第7話 よろしくね、お兄ちゃん! 2
「この世界のジャム美味しいね。牛乳は元の世界の方が美味しいかなー。ね、ドラちゃん?」
口の周りを牛乳で真っ白にしたドラゴンが「そだね」と返事する。
ところで、リジーは魔王の娘。強力な魔法が使えるそうじゃないか。よく考えたら、こいつが巨乳になって俺にエロエロ体験させてくれるのを待つ必要など無いのではないか?
男子高校生的に大歓迎な魔法とかあるんじゃないだろうか?
例えば「時間停止」。男子高校生、いや男性なら誰でも時間を止めることの素晴らしさがおわかりだろう。あんなことやこんなこと、男子高校生の凄い欲望がすべて叶う。
「なあリジー。ところで、お前は時間を止めたりできるのか?」
「いくら魔法でも、物理法則はねじ曲げられないよー」
リジーがケラケラと笑う。
「そう……なのか。まあ、そうかもな」
異世界転移とかやっといて、よくそんなことが言えるな。あれは物理法則に矛盾しないのか? ……矛盾しないんだろう。残念ながら俺は文系男子、生物選択だ。物理のことはよくわからん。
ならば、これはどうだ?
「そういえば、お前さ、人間の心を意のままに操作できるんだろ?」
「うん。お兄ちゃん以外ならね」
「じゃあ、例えばだ、ある人物に俺の言うことをなんでも聞け、という風にマインドコントロールできるよな?」
詳しくは言わない。男性の皆様ならおわかりであろう。他人を思いのままにコントロールできることの素晴らしさを。
「無理だよ」
は?
さっき、あれだけ見事に近所の奥さん連中をマインドコントロールしていたではないか!
「どうして無理なんだ、リジー?」
「私の魔法だから、私の言うことしか聞かないよ」
「だから、『お前は遠藤雄飛の言うことを何でも聞くように』ってリジーが魔法かければいいんじゃないのか?」
「そういうもんじゃないんだよね。詳しい理由知りたい? 初級魔方学のなかでもちょっと難しいところだから、説明するのに時間かかるけど」
「いや、いい……」
くそ。使えねえ。
男子高校生の欲望をかなえるような魔法、無いじゃないか。助けて損した。まあよい。もう少し(胸が)大きくなって、ナイスバディに育ったら、触りまくってやる。それまで我慢だ。まずは好きなだけ飯を食わせ、成長させよう。牛乳とかどんどん飲め。
「もう、ドラちゃんミルク飲みすぎ!」
足下でサッカーボールのようにまん丸になったドラゴンが「苦しーよー」といいながら横になっていた。
お前は別に育たなくて良い。そんなに牛乳飲むな。
「リジー、服を買いに行くぞ」
「これじゃだめなの?」
「ああ、ダメだ。お前くらいの年頃の女の子はそんな格好はしない。悪目立ちしすぎだ」
「そうかなあ」
なんだ、その服気に入っているのか。
だが、ノーブラかつジャージで生活したら、また特殊性癖な紳士に目をつけられてしまう。そうなれば、またもや紳士を異世界に追放する羽目に陥るだろう。
異世界の方でも、しょっちゅう変態、いや紳士が転送されるのは嬉しく無いはずだ。
「リジー、目立つのは良くないよ。追っ手に目を付けられやすくなる。ちゃんとこの世界のスタンダードな格好に着替えなくちゃ」
ひっくり返ったまま、ドラゴンがリジーに向かって言った。
「そうだね:
ドラゴンに言われてリジーは納得したらしい。
「よし、服を買いにデパートに行こう」
「デパート? なにそれ?」
リジーが首を傾げた。こいつ、結構何も知らないな。
「お店だ」
「ああ、お店ね。庶民が生きるために通わざるを得ないという、あの店ね」
……わかってんのかな、本当に。