら、触るのは駄目らしい。基準がよくわからん。
「あ、ああ。そうだな、魅力たっぷりだ。あと、胸には触らないから安心しろ」
その他必要な下着を購入した後、4Fヤングファッションのフロアへ移動した。普段着の購入である。
「あ、これかわいいな」
やや短めの、淡い水玉模様のワンピースを来たマネキンをリジーは指さしている。
「確かにかわいいが、ちょっと短すぎないか?」
「えー、これがいーよー、お兄ちゃん」
若い女性店員が近寄ってきた。
ジャージ姿の哀れな金髪ツインテールを見て多少驚いているようだが、なんとか平然と接客しようとしている。
「お兄さんと一緒に買い物ですか? 仲いいですねー」
「仲いいだってよ、お兄ちゃん! 朝はおっぱい触った触ってないで大喧嘩だったのにね!」
「おっぱい?」怪訝な顔の女性店員。
「いえ、こちらの話です」と俺。
女性店員はマネキンからワンピースを取り外し、リジーの元へ持ってきた。
「こちら、夏物の新作なんですけど、大人気で、もうこのサイズのものしか残ってないんですよ。ご試着になられますか?」
「するする! ご試着する!」
ぴょんぴょん跳ねながら、水玉のワンピースを受け取り、試着室へと飛び込んでいった。そして、それっきり出てこない。
「……着替えたなら、今度はカーテン開けていいんだぞ」
「そなの?」
と言って試着室からリジーが出てきた。
もともと丈が短いのに脚が長いもんだから、かなり脚が露出している。
幼児体型のくせに金髪で脚が長いので、外人の子供みたいだ。
「これ買っていい?」
「いいぞ」
「ありがと、お兄ちゃん! このまま着て帰っていいでしょ」
「もちろん」
リジーはそのままスタスタこっちにやって来た。俺は女性店員にこのままワンピースを着て帰るので、元々着ていたジャージを包んでくれるように依頼した。
「それ一着だと困るだろ。もう少し買って帰ろう。あと靴も必要だ」
「うん!」