第12話 魔王国へ
クリストファが話を続けた。
「予知魔法が使えるのは闇に囁く血統のみ。彼らが裏切ったとしか思えぬ」
「闇に囁く血統って何? ドラちゃん」リジーが聞く。
「ボクも知らないよ、リジー」ドラゴンが答える。
「知らないのも無理はない。予知魔法というあまりに強力な能力ゆえ、その存在は極秘にされているのだ。伝説では宇宙から飛来した異世界人が祖先という。独自の宗教を持ち、魔王の森奥深くで昔ながらの生活を守っている。歴代魔王は判断に迷うと、彼らの予知魔法で未来を見たのだ」
クリストファが変身魔法を解いた。天井に穴を開けないようにしゃがんでくれた。
「帰らねばならぬ。帰って、確かめなければな。闇に囁く血統が裏切ったのかどうかを」
クリストファがアスカとリジー、ドラゴンを交互に見た。
「父上が簡単に騙されるとは思えない。人間族の国王の嘘くらい、魔眼で見破れる。となれば、人間族の国王すら気がついていないところで大きな陰謀がすすんでいる可能性がある」
しゃがんだままのクリストファがリジーを見つめる。
「親善大使の話も考え直さないとな、リジー。危険だ」
「……そうだね。てか、親善大使もそんなにやりたくなかったし、ちょうど良いよ」
と笑うリジー。だが、目は真剣だ。
「クリスのことは、私が守るからね!」
アスカがクリストファにぴたっとくっつく。
「ねえ、なんでアスカは親愛なるクリストファお兄様を『クリス』って呼んでるの?」
野暮な質問するな、リジー。
「ふふ、なんででしょうね、リジー様」
意味深に笑うアスカ。
照れるクリストファ。
こいつら、俺たちが来るまでに、どこまで関係を深めたんだ?
「さ、魔王国へ帰るぞ。おっとその前にゲートを壊さないとな」
クリストファが呪文を唱える。ポン、と音がして机の引き出しから煙が出た。
「これでよし。さあ、帰ろう」
「待って、親愛なるクリスト……」
リジーが全てを言い終わらないうちにクリストファが異世界転移魔法をリジーとドラゴン、アスカにかけた。
「世話になったな、遠藤雄飛君」
「いえ、なんというか、その……それなりに楽しかったです」
「そうか。それはよかった。では、私も帰るとしよう。この体勢は肩が凝ってしょうがない」
クリストファが苦笑する。
「それじゃお元気で」
「ああ。君もな」
クリストファが右手を差し出す。
俺は握手しようとクリストファの右手を握ろうとした。
その時、クリストファの右手が光り出した。
正確には、彼の指輪だ。
「君の協力には本当に感謝しているんだよ。だがね、異世界人である君に、我々のことを知られては困るんだ。忘れてくれ。リジーのことも、アスカのことも、私のことも。もちろんカバデルの娘やキングスランドからの刺客のこともな」
柔らかい光が俺を包む。
「君の記憶からリジーのことを抹消すると言ったら、きっとリジーは反対しただろう。暴れて私を妨害したろう。だから、不意をついて魔王国へ送り返した。あいつは君のことが好きみたいだからな」
リジーが俺のことを?
「では、本当にさらばだ。勇敢なる遠藤雄飛君。君が私たちを忘れても、私たちは君を忘れない」
やがて光が視界の全てを覆った。
そして。
気がつくと。
そう。
俺は、全てを忘れていたんだ。
なにもかも。




