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第7話 クリストファ兄さん

「変身魔法解除!」


 貧相なモブキャラ眼鏡男子の倉敷の体が巨大化した。

 身長2メートル。腰まである金髪。巨大な角。体脂肪5%以下的なカットばりばりの筋肉。

 鋭い眼光にモジャモジャのひげ。まさしく次期魔王。例えて言うならばギリシャ彫刻。

 もっとわかりやすく言えば、バッファローマンだ。右手に剣、左手に盾を持っている。


「どこの小娘かと思ったら、尻尾血統(テイルブラッド)、それもカバデル家のお姫様じゃないか」

 クリストファがデヴィを見て笑った。

「落ちぶれた王族カバデル。人間族との和平に反対し、かつての栄光を誇示すだけの悲しいカバデル。そのお姫様自らリジー誘拐の実行犯とはな。よほど人材が足りんのだな」

「人間との闘いに怯え、和平という名の敗北を選ぶディオロニスよりは勇敢よ!」

 クリストファを睨みつけながらデヴィが言った。


「ふん。まともな攻撃魔法を使えぬカバデル家が何を言っても負け惜しみだ」


 剣をデヴィに向け、ゆっくりとクリストファが俺に近づく。


「さてと。君は人間だな。リジーの使用人の。すまんすまん、てっきりカバデルの娘しかいないと思ってな。うっかり、異世界転移攻撃を君にやってしまうところだった。こっちの人間族には何の恨みもないんだ。安心したまえ。まあ、何の話をしているか分からんだろうがな。いや、少しは状況理解しているのか……」


 俺の目を鋭く見つめつつ、全く反省していない顔で、クリストファが言った。


「名前は遠藤君だったな。ハッ、驚くな。私レベルになると魔眼で何でもお見通しだ。こちらの世界でリジーが大変お世話になったようだ。あいつ、ワガママで気分屋で幼稚で大変だったろう。もう安心だ。私が連れて帰る」

「は、はあ」

「だが、その前に、カバデルの娘だ」


 クリストファがデヴィを見た。剣の切っ先はずっとデヴィを指し示している。


「よくも、魔導転送機(トランスフェル)を破壊してくれたな。おかげで俺もリジーも魔王国に帰れなくなった……なんてな!」


 ガハハと勢い良くクリストファが笑った。


「私は壊していないわ」

 デヴィが言ったが、クリストファは信じない。


「は? しらばくれるな。それにな、壊しても意味ないぞ。魔王家に不可能はない! 私は攻撃魔法の安全リミッターを切ることができる。自分に異世界転移魔法を掛けることが出来、さらにどの異世界へ行くかコントロールできる。チートだろ? チートなのさ! なんつったって、次期魔王だからな!」


 クリストファがデヴィに歩み寄る。


「さて、カバデルのお姫様よ。お前を反逆罪で逮捕する。抵抗しても無駄だ」

 クリストファがデヴィに近づく。デヴィは何かをつぶやこうとしている。

「次から次へと化物が襲ってきて、とても自分に異世界転移魔法なぞ使う暇のない異世界へ送り込んでやる……か。考えたなあ、カバデルのお姫様よ」


 クリストファがニヤリと笑う。


「……人の心が読めるの?」

 困惑した表情でデヴィが言った。


「ある程度はな。次にお前は、とりあえずどこかへ飛ぼう、転移しようと考えている。私の呪文のスピードと力を測りかねているが、一か八か、やってみようとしている」

「デ・カスト・カバデル!」


 悔しそうな顔をしてデヴィが叫ぶ。が、呪文を言い切る前に、デヴィの動きが固まった。

 まるで動画を一時停止したかのように、不自然に動きが止まっている。瞬きも呼吸もしていないように見える。


「惜しいな。あとコンマ2秒だった。しばらく、私の石化魔法を味わってくれ」

 クリストファが言った。


「さて、カバデルの娘はこれでよし。遠藤くん。リジーはどこかな?」

「……親衛隊と一緒じゃなかったんですか?」

「昼休みはな。放課後は見失った」


 ふう、とクリストファがため息をついた。


「あの、クリストファさん。そんなに魔力強いなら、こんな小細工せずに、強引に連れて帰ればいいじゃないですか」


 俺が言うと、クリストファはまたため息を付いた。


「それができれば苦労はしない。リジーの魔力は私の次に強い。強引に連れて帰るとなれば魔法対決だ。あのカバデルの娘とはわけが違う。ドラゴン、そして淫の血統(サキュバス)のアスカまで加勢すれば、私とて勝てるかどうか分からない。だから、まず、なんとかしてリジーの近くにへばりつくようにし、スキを見て連れて帰る必要があったんだ」


「そのために親衛隊? そこまでやる必要ありますか?」


「ある。実は、一番の問題はアスカなんだ。あの淫の血統(サキュバス)、リジーにトラップを張ってる」

「トラップ?」

「そう。トラップだ。リジーに触る、あるいは魔法で攻撃したが最後、強力に催淫されてしまう」


「そんなことできるんですか?」


「できる。だから、淫の血統(サキュバス)が王族の世話係兼護衛なんだよ」


 なるほど。そういうことだったのか。


 なんで攻撃魔法の無いサキュバスがリジーの世話係なんだろうとは思っていたのだが、やっとその理由が分かった。


「君は見てないだろうが、今日、うっかりリジーに触った親衛隊隊員がいてね。全員その場であえぎ声を出しつつズボンまで汚す痴態を晒してしまった。あいつら明日から不登校だな、ワッハッハ」


 ワッハッハじゃねーだろ。そいつら明日から生きていけないぞ……。ある意味。


「アスカ……というか、淫の血統(サキュバス)の催淫を弾き返すことは不可能なんだ。私とて例外ではない。君も気をつけ給え。催淫されたが最後、公衆の面前で勃起アンド射精するぞ。気持ちはいいとは思うがな」


 僕は大丈夫ですけどね、魔法力無効(キャンセレーション)で、と言おうとして止めといた。

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