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第8話 デヴィと俺

「んあ?」

 リジーが起きた。目は真っ赤。泣き腫らしたようだ。

「あれ? お兄ちゃん!」

 俺を見て驚く。

「なんでここにいるの?」


「デヴィに連れてきてもらったんだ」


 俺の背後からデヴィが顔を出す。


「あーっ! デヴィ! よくもこんなところに!」


 ソファから飛び起き、呪文を唱えようとするリジーを俺は制止した。


「大丈夫だ、彼女は味方だ」

「味方?」怪訝な顔のリジー。


「そうよ」

 デヴィが言った。

「クリストファ様と話をしたの。とりあえず和解……というか一時休戦? そんな感じね」


「和解? 一時休戦? なんで?」

 リジーが聞く。


「あなたの下僕、遠藤雄飛が説明してくれるわ。ね? 下僕さん」

 デヴィが俺に振った。


「ゲボクって何?」

 リジーが首を傾げる。


 そこかよ。ゲボクのことは忘れろ、リジー。


 俺はまずラドアがどうやって俺に魔法力無効(キャンセレーション)固有技能(スキル)を身につけさせたかを説明した。

 さらに、キングスランドの国王が和平を望んでいるのは間違いないようだが、それを快く思わない一派がいるらしいことも伝えた。そういう連中が集まってキングスランド魔族討伐軍を結成し、その連中が俺に装置を仕掛けたと説明した。


 デヴィは何か言いたそうだったが、俺はそれを無視して話を続けた。


「リジーを助けてラドアを倒したのはデヴィだ。あと、クリストファは無事だ」

「よかった!」

 リジーが満面の笑みになる。


「和平に関してだが、結論から言えば和平は望まないってことでクリストファとデヴィの意見がとりあえず一致した。詳しくはクリストファから聞いてくれ」

 リジーは「わかった」と頷いた。

魔導転送機(トランスフェル)を壊したのもラドアだろうな。用意周到にお前の命を狙っていたらしいぞ」

「怖いねー」

「本当に怖いと思っているのか?」

 へへへーとリジーが笑う。が、すぐに笑いが消えた。


「……今の話、ドラちゃん出てこなかったんだけど! ねえ、ドラちゃんは? ドラちゃんはどうなったの!」

 涙目でリジーが訴えた。


 ふう、とデヴィがため息をつく。


「泣かないでよ、あなた、魔王の娘でしょ? ちょっと幼すぎるよ。大丈夫、ドラゴンの居場所はわかるから」

 デヴィの目が光り出す。

「あのドラゴンに照射された異世界転移魔法、もともとは私の魔法だから追跡は可能よ……て、言ってる間に見つけたわ」


「ホント!?」

 リジーの目が輝く。


「嘘言ってどうすんの? リジー、先にドラゴンのいる世界でドラゴン探しといて。そしてドラゴンに色々説明しておいてね。あっちに行くなり火炎地獄はごめんだわ」


 そう言うとデヴィはリジーに異世界転移魔法を唱えた。


「……行ってらっしゃい。お姫様」

 デヴィがにこやかに手を振った。リジーの姿が消える。


「さてと。二人きりになったわね?」


 デヴィが言った。


「えっちなこと考えてる?」

「考えてない」


 嘘だ。少し考えた。


「魔眼で見て良い? 嘘かホントか判別できるの」

「……それは勘弁してくれ」

「ふふ、やっぱりー」とデヴィが笑う。


「さて、冗談はそのくらいにしておいて。リジーがむこう(異世界)でドラゴン探している間にあなたに聞きたいことがあるわ」

 デヴィの顔から笑いが消えた。


「あなたに付けられていたあの装置のことだけど」

「装置?」

「そう。人工的に固有技能(スキル)を実現する装置よ」

「ああ、あれか。ラドアが俺の鼻の奥に入れてたやつ」

 俺は鼻をつまんだ。心なしかむずがゆい。

「あれね、キングスランド王立科学院が開発した最高機密なのよ。簡単には持ち出せない。おまけに魔法力無効(キャンセレーション)の付与でしょ? カバデル家の諜報組織ですら把握してなかったわ、そんなの。最高機密中の最高機密よ」


「そうなのか」


傀儡人形(マリオネット)にしてもそう。異世界転移できる傀儡人形(マリオネット)は試作機だけ。テロ組織が簡単に手に入るれて使えるものじゃないわ」デヴィが言った。


「国王は和平賛成で、一部の過激派が魔族との戦争を望んでいるというあなたの説明、ちょっと信じられないわ。少なくとも王族クラスがキングスランド魔族討伐軍に関係しているはずよ」

「そうかもな。すまんが俺は部外者なんだ。俺はただ聞いた話を喋っただけだ。あとは君らでなんとかしてくれ」

「……部外者ね」


 デヴィが俺を見つめた。


「これだけ話に巻き込まれていて部外者ってことないよね。ま、いっか。取り合えず、ドラゴンとリジー連れてここに戻ってくるから待ってて」


 え? こんな廃墟に一人で? 魔法とか使えないのに?


「なんで不安そうな顔しているのよ」

「そりゃ不安だろう。本当に戻ってくるんだろな?」

 ふふ、とデヴィが笑う。


「そっか、このまま置いてけぼりってのも面白いわね」

「……それ、シャレにならんから」

「冗談。じゃ、待っててね。デ・カスト・カバデル!」


 シュン、とデヴィが消えた。

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