第6話 体育館消失
異世界への移動ではなかった。移動先はほんの数十メートル先だった。
「なんなんだ、デヴィ!」
「あれを見て!」
「なんにもないぞ?」
デヴィが指さした先……俺たちがさっきまでいた体育館の辺りを見る。
「そう、何もないの」
「だろ?」
「あんたバカ? よく見て。何もないでしょ!」
もう一度体育館の方を見る。
ん?
んん?
「ねぇ、マメ君、体育館が……」
先に花子が気がついた。
「体育館が……消えている……」
地面はえぐら、地面ごと体育館が消えていた。
「……すごい魔法ね。体育館とその周囲をごそっと異世界へ持っていった。魔法力無効があっても無駄よ。足下の地面から持っていってるから、あのままだったら、あなたも転移していたわ」
デヴィが言った。彼女の目は緑色に光り、何かを探している。さらに、スカートの中から尻尾が出て、まるで周囲を探るかのようにゆっくり動いている。
「デヴィさんのお尻、なんか変だよ……」と花子。
「ああ、後で説明する」
「来る! 逃げて! デ・カスト・カバデル!」
デヴィが叫んだ。
俺の隣にいた花子が消えた。
「ちょ、なんであんた残っているの……って、魔法力無効か!」
デヴィがイラッとした顔で俺を見た。
「と、隣! 隣見て!」
俺は隣を見た。
めっちゃ至近距離、というか花子がいた場所に男子生徒が立っている。
「おわ!」
驚いた俺はコケてしまった。
こいつは……えーとだれだ?
モブキャラ眼鏡男子だ。リジー親衛隊の。隊長だ。
「お前、確か親衛隊の……岡山? 津和野? 萩? 小倉?」
「倉敷だ!」
イラッとした顔で倉敷が答えた。
そうだった。倉敷……下の名前なんだっけ?
「……ふ、名前などどうでもよい。世を忍ぶ仮の名前だからな。君、人間だろ。知っているぞ。遠藤雄飛だ。そんな魔族と関わるのはよせ。こちらへ来い」
倉敷が俺に呼びかける。こいつ、デヴィが魔族ってわかるのか?
ちょっとやばいな、警戒するに越したことはない。異世界関係者だ、あいつ。
となると、リジーに近づいたのも偶然ではないな。リジーが心配だ。
「どうした? なんでこっちに来ないんだ?」
倉敷が不満げに言った。
「すまん。全く話が見えない。お前、リジーの親衛隊長だろ? なんだこれ? ファンクラブのイベントか? リジーに言われてデヴィに復讐しにきたのか?」
倉敷は眉間にしわを寄せ、右手で眼鏡の位置を直す。
「ファンクラブ? ふ、まだそんなカモフラージュに騙されているのか」
仰々しく倉敷が言った。
「私こそ、ディオロニス魔王国王子にして次期魔王、誇り高く気高き魔王国のアイドル、クリストファ・ディオロニスである!」




