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第11話 次期魔王のクリストファ

 家に着いた。電気が付いている。鍵はかかっていなかった。


「ただいま」


 俺は玄関のドアを開けた。

 玄関のたたきに見知らぬ靴が二つあった。クリストファとアスカのものだろう。

 やはり二人は俺の家にいるのだ。


 俺の部屋から声が聞こえた。クリストファの声のようだ。


「ん? なんか妙だぞ?」


 確かにクリストファの声なのだが……なんと言うか……うめき声ぽい。


「大丈夫? 親愛なるクリストファお兄様!」

 リジーが靴を脱ぎ捨てる。廊下を走る。俺の部屋の扉を開けた。

「お兄様!」


「う! はう! んんん!」


 そこには、カーペットの上で横たわり悶絶するクリストファ――ただし姿はモブキャラ倉敷――と、そのすぐ横でとろけそうなほどの恍惚感に満ちた表情のアスカがいた。


 ……おまえら何やってんだ?


「ク、クリストファお兄様?」

 リジーは困惑している。リジーの存在に気がついたアスカが慌てて姿勢を正す。

 すると倉敷クリストファの悶絶がストップした。


「……親愛なるクリストファお兄様、何やってるの?」

「あ、ああ、それはだな……特訓だ」

「特訓?」


「はい、そうです。催淫攻撃への耐性をつけたいって、クリスが言うもんですから……」

 アスカが上気した顔で言った。

「ね、そうだよね、クリス?」

「お、おう」


 ……アスカさん、いつから「クリス」って呼んでいるんだ?


 ていうか、訓練? 違うだろ? そういう「プレイ」だろ?


 まったく、次期魔王、手が早いぜ。


「そっかー、催淫攻撃は慣れるしかないもんね」

 納得するリジー。

 納得するな。


「ところでクリストファさん、なんで人間の格好になっているんですか?」

「ああ、これか? 最初は元の姿だったんだが、狭苦しくてな。ほら、天井に穴があるだろ? 頭と角がぶつかってしょうが無くてな」


 確かに天井に穴が開いている。何カ所も。

 どうしてくれる。


「あのクリストファさん、これ、魔法で修理できないんですか?」

「分かってないなあ、人間君は! 飛翔魔法など一部の例外を除いて、魔法は同時に一つしか展開できない。天井に引っかかって慌てた私は変身魔法で完璧なる人間、倉敷翔太に変身した。すなわち現在変身魔法展開中。よって他の魔法は使えない!」


 眼鏡の位置をクイッと直し、得意げにクリストファが言った。

 なんでそんなに偉そうなんだ。次期魔王だからか。


「なら、アスカさん魔法で修理して下さい」

「……私、そういう魔法使えないんです」


 恥ずかしそうにアスカが答える。


「じゃあ、リジー……」

「もう直したよ」

 俺が言うより先にリジーが天井を直していた。


「おお、さすが我が妹。なかなかの魔法力だ」

 クリストファが褒める。リジーは嬉しそうだ。


「さて、遠藤雄飛君。私が君の家に立ち寄ったのは意味がある」

 クリストファがすくっと立ち上がる。そのまま俺の勉強机へ。

「この机、異世界と繋がっているな?」

 引き出しを指差してクリストファが言った。


「そういえばそうですね。その引き出しからラドアというか、変な人形が出てきました」


 クリストファが頷く。

「そう。彼らはリジーがいずれここに来ることを予想し、この部屋にゲートを設けた」

「そんなこと言ってましたね、ラドアも」

「……おかしいと思わないか?」

「何がですか?」


「確かに、おかしいよ」

 ドラゴンが言った。

「この場所が特異点だったのも、ユウヒに魔法力無効(キャンセレーション)固有技能(スキル)があったのも、ゲートから来た傀儡人形(マリオネット)による工作だったんだろ? ユウヒ」

「ああ」

「異世界ゲート設置、そして特異点の有効化は、どんなに急いでも10日はかかるはずなんだ。ボクとリジーがこっちの世界に来てからそんなには経ってないよね?」


「ん? どゆこと?」リジーが口を挟む。

「つまりね、ボクらがこの異世界に来ること、それもこの近辺に来ることをかなり早い段階で予想して、かなり早い段階で誰かがユウヒの部屋にゲートを作り、特異点を設置、ユウヒにブービートラップを仕掛けたんだ」


 クリストファの顔が険しい。


「どうしたの? 何か分かったの、親愛なるクリストファお兄様」


「……何者かが予知魔法を使ったとしか思えない。魔族に中に裏切り者がいるのだ。人間族に加担している」

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