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第4話 異世界魔王国からの来訪者 2

 リジーが語った内容は次の通りだ。


 リジーのいた世界では人間族の支配するキングスランドと魔族の支配するディオロニス魔王国が長いこと対立していた。


 かつては大規模な戦争にまで発展したこともあったが、ここ数百年は休戦状態が続いていたという。


 リジーの父にしてディオロニス魔王国の支配者、魔王ヴィルボ・ディオロニスは長年にわたる人間族と魔族の対立を終わらせるため、魔族として千年ぶりにキングスランドの王都へ行き、人間族の王と和平交渉を行った。


 恨みの連鎖を断ち切ることが必要という魔王ヴィルボの主張は人間族にも受け入れられ、ついに千年越しの完全なる和平が成立した。


 そして、和平の象徴として、魔王の娘であるリジーと、キングスランド王子との縁談の話が双方から同時にもち上がった。


 平和をもたらすロイヤルウェディング。一気に祝福ムードが高まり、ディオロニス魔王国・キングスランド双方で婚礼の準備が進んだ。


 だが、当事者のリジーは憂鬱だった。


 魔王国を継ぐのは王子である兄だ。女性に王位継承権はない。よって、魔王家の女性には職業選択の自由があった。


 リジーの夢はドラゴン・レースの騎手だった。


 ドラゴン・レース。魔王国で盛んな娯楽である。男女を問わず、誰もが幼い頃はドラゴン・レースの騎手に憧れる。リジーとて例外ではなかった。


「パパは、リジーがドラゴン・レースの騎手になることを認めてくれてたのに。突然ダメだって。人間の王子と結婚しろって。せっかく、卵からドラちゃん育てたのに!」


 リジーがドラゴンをぎゅっと抱きしめた。


「ドラちゃんと別れて、キングスランドになんか行くのやだ!」

「……で、この世界にドラゴンと一緒に逃げて来た、のか?」と俺は言った。


「それだけじゃないんだよ」ドラゴンが口を挟む。


「人間族の和平に反対する魔族がいてね。そいつら、リジーの命を狙っているんだ。リジーは魔王家の娘として魔法力は最強だから、そんな簡単に殺されたりはしないんだけどね」


「うん、別に身の危険は感じてなかったけど、そういう争いに巻き込まれるってことがうんざりだったの」


「で、どうやってこの世界に来たんだ。魔法か?」

 俺の質問にドラゴンが答えた。


「魔法でも異世界転移はできるんだけど、どんな異世界に行くかは運任せなんだ。元々は攻撃魔法だからね」


「攻撃魔法?」


「そう。どんな強力な敵でも、一瞬で異世界へ放出できるんだ。そのぶん、習得は難しいし、成功率も低いんだけどね」


「それで、魔導転送機(トランスフェル)を使ったの」


 今度はリジーが説明してくれた。


魔導転送機(トランスフェル)はね、異世界転移魔法を安全かつ希望通りに制御する機械。それだけじゃないよ、なんと、自分にかけることができるの」

「異世界転移の魔法は自分にはかけられないのか」

「うん。だって攻撃魔法だもん。全ての攻撃魔法は自分にかけることは不可能だよ」


 リジーが説明を続けた。


「大昔にね、魔族同士が戦った時代があったの。その時ディオロニス家のご先祖様が開発した究極の脱出装置が魔導転送機(トランスフェル)よ。言い伝えでは、魔導転送機(トランスフェル)が、とっても安全な異世界にディオロニス家を連れて行ってくれるってなっているわ」


「……その『とっても安全な異世界』ってのが、俺たちの世界だったということか」


「そう。この異世界、魔族がいないから人間族の対魔法攻撃力はゼロに等しいしね。でも、ドラゴン・レースが無いのは残念。あと、いきなり変態に胸触られて、とーっても残念!」


 リジーがあっかんべーをした。


「ひとつ聞いていいか?」

「なに?」

「さっきのご近所さんなんだが……みんな、お前のこと、俺の妹と信じて疑っていなかった。それどころか名前まで知っていた。なぜだ?」


 リジーは右手の中指の指輪を俺に見せた。


「この指輪のおかげよ。これはディオロニス家に伝わる指輪でね。強力な魔石の力で記憶をいじったりマインドコントロールしたりするの。効果が及ぶ範囲はそんなに広くないけど、時間は無制限なんだよ。で、あんたに私のお兄ちゃんとマインドコントロールして、こっちで生活するつもりのはずだったんだけど……」


「俺には効かなかった、と。そういうことだな」

「そ。おまけに胸触られた」

「だから、ごめんて。あと、突いただけだ」


 だいたいの事情は分かった。


 魔王の娘、エリザベス。15歳。金髪ロリ貧乳。


 夢はドラゴン・レースの騎手だった。


 なのに、ある日突然、政略結婚を父親から命じられた。


 まだ15歳なのに。


 突然奪われた夢と将来。


 絶望の中で、彼女が取った行動は、異世界への逃亡だった。


 相棒のドラゴンだけを連れて、身寄りのない異世界に逃げてきたのだ。


「……ほんとに悪いと思っている?」


「ああ」


「じゃあ、許してあげる。まー、たしかに、ほんのちょっと指が触れただけだったしね」


「そっか。ありがとな」


「でも、条件があるの。ここに住まわせて。で。妹ってことにしてくれるととても助かるの。ここ、特異点だから、どーしてもここに住みたいの」


 リジーが上目遣いで俺を見た。


「ただ、胸はもう触らないで」リジーがきっぱり言った。


「ボクからも、お願いするよ。迷惑は掛けないから」ドラゴンが言った。

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