第9話 大団円……
「親愛なるクリストファお兄様、父上からの伝言って?」
「おう、そうだった」
クリストファは地面に散らばった剣と盾を拾う。着衣の乱れを直し、懐から手紙を出す。
「これが父上からの伝言だ」
リジーがおそるおそる手紙を受け取る。罠ではないかと疑っているようだ。
「大丈夫だ、何も仕掛けはない」
受け取った手紙にリジーが目を通す。
「え?」
驚くリジー。やがてリジーの顔が驚きから喜びに変わった。
「ドラちゃんを連れて行ってもいいの? ドラゴンレースに参加も認める?」
「そうだ。私が父上を説得した」
「親愛なるクリストファお兄様が……?」
「それだけじゃない。人間族との結婚はなくなった」
「えええ!」
俺、リジー、アスカの全員が同時に声を出した。
「どういうことなんですか、偉大なるクリストファ様!」
アスカが言った。
「実は向こうの王子にもフィアンセがいてな。それを破棄してお前と結婚、と勝手に人間族の王と父上が決めてしまったんだ。それであっちの王子も怒り狂った」
「そうだったの?」
「そう。で、私が単身キングスランドに乗り込んで、話をつけてきた。お前は魔王国からの初代親善大使として、人間族の国でしばらく暮らすだけでいい。その間、ドラゴンを連れて行っていいし、ドラゴンレースに出てもいい。好きな男《魔族》が出来たら、そいつと結婚してもいい」
「ぷは!」
石化していたデヴィが動き出した。
「は、話は聞いたわ! 何よ親善大使って! 結局和平じゃない! 許さない!」
「おっと石化魔法が切れたか。デ・カスト・ディオロニス!」
再びデヴィは石化した。
「ということだ。悪い条件ではなかろう。帰るぞ、リジー」
クリストファが初めて優しい笑顔になった。
「よかったな、リジー。お前、人間と結婚しなくて良くなったし、ドラゴンレースにも出られるぞ」
俺はリジーに話しかけた。リジーは考え込んでいる。
「おい、何考えているんだ?」
「うーん。もう少しこっちの世界にいたいかなーって」
「は? なんでだ?」
「やっぱ食べ物美味しいし、学校面白いし……親善大使って、なんか忙しそう」
そりゃ、高校生よりは忙しいだろうなあ。
「なあ、リジー。わがまま言うなよ。クリストファ兄さん、お前のために頑張ったんだよ」
「うん……。そだね」
リジーの顔が明るくなる。
「じゃ、帰るね。ありがと、こっちのお兄ちゃん。短い間だったけど、楽しかったよ」
「おう、元気でな。俺も少しは寂しくなるかな?」
「そうなんだー。なんか嬉しいかも!」
リジーが笑う。
「えっと、マメ君、このコスプレ外人さん、誰? あと、何の話しているの? デヴィさん、なんで動かないの?」
花子が不安そうに俺に話しかけてきた。
そうだ。
花子は何も分かっていない。彼女はディオロニスの指輪の魔法でマインドコントロールされ、リジーのことを俺の本当の妹と思っているのだ。
「説明しても分かってもらえないと思うけど……」
「リジーちゃんが魔族って話?」
「そうそう……え?」
花子がふふふ、と笑った。




