第8話 気持ちよかったんだな、クリストファ
「魔法力無効?」
クリストファが言った。俺の思考を読んだのだろう。
驚いたような顔で俺を見る。
「君は魔法力無効の固有技能を持っているだと?」
「ええ、そう言ってましたね、リジーが」
クリストファは黙り込んでしまった。
じーっと俺を見ている。
「……どういうことだ」
いや、それはこっちのセリフなんだけどね。
「ということは、特異点も存在するのか?」
「俺の家と俺がそうらしいとドラゴンが言ってましたよ」
「うーむ」
またまた考え込むクリストファ。
「だとしたら、つじつまが合うな。今リジーが見えないのは、君の家にいるからか。あと、君の思考が読みにくいのも、君が魔法力無効だったり特異点だったりするからか」
クリストファが巨大な顔を俺の顔に寄せてきた。近くで見ると怖いな。
「魔法力無効の本当の恐ろしさについては……聞いてないようだな」
「恐ろしさ?……」
「そう、恐ろしさ。……ま、いいか」
「え? ちょっと教えてくださいよ」
「……そのうちな。問題は、いつ、誰が、何のために、君にそんな固有技能を与えたかだ」
クリストファが深刻な顔で悩みだした。
俺だっていつから、どうやって、そんな特殊な能力に見つけたか知りたいよ。
と、その時。
「お兄ちゃーん!」
「マメ君どこー?」
リジーと花子、ドラゴンにアスカがやって来た。花子が2人+1匹を俺の家から連れてきたのだろうか。
花子が体育館があった場所を指さした。
「ね、体育館なくなってるでしょ!? マメ君がまだそのへんに……あ、マメ君、いた! よかった!」
「ホントだ! 体育館なくなってる! 運動部の人どうなったの!」
「おお、そうだった」
クリストファが呪文を唱える。轟音とともに体育館が戻ってきた。
「少々怪我人が出たが、治癒魔法かけといたからな」
……さすが次期魔王。気配り上手だ。
リジーがクリストファに気がついた。
「ど、どうしてここに親愛なるクリストファお兄様が……! アスカ、ドラちゃん、逃げるよ!」
リジーが逃げようと踵を返す。
「待ちなさい、リジー!」
「やだ!」
「やだじゃない! 待ちなさい! 待たないなら……」
「アリス、親愛なるクリストファお兄様を催淫して! 足止めしなくちゃ!」
リジーが言った途端、クリストファの動きが止まった。
「ん……おい、リジー……だ……だめ……だ」
クリストファの呼吸が荒い。
「……偉大なるクリストファ様を催淫できる日が来るだなんて、もう、なんて恐れ多いのかしら」
異様なほどアリスの目が光っている。催淫を開始したようだ。
「でも、リジー様のご命令ですから! もう、思いっきり、催淫いたしますわ! 偉大なるクリストファ様ぁぁん! 私をむちゃくちゃにしてぇ!」
アリスが顔を赤らめる。
「まて、待つんだ!」とクリストファ。
「嫌です! 待ちません! 待ちたくありませんの! 偉大なるクリストファ様……アスカの奥の方まで、ご堪能ください……あ、すぐはだめ……ちゃんと味わってください……最高の快楽を約束しますわ……あん、もう、えっちなんだからぁ……」
アスカが体をくねくねよじらせつつ、淫靡に指を動かす。それに反応してクリストファの体がビクッと痙攣する。「偉大なるクリストファ様」が台無しだ。
「なあ、リジー。なんでクリストファは魔法で逃げたりしないんだ?」
「あのね、呪文唱えるときは精神集中しないといけないんだけど、催淫されると頭の中がエロいことで一杯になるから、集中できないんだよ……」
なるほど。
アスカの催淫はかなり強力なようだ。クリストファは必死で催淫に抵抗しようとしているようだが、全く無駄なようだ。
「ぐはう! や、やめろ! むむむ、こ、これは……いや、公衆の面前でそのような……んんん! おい、リジー、父上からの伝言があるんだ! 話を聞いてくれ! 悪い話じゃ……ああああ、そ、そんなところをそんなふうに? なんて独創的な! いや喜んではいかん……。頼む、リジー、サキュバスに催淫をやめるように言ってくれ!」
2メートルの巨体で悶絶しながら、クリストファが懇願する。
「父上からの伝言?」
リジーが身を乗り出す。
「そう……だ……。ドラゴンレースについても……んっ! あう! だから、催淫をやめさせてくれ!」
クリストファは剣も盾も放り出し、地面に這いつくばって腰を動かしだした。
うーむ。これは情けない。
「アスカ、催淫やめて。話聞いてみる」
アスカは非常に残念そうな顔をしている。
「えー……」
「えー、じゃないの」
「……わかりました」
アスカの目から光が消えた。
クリストファの動きが止まり、やがてゆっくりと立ち上がった。じっとアスカを見る。
「さすが魔王家に仕える淫の血統。私は並の催淫であれば精神力ではね返すのだが……これには降参だ。お前、名を何という?」
「アスカ・セクサロスでございます」
「おお、セクサロス家の……。そうか。魔王国に帰ったら……その……私の修練の相手を頼む」
クリストファがやや赤い顔で言った。
「次期魔王として、いかなる催淫にも対抗できないとな。こればかりは魔法でどうにもならない。鍛錬しか無い。ということで……とりあえず、毎晩私を催淫してくれ。いつの日か、それに対抗して呪文が唱えることができるようになるまでだ」
「え?」
「聞こえなかったのか? 私の相手をしてほしいと言ったんだ。……催淫に耐える鍛錬の」
「い、いいんでしょうか、私なんかで」
「ああ。お前がいい」
「……は、はい! 喜んで、鍛錬のお相手をいたします!」
アリスは満面の笑みだ。
「……身体的接触による催淫の方が強力なんだよな?」
「も、もちろんでございますっ!」
「……それも頼む……ついでに、淫夢に対する修練もいいか?」
「よ、喜んで!」
アリスは今にも飛び上がりそうだ。
「すごーいアリス! 親愛なるクリストファお兄様のトレーナーになるなんて! これは名誉だね!」
リジーも嬉しそうである。
……偉そうなこと言ってるが、催淫気持ちよかったんだな、クリストファ。




