第2話 魔王の娘、正体バラす
1時間目の授業は全く頭に入らなかった。
リジー、うまくやっているだろうか?
魔法とか使ってないよな?
言い寄ってきた男子生徒を異世界転送とかしてないよな?
意地悪言ってきた女子生徒を地獄の火炎で焼き殺したりしてないよな?
「いや、やりかねん………」
1時間目の授業後、俺は1年1組へダッシュした。
教室の窓から様子を伺う。
リジーの机は真ん中の列の一番後ろだった。リジーの周囲に女子が集まっている。
「えー! お父様、王様なの? すごーい」
「うん! 」
おい。何を喋ってるんだ。リジー。
「そーなの、本当のお父様はね、遠い国の王様なの!」
「えー、じゃあ、あのお兄さん、本当のお兄さんじゃないの?」
「てことになるわ!」
……なるわ、じゃねぇだろ。正体ばらしてどうする?
俺は教室に突入した。
「あ、お兄ちゃんだ! ほらね、言ったとおり、シスコンでしょ? すぐに会いたがるの!」
きゃーという女子の歓声が俺の鼓膜を刺激した。
好奇心に満ちた視線が俺に刺さる。
「リジー、ちょっと来なさい」
「あん、お兄ちゃんたら強引なんだから!」
「いいから、こっち来い」
俺はリジーの手を掴んだ。再び女子がきゃーきゃー叫ぶ。
「手を握ったりして、本当にシスコンなんだから!」
シスコンシスコン連呼するリジーを俺は廊下に連れ出し、あまり生徒が来ることのない屋上へ通じる階段に連れてきた。
階段の踊り場にリジーを座らせる。
「お前、クラスの女子に何を話していたんだ?」
「ひ・み・つ! ガールズトークの内容を聞こうなんて、サイテーだよ、お兄ちゃん」
……どこで覚えたそんな語彙。
「ガールズトークじゃないだろ! 本当の父親が王様って、それ、誰も信じないぞ! お前の父親、アラブの石油王か!」
俺は語気を強めて言った。
「アラブノセキユオウ?」
リジーは首をかしげる。
「……ガールズトークは知ってて、石油王知らんのかよ! どうなってんだお前の日本語!」
「仕方ないじゃない。異世界から来たんだから。心理融合も完璧じゃないんだよ」
開き直るリジー。
ぬぬぬ。
怒鳴りつけたい気持ちをぐっとこらえて、俺は優しく言った。
「……異世界からの追手がいるんだろ? 自分から正体バラすな」
「そうだけど」
リジーが下を向く。
「だって……みんなに金髪きれい、青い目きれい、外人みたい、って言われて、外人キャラでいこーかなーって……」
「外人キャラ?」
「だって、外人だったら、みんな優しく話しかけてくれるの。私、魔王国では同い年の友達とかいなかったから……嬉しくて」
魔王の娘として、同世代の友人とも付き合うことなく教育されていたってことだろうか。
確かに辛かったのだろうが。
「あのな、リジー。お前は客観的にはかわいいんだ。外人でなくても話しかけてくれるさ」
「ほんと? かわいい?」
リジーがキラキラした目で俺を見た。
「ああ、客観的には。俺の主観とは異なる」
「え」
リジーはやや不服そうだ。
「だいたい、お前、花子には金髪と青い目は手術の合併症って言ってたじゃないか。外人キャラと矛盾するぞ?」
「あ、そうだった」
リジーが照れ笑いする。
「まあ、今回のことは、脳が欠けたことによって引き起こされた妄想ということにしておこう。俺と血が繋がっていない件も含めてな」
「えーそれはどーかなー。なんか、すごく残念な人みたい」
「外人キャラでクラスの人気者になろうとするほうが残念な人だと思うぞ」
「そっかなー?」
その時、階段の下からドラゴンが飛んで来た。
「あー、いたいた。ユウヒ、リジーを勝手に連れ回さないでよ。キミと一緒にいるとリジーを探すの難しいんだ」
そうだったな。特異点だっけ、俺。
「少し前にチャイムが鳴っていたけど、いいの? ユウヒ。リジーも」
ドラゴンに言われて、俺は腕時計を見た。ちょうど10時だ。
2時間目は9時45分から始まっている
「……よくないな。教室に戻ろう」と俺は言った。
「学校忙しいね」とリジー。
その時だった。青みがかった長い黒髪をたなびかせ、一人の女生徒が話しかけてきた。
なかなかの美人だ。
「あら、全員おそろいね。魔王の娘にドラゴン、そして……なにこれ? ああ、下僕か」




