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第3話 親衛隊

 花子はいつも弁当を一緒に食べているメンバーのところへ行く。手を合わせ「ごめんね」と言ってる。相手の女子は「いいよー」「ごゆっくりー」などと応える。花子は「やだー」「そんなんじゃないってー」と照れ笑いをする。


「ごめんね、みんなに今日はマメ君と一緒に弁当食べるから、って言ってきた」

 弁当を片手に花子が言った。

「じゃ、いこ!」

 ニコニコしながら花子が言った。


 俺と花子はリジーの教室に向かった。リジーを教室でピックアップ、そのまま学食でメシを食う約束だ。

 花子と一緒にランチ。リジーという付録が付くが、視野から追い出せば良い。

 俺は内心ガッツポーズだった。


 花子は弁当を持って、俺は手ぶらで1年1組の教室に行った。

 リジーもドラゴンもいない。アスカさんも。先に学食に行ったのだろう。


 俺と花子も学食へ向かう。

 昼時の学食は混んでる。ざっと周囲を見渡すが、リジーとその仲間達らしき集団は見えない。


「いないな……」

「私、探してみるね。マメ君、先にご飯買ってきて」


 花子にリジー探しを任せ、俺は食券を買う。きつねうどん280円。調理カウンターの列にしばらく並び、おばちゃんからきつねうどんを受け取った。


 花子はどこだろう? ぐるっと学食を見回す。

 すると、学食の奥の方で花子が手を振っていた。リジーを見つけたらしい。俺はそっちへ歩いた。

「リジーちゃんいたけど……」

 困惑した表情で花子が言った。


 すぐ近くのテーブルにリジーはいた。

 リジーを中心に男子生徒が取り囲んでいる。まるで、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の絵画のように。


「姫様、なんなりとご用を申しつけ下さい」

 取り巻きのモブキャラ的眼鏡男子がリジーに言った。


「よろしくってよ。あのね、オランジーナが飲みたい! あとジャムパン! お金はないわ!」

「よろこんで!」


 モブキャラ眼鏡男子他数名が先を争うように自販機と購買へ向かう。


「……何やってんだ?」

「あ、お兄ちゃん!」


 残りのモブキャラ的男子生徒が一斉に俺を見た。よく見ると全員はちまきをしている。はちまきには「リジー命」と書いてある。

 彼らは一斉に起立して「ちっす!」と俺に挨拶。再び座った。


「見てみて、親衛隊だよ、お兄ちゃん!」

「親衛隊?」


 一人のデブ眼鏡が立ち上がった。


「お兄様ですか? 隊長がジャムパン買いに行ってますんで、副隊長の自分が説明します。ちっす! リジー様親衛隊『ぴゅあぴゅあ』副隊長の福山っす!」


「……親衛隊?」

「そうっす。俺たち、リジー様の大ファンで、お近づきになりたいと思ってたんすけど、ピュアな俺たちはどうしても話しかけることが出来なくて、で、親衛隊っす! 自分でも意味わかんないっす!」


 自分で突っ込むなよ……。いや、ボケか? どうでもいい。 


「……とにかく、俺ら、全力でリジー様を応援するっす!」

 ういっす、と全員が唱和する。学食の注目を集めてしまった。


「あ、隊長、ご苦労様っす!」

 副隊長が帰ってきたモブキャラ眼鏡男子に言った。


 モブキャラ眼鏡が俺を見て微笑んだ。

「僕は親衛隊長の倉敷翔太だ。君も親衛隊に入りたいのかな?」

 リジーにオランジーナを渡しつつ、倉敷が言った。


「いえ、兄だ」

「兄? ……兄ねえ。ふうん」

 訝しげに俺を見る倉敷。

「えらく見た目が違うようだが……? 使用人の間違いではないのかな?」

 倉敷が冷たい目で言った。


 そんな倉敷を俺は無視してリジーに話しかける。

「親衛隊ってなんだ?」

「親衛隊は親衛隊だよ、お兄ちゃん」

 リジーはニコニコ笑った。

「指輪の魔法でマインドコントロールしているのか?」

 俺はリジーの耳元に口を寄せ、小声で言った。

「違うよ。自分から言ってきたの。あの人が」

 リジーが親衛隊長を指差した。

「親衛隊長。私のクラスメイトの倉敷翔太とかいう人間」


 倉敷翔太。親衛隊長。

 モブキャラにしか見えない何の特徴もない眼鏡男子。

 マンガで言えばアシスタントが書いたキャラ。

 アニメなら「男子生徒その1」。

 ラノベなら地の文。


 そんなやつが、いくら(客観的に)ずば抜けた美少女とはいえ、昨日出会ったばかりの女子の親衛隊を作るだろうか?


「あいつが、自分から申し出たのか?」

 思わず声が大きくなった。

「うん。でね、親衛隊って意味分からなかったから、アスカに聞いたの。そしたら、アスカは親衛隊あった方が良いって言ったのね。だから良いかなって」

 リジーが小声で返事した。


 俺はメイド服のサキュバスを見た。涼しい顔でラーメンを食っている。

「アスカさん、ちょっといいかな?」

「はい、なんでしょう?」

「……こっちに来て下さい」


 アスカが立ち上がり、俺の方へ来た。親衛隊から距離を取ってから、アスカに言った。


「どういうことですか?」

「どうもこうも……エリザベス様を守る親衛隊ですわ」

「おかしいと思わないか? いきなり親衛隊って」

「おかしくはありません。指輪のマインドコントロールで、生徒の皆さんはすべて、エリザベス様をお慕い申しております。その気持ちから、身辺護衛をしたい、警備したい、という気持ちが高まるのは当たり前ですわ」


 淡々とアスカが答える。やれやれ、マインドコントロールにそんな副作用があるとは。


「守る? ただのファンクラブじゃないですか!」

 俺の言葉に、アリスが首を傾げる。

「ファンクラブ? 私の日本語の知識では、親衛隊とは『国王など重要人物の身辺を護衛する組織のこと』ってありますわよ。ファンクラブとは違います。ファンクラブとは……」


 アスカの説明を俺は制止した。


「いや、いい」


 倉敷の言う「親衛隊」はいわゆるアイドルの親衛隊だ。つまるファンクラブだ。


 アスカにはアイドルの「親衛隊」の語義が理解できないから、それがファンクラブと同じとは分からないのだろう。


「あの、マメ君、きつねうどん冷めちゃうよ……」

 花子に言われて気がついた。ずっときつねうどん持ったままだ。

 確かに、うどんが冷める。


「わかった。じゃ、あとでな。リジー。俺、放課後用事あるから、先に家に帰ってくれ。アスカさん、あとは頼んだ」


 俺は花子と一緒に冷めたきつねうどんを食べた。

「演劇部の話、また今度にするね。放課後忙しいんでしょ?」

「あ、ああ、そう……だな」

 放課後はデヴィに呼び出されているからな。


 ま、とりあえず花子と二人でメシが食えたんだ。それは良かったと俺は思うことにした。

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