第1話 にんげんだもの
不気味な笑顔を浮かべ、ゆっくりと花子が俺に近づいてきた。反射的に俺は後ずさる。
「ハナコ、なんで私が魔族って知ってるの?」
えらく直球だな、リジー。
「さーて、どうしてでしょう?」
ふふふ、と笑いつつ花子が何かを呟いた。
右手に見事な装飾が施されたレイピアが現れる。
「魔法か、花子?」
俺の問いに、花子は首を振った。
「なんで人間が魔法みたいな下等技能を使う必要があるの? 私が使ったのは音声コマンド。次元の狭間から聖剣を取り出す音声コマンドよ」
「……聖剣?」
「そう。人間の科学と英知が詰まった聖剣。対魔族戦闘用の機能満載」
花子はレイピアで2・3回、宙を斬った。
「あと、私、花子という名前じゃ無いからね? その名前ダサいからやめて。私の名前は、ラドア。異世界から来ました! 魔王国の娘に接近するため、花子とかいう女に化けました!」
おどけた様子でラドアが挨拶をした。
俺は見た目は花子のラドアに詰め寄る。
「お前、花子をどうした?」
ラドアがふふん、と鼻で笑った。
「さあね。君が魔族の女と前戯始めるから落ち込んで自殺したんじゃない?」
「おい、冗談にも程があるぞ」
「あー、もー、ブラックユーモア分かってよ。花子ちゃんならね、お家で寝ているよ。泣きながら。失恋したと思いこんでいるのは事実だからね」
「……で、お前は誰なんだ?」
ラドアが「はぁ?」と大きく口を開け、眉間にシワを寄せた。
「だから、ラドアだって」
「じゃなくて、属性というか正体というか、そういうのだ」
「知ってるくせにぃ。ていうか、私とあなたで、あの魔王の娘倒すのよ?」
ラドラが笑う。
どういうことだ?
「あ、そうか。記憶ロック解除してなかった。てへ」
ラドアがレイピアの柄をカチリと回した。
どくん。
俺の脳に衝撃波がアタックした。
どくんどくん。
ぶわーっと脳の奥から何かが表層部に流れ込んでくる。膨大な情報だ。
おそらく数秒しかかかっていないのだろうが、俺は様々なことを「経験と記憶」として取り込んだ。
俺は理解した。いや、思い出した。
眼の前にいる花子の格好をしたラドアのこと。彼女の目的。
「彼女」というのは正確ではない。
ラドアは「ロボット端末」だ。ラドアの本体は異世界にいる。
「思い出したよ。ラドア。君は……高性能なロボットだ」
「うーん、そのロボットて言い方、やめよ? なんかかっこ悪いもん」
「……じゃあ、傀儡人形だ」
「思い出したんだ、その名称。そ。傀儡人形よ。異世界転移できるたった1体の貴重なユニット。本体のラドアちゃんはキングスランドにいます。異世界VRコンソールから操作しているのよ。この傀儡人形、とっても強いけど、さすがにこれだけでは魔王の娘には勝てないわ。でもね、あなたと一緒なら勝てるのよ、遠藤雄飛君!」
ラドアがくるりと一回転する。スカートがひらりと舞う。
そう。俺は思い出した。リジーが来る数時間前の「経験と記憶」を。
俺の魔法力無効の意味を。俺とラドアはセットで対魔族最終兵器だということも。
その内容はあまりにも衝撃的だった。




