第4話 傀儡人形
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以上が俺の思い出したラドアとのいきさつだ。
鼻の奥に仕込まれたあの装置。あの装置が俺に魔法力無効の固有技能を付与したのだ。
「思い出したみたいね?」
ラドアが笑う。
そうだ。皆に警告せねば。
こいつは敵なんだ。キングスランドから来た遠隔操作の傀儡人形。
「おい、みんな! 気をつけろ! こいつは花子じゃない! 異世界から来た敵だ!」
「どういうこと? ハナコじゃないの?」
リジーが言った。
「こいつは人間じゃない。花子に化けた、ロボット……操り人形だ! 操っているのはキングスランドの人間だ!」
その場の空気が凍りつく。
「あーあ、バレちゃった」
ラドアが笑いながら俺の方を見た。
「ま、いいか。そういえばブービートラップがどうやって作動するか教えてなかったわね」
突然、激痛が俺を襲った。声が出ない。皮膚の表面から来る鋭い痛みと、腹部の内臓から来る重い痛み。
「お、お兄ちゃん!」
リジーが俺を見て悲鳴を上げる。
俺は激痛の源である腹部を見た。……レイピアが刺さっていた。
ラドアがレイピアを俺の腹に突き立てたのだ。
「大丈夫、死にはしないから。ブービーとララップは肉体に一定以上のダメージを受けると自動的に発動するの。そう、これくらいのダメージをね……」
ラドアがレイピアをぐいぐい押し込んでくる。鈍く強い痛みが俺を襲う。レイピアを伝って血がドクドクと流れ落ちる。脚から力が抜けていく。視界がブラックアウトしていく。
「ユウヒさま!」「ユウヒ!」
アスカとドラゴンが叫ぶ声が聞こえた。
「貴様!」
クリストファが剣を構え、ラドアに向かって突進した。ものすごいスピードだ。クリストファがアスカに目配せした。アスカが呪文を唱える。
「あー、催淫魔法? さすが魔族。下品ね!」
ラドアが笑う。全く催淫されていないようだ。
「催淫が効かない? どういうこと?」と、狼狽するアスカ。
「あのね、私、傀儡人形、人工物なのよ。催淫魔法や心理魔法は生体にしか効かないの。魔族には分からないかな?」
「ふん!」
上段から振り下ろされたクリストファの剣をラドアが左手で受ける。クリストファの剣は火花を出して弾かれた。そのままラドアは低い体勢をとって、左肘でクリストファの脇腹を突く。
一時的にラドアが俺からレイピアを抜く。その場に崩れる俺。
「ぐはう!」
屈強なクリストファが片膝を突く。だがすぐに立ち上がり、呪文を唱える。雷鳴が轟きラドアに命中する。ラドアが衝撃で弾き飛ばされた。
「人間族の作った傀儡人形か。所詮機械仕掛け。雷が直撃すれば電気回路が焼き切れるはず!」
しかし、ラドアは弾き飛ばされた先で何事もなかったかのように立ち上がる。
「雷撃魔法への対策をしてないとでも思うの?」
いつの間にか飛行していたドラゴンがラドアに急降下しながら火炎を吐く。ラドアがレイピアを軽く振る。炎がレイピアに吸い込まれまドラゴンに向かって逆流する。
「うわあ!」ドラゴンは慌ててその炎を避ける。
「デ・カスト・ディオロニス! 異世界いけー!」
リジーだ。リジーの目が碧く光った。異世界転移魔法を仕掛ける気だ。それをラドアは盾で防ぐ。あの盾、魔法を防げるのか?
そのままラドアが俺のもとに戻ってきた。そして再びレイピアで俺の腹部を突く。激痛が走る。そのままラドアがレイピアごと俺を持ち上げ、自分の盾にした。
だめだ。もう意識がなくなる。
卑怯もの、と叫ぶ声が聞こえたような気がする。リジーの叫びだろうか。
「そろそろいい頃合いね」
ラドアが盾にしている俺を見た。
「ブービートラップ発動ね。あ、コントロールは私にシフトさせてもらうよ」
俺の腹部に突っ込まれたレイピアがぬるっと抜かれた。ラドアがレイピアを指揮棒のように動かす。すると、俺は見えない糸で操られているかのごとく、自分の意志とは無関係に立ち上がった。
「火炎魔法に異世界転移……催淫か。あまり魔法攻撃受けてないのね。でもパワーはすごいわ。うん、大丈夫。じゃあ、まずクリストファ」
ラドアがレイピアをひゅんと振る。失血で動けないはずの俺なのに、クリストファに向かって猛ダッシュする。
「じゃ、まずはエリザベスの火炎魔法!」
俺の鼻の奥でキューンと高周波がした。直後、俺の手のひらから巨大な火炎が出る。
「なんで魔法をお兄ちゃんが!」リジーが叫んだ。
それは俺がブービートラップだからだ、と言いたいが俺の身体には自由がない。
俺が魔法を使うことを予期していなかったクリストファは虚を突かれ、防御壁を魔法で生成するので精一杯だった。
もともとはリジーの火炎魔法だ。クリストファといえど押し負けないようにするだけで精一杯のようだ。
俺の後ろにいたラドアがジャンプした。4メートルほどの高さまで飛び上がる。
いつの間にかラドアの周囲に何十本ものナイフが浮かんでいる。ニヤッとラドアが笑った瞬間、ナイフがクリストファに向かって飛んでいった。
クリストファは盾と剣でナイフを弾く。だが数が多すぎる。防御壁の魔法を解除しない限り残りのナイフを処理することは不可能だ。だが、防御壁を解除すればたちまち火だるまだ。
「ぐは!」
ドスドスドス、とナイフがクリストファに刺さる。
「お兄様!」「クリストファ様!」
リジーとアスカが悲鳴を上げた。




