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第5話 大事な妹

 ナイフはクリストファに刺さったあと、そのまま柄が見えなくなるまで身体の奥にめり込んでいった。


「……ぬ!」クリストファの身体がビクッと痙攣する。 


 アスカがクリストファに駆け寄った。


「デ・カスト・セクサロス!」


 呪文を唱え手をかざす。催淫ではない。身体にめり込んだナイフを抜こうと必死の念力魔法だ。徐々にナイフがクリストファの身体から抜けていく。


 続いてアスカは泣きながら治癒魔法を施す。だが、無数にある傷穴からの出血がひどい。あのナイフはただのナイフではないようだ。血液の凝固を阻害する成分が含まれていたようだ。もしかすると毒も仕込まれていたかもしれない。


 アスカは懸命に治癒魔法を施すが、全然追いついていない。淫の血統(サキュバス)の治癒魔法では無理なようだ。クリストファが死ぬのは時間の問題だろう。俺が死ぬのも時間の問題のようだがな。


 怒り狂ったドラゴンが空中から戦闘機並みの格闘能力でラドアを攻撃する。火炎というよりはビームのような直線で青い炎を吐く。

 ラドアは再び俺を操る。気がつくと俺の目の前にドラゴンがいた。

 俺を認めたドラゴンが火炎を吐くのを躊躇した。


(く……来るな……魔法……攻撃……さ……れる……逃げろ……)


 声が出ない。


「はい、さようなら!」


 俺の目が光った。眼の前のドラゴンに向かって光線が放たれる。

 これはデヴィの異世界転移魔法だ。気がついたときには、ドラゴンはもう目の前にいなかった。


「ドラちゃん!」リジーが泣き叫ぶ。


「許さない!」リジーが呪文を唱えようとするが、すぐに止まる。


「……い、いや! やめて! やだ……!」


 リジーの顔が紅潮している。息遣いが荒い。その場に座り込む。


 催淫魔法だ。俺のなかに溜め込まれていたアスカの催淫魔法が、リジーにぶつけられたのだ。


「あら、魔王の娘さん、どうしたの? 気持ちいいの?」


 リジーは必死に堪えている。アスカの催淫魔法に逆らえるわけがない。リジーが恥ずかしい声を出すのも時間の問題だ。


 今までの俺なら「うむ、リジーの声もエロいではないか」と満足したであろう。だが、今は死にかけ。そんな事は考えられない。

 催淫魔法は俺の掌から出ている。その手をずらせばいいのだが、ラドアが右手で握っているため、どうにもならない。


 すまん、リジー。俺の大事な妹。


「こ……これくらい、我慢できるもん!」


 はあはあ言いながら、リジーが立ち上がる。


「それはどうかしら?」


 ラドアの右手がグイッと力を込める。催淫魔法の効果が強まったようだ。


「んっ……!」

 リジーが苦しそうな顔をする。


「頑張るわね。でも、あなたの負けよ。どっちにしても魔法は使えないでしょ? さあ、死んでもらうわ!」


 ラドアが左手でレイピアを槍のようにして持った。リジーに投げつける気だ。

「はい、終わり!」


 ヒュッと音を立て、レイピアがリジーめがけて飛ぶ。

(リジー……)

 朦朧とする意識の中、妹の名を呼ぶ。だが声にならない。俺は叫ぶことも出来ないほど衰弱していた。レイピアがリジーに刺さる鈍い音とリジーの悲鳴が……聞こえない。


 ん? 聞こえないぞ?

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