第2話 こんな妹知らない 2
「助けてー! へんたい!」
とリジーが大声で言った。指で突いただけじゃないか。
おい、夢だろ? これ。違うの? 違ったら……強制わいせつ罪で逮捕?
「へんたい! デ・カスト・ディオロニス、地獄の火炎に焼かれろ!」
リジーの両手から真っ赤な火炎が放たれた。巨大な火柱が渦巻きながら俺に接近してくる。
「おおおお、やめろ! 火傷する! いくら夢でもやだ!」
「安心して焼かれてね! あとで治癒魔法かけてあげるから! とにかく、私の胸に触った罰よ!」
真っ赤な炎に包まれ、全身の肉が焼け爛れる音を聞きながら、遠のく意識の中で俺は「夢なら覚めてくれ」と叫んだ……。
はずだった。
あれ? 熱くない。炎は俺の身体を包んではいる。だが、何も感じないのだ。身体中が炎で赤く染まっているが、ただそれだけだ。
「魔法が効かない? ありえないわ!」リジーは呆然として呟いた。
「ありえるね」狼狽するリジーの足元で何かが喋った。
「リジー、この男、遠藤雄飛は魔法力無効の固有技能を持っているよ」
すーっと俺の目の前を何かが飛んでいき、リジーの左肩に留まった。
「魔法力無効? それ本当、ドラちゃん?」
リジーの肩にいる小動物。それはドラゴンだった。
大きさこそ猫程度だが、どこからどう見てもファンタジーでおなじみのドラゴンだ。
「ああ、本当だよ。間違いない」ドラゴンはリジーに言った。
「おそらく、どんな魔法でも無効化できる。いやはや、魔法力無効の固有技能を持つ人間族がいるとはね。魔族ですらめったにいないのに。この異世界、油断できないな」
ドラゴンがリジーの肩からこっちに来た。
「キミ、今の状況、理解出来てないようだね。ボクが説明してあげよう。この娘はエリザベス・ディオロニス。異世界から来た15歳の女の子。あ、でも人間じゃないよ。魔族さ。魔王の娘」
怒りの形相のままリジーが自己紹介を始めた。
「はじめまして、私、エリザベス・ディオロニス。愛称はリジー。魔王ヴィルボ・ディオロニスの娘。よくもおっぱい触ったわね!」
「だから、指で突いただけじゃないか。悪かったよ」
異世界から来たのか。それも魔王の娘。
どうりで魔法使ったりドラゴン連れてたりしてるんだ。
納得。以後よろしく。おっぱい突いて悪かった。
……って、んなわけあるかーっ!
納得できんわい!
やっぱ夢かよ!
こんな……こんなファンタジーテイストな夢など要らぬ!
俺が欲しいのはえっちだ!
そんな俺の思いは、けたたましく鳴り響く火災報知器の警報音でかき消された。
天井が真っ黒だ。さっきの炎で焼かれたらしい。
「あーもういいよ、この夢」