第1話 魔王の娘、登校する
月曜朝7時半。約束通り花子がマンションエントランスに迎えにきた。
「おはよー、リジーちゃん、制服似合うね!」
「わーい。ほめられた」
「かわいいなあ、リジーちゃん。ホント、外人みたい!」
ああ、異世界人だからな。外人というレベルじゃねーし。
「ワン!」
ドラゴンがパタパタ飛んできた。ああ、そうか。こいつ、介助犬設定だった。
「あ、これが介助犬? ラブラドールレトリバーなんだ! かわいいね! あ、触っちゃだめなんだよね、お仕事中だから」
「今はいいよ」とリジー。
「ありがとー! おとなしいねー、ワンちゃん!」
花子が何もない空間で何かを撫でる仕草をする。あそこに幻影介助犬の頭があるんだろう。
「ね、名前は何ていうの?」
「えーっと、ドラちゃん!」
「ドラちゃん? 変わった名前だね。猫みたい」
本当はドラゴンのドラだ。
「さ、学校に行くか」
「そうね、いきましょう」と花子。
学校に着いた。介助犬を連れた金髪碧眼美少女のリジーは人気者だった。
特に男子生徒の視線が熱い。確かに、制服を着たリジーは美人だ。胸もデパートで買った高級ブラのせいでいい形だ。小さいが。
介助犬については「脳の手術の後遺症で方向感覚に難がある。また突発的に倒れることがある」という理由で許可されていた。俺にはドラゴンにしか見えないのだが、皆には無事ラブラドールレトリバーに見えているようだ。
花子と別れ、俺とリジーは職員室に行く。
職員室に入ると一人の女教師がこちらにやってきた。
セミロングの茶髪。
黒縁メガネ。
20代後半だろうか。教師らしく地味な服装だ。
「はじめまして、遠藤リジーさん。入院大変でしたね。私が担任の伊藤晶子です。担当教科は国語よ。こちらは……お兄さんと介助犬ちゃんかしら?」
「はい。兄の遠藤雄飛です。これが介助犬のドラです」
適当にドラゴン方面を指差して言った。
「ドラ? ドラちゃんだろ!」
ドラゴンが俺の耳元まで飛来して来て小声で抗議した。
「犬は喋らねーぜ」
「ぐぬぬ」
「遠藤さんの教室は3階の1年1組よ。教室まで案内するわね」
「じゃーね、お兄ちゃん。放課後迎えに来てね」
「ああリジー。放課後、教室まで迎えに行くわ」
言ったあとで思い直した。
腐っても魔王の娘。人類の想像を超えた能力の持ち主だ。
放課後までに何をやらかすかわかったものではない。
「……いや、待て。とりあえず、今日は休み時間のたびに様子見に行くわ」
「もう、お兄ちゃんたら、シスコンなんだから! いいよ、かわいい妹に毎時間会いに来ても!」
リジーがニコッと笑った。
いや、そういう話じゃないから。




