第9話 元の世界に帰りましょう
それから小一時間。俺は放置された。
不安じゃなかったと言えば嘘になる……というか、すげー不安だった。生命体は俺以外誰もいないはずに時々物音がしたりして、その度に俺はびくっ、となった。
「ただいまー」
リジーの陽気な声がした。ドラゴンもデヴィも一緒だ。
「早かったな」
俺は強がってみた。
「いやーボクが送られた世界、凶暴な昆虫がたくさんいてね。結構面倒くさかったんだよ」
疲れ切った顔でドラゴンが言った。吐息が焦げ臭い。かなり火炎を吐いたようだ。
「大変だったよね、ドラちゃん。ずーっと火、吐いてたね」
「命に関わるわけじゃないけど、とにかく咬むんだよ」
ドラゴンが俺に言った。
「咬まれたところ、痒くて痒くて」
「だからね、私が魔法で治してあげたの。私も咬まれたよ」リジーが言った。
「今は痒くないのか?」俺は聞いた。
「うん、デヴィに治してもらったの」リジーが答えた。
「デヴィは咬まれなかったのか?」
「もちろん、何ヶ所も咬まれたわ。だから、私はリジーに治してもらったの」とデヴィ。
自分に治癒魔法はかけられないので、お互いに魔法をかけ合ったようだ。襲い来る昆虫を蹴散らしながら治癒魔法の掛け合いっこか。そりゃ時間もかかるだろう。
「とまあ、そんな具合に想定外に虫が多くてね、咬まれたところが痒くて魔法に集中できなくて。異世界転移魔法は普通の魔法より集中力が必要なのよ。虫を追い払って治療するのに時間かかったの。我ながら、私の異世界転移魔法の攻撃力には驚きよ」
デヴィが苦笑する。
「で、寂しくなかった? 下僕さん。怖かったでしょ? 不安だったでしょ?」
デヴィが意地悪い顔で言った。
「そうだな……」
俺の言葉をデヴィが制する。
「答えなくていいわよ。顔に書いてあるから。泣きそうなくらい寂しかったって」
ふふ、と笑うデヴィ。
「勝手に言ってろ」
「さ、元の世界に帰りましょう。みんな並んで」
デヴィに言われ、俺・リジー・ドラゴンが並ぶ。
「はい、いくわよ。デ・カスト・カバデル」
デヴィが呪文を唱えた。またもや、すーっと降下する感覚を伴って、俺たちは元の世界に戻った。
元の世界はもう薄暗かった。俺は腕時計を見た。夜7時だ。クリストファとアスカはもういなかった。
どこに消えたんだ?




