第3話 異世界魔王国からの来訪者 1
「遠藤さん、大丈夫ですか?」
火災報知器の警報を聞いたマンション管理会社の管理員がインターホンを鳴らす。近所のおばさん連中も一緒のようだ。
おい、夢だろ? 妙なリアリティはいらないって。
だが、インターホンが鳴り止まないので、俺は仕方なく、扉を開けた。
「兄がご迷惑をかけました」いきなりリジーがマンションの廊下に出て来てた。
「おい、バカ、出てくるな!」
「馬鹿じゃないもん!」リジーが俺を睨む。
「まあ、リジーちゃん、大丈夫だった?」
え? 隣のおばちゃん、なんでこいつの名前知ってるんだ?
「あらそう、お兄ちゃんが目玉焼き焼くの失敗したのね、もう、雄飛君、危ないよ!」
驚いたのは、マンション住人のリジーへの反応だった。
近所の奥さん連中、管理員は何の疑いもなく「遠藤エリザベス、通称リジー。遠藤雄飛の妹」を受け入れ会話した。
近所のおばさんらが引き上げる。相変わらず玄関先でリジーが俺を睨んでいる。
「……なんだよ」
「触った。胸、触った」
「ああ、夢だと思ったからな」
「……謝ってよ」
「悪かったよ」
「もっと」
「すまんかった」
「もっと」
「ごめんて」
リジーはふん、と言ってドラゴンの待つリビングに行った。
リビングのソファにリジーとドラゴンが勝手に座る。
「いきなり触って悪かったって……。それに指で突いただけじゃないか。な? 機嫌直せよ」
「……やだ」
「てか、お前、誰なんだ? なんでみんなお前のこと知っているんだ?」
俺はリジーに言った。
「だから、さっきも言ったでしょ? ディオロニス魔王国から来たエリザベス・ディオロニス、15歳だよ」
「ディオロニス魔王国……ってどこにあるんだ?」
「どこ? どこって言えばいいのかな? ドラちゃんわかる?」
リジーがドラゴンに話を振る。
「魔王国はね、こことは時空位相の違う世界、通称異世界にあるんだ」ドラゴンが言った。
異世界転移あるいは転生――。
アニメや小説、漫画ではよくある話だ。現実にそんなことが起こるのだろうか?
「魔王の娘だの言ってたが……その、人間じゃないのか?」
「うん。魔族は人間とは違うよ。と言っても、ほとんど同じだよ。人間との違いは魔法が使えることかな」
「人間は魔法使えないのか?」
「うん。あんた、魔法使えないでしょ?」
なるほど。
「で、何しに来たんだ? ここに」
「……お兄ちゃんを探しに来た」
「お兄ちゃん? お前が魔王の娘だとしたら、その、魔王の息子? やはり異世界から来たのか?」
リジーが首を横に振った。
「ううん。違う。新しいお兄ちゃん探しに来たの」
「新しいお兄ちゃん? 意味がわからん」
リジーがため息をついた。
「どうしよう。いきなりおっぱい触る変態がお兄ちゃんなのは、やっぱだめかな」
「なあ、もう少し事情を話してくれ」
リジーは少し考えてから、自分が異世界に来た事情を話しだした。