第12話 魔王の娘、喜ぶ
「明日から学校って……制服だけじゃないんだぞ? 必要なものは」
「もう、お兄ちゃんは心配性なんだから!」
「いや、そういう問題でなくだな、書類とかいろいろあって……」
ドラゴンがやって来た。
俺たちの目の前に、教科書、生徒手帳、その他学用品を置いた。
「わーありがと、ドラちゃん! 助かるー!」
「なんだこれ?」
俺はドラゴンに聞いた。
「リジーとユウヒが買い物に行ってる間に学校へ行って生徒手帳と教科書を貰ってきた。これで明日から学校に行けるよ。あと、在籍記録を改竄しといた」
「わー大変だったでしょ、ドラちゃん。大丈夫だった? 人間にひどいことされなかった?」
リジーが心配そうに聞いた。
「幻影魔法があれば、こんなの訳ないよ。あと軽い心理魔法も使えるしね」
「幻影魔法?」
「ボク、幻影ドラゴンなの。幻影魔法使えるんだ。人間の脳に直接的視覚効果を送り込んで幻影を見せることが可能なんだ。人間にはボクの姿が犬に見えるはずだよ」
「見えてねーし」
「だから、ユウヒは魔法力無効持ってるから。校長先生からは介助犬ってことでボクが登校する許可はもらっているんだ」
「日曜の学校に校長先生いたのか?」
「ううん。でもほら、校長先生の印鑑あるでしょ。日本はハンコ社会だからね、これでいいんだ」
やけに語彙力あるな。
「お前、いつの間に学校に関する知識仕込んだんだ? リジーはさっきまで何も知らなかったぞ?」
「ふん、幻影ドラゴンは別名『賢者ドラゴン』とも言われるくらい、知性と知識欲が高いんだぞ。あの手この手でだいたいのことは学んだんだ」
「赤ちゃんドラゴンの割にはすごいな」
「赤ちゃん? ボク、赤ちゃんじゃないよ!」
ドラゴンがムッとする。
「え? リジーが卵から温めて、孵化させたんだろ? まだ幼獣だろ? ちっこいし」
「これで成体なの! ドラゴンは生後1年で成熟するんだ。ボクが小さいのは幻影ドラゴンだから。幻影ドラゴンは幻影でどれだけでも大きくなれる。本体は小さいほうがいろいろ都合が良いんだ。ほら!」
ドラゴンが両翼を広げた。
「大きいでしょ?」
「うわ、ドラちゃん、だめだよ! お部屋が壊れるよ!」
リジーが慌てる。
「いや、全然」
俺の目にはいつものネコサイズだ。
「……そうだった、ユウヒには幻影魔法効かないんだった。ともかく、これで大丈夫だから。ボクもついていくし!」
デパートの店員をマインドコントロールして半額で買った制服。
ドラゴンが学校に侵入して盗んできたらしい生徒手帳と教科書。
ドラゴンが学校に侵入して改竄した在籍記録。
これでリジーは問題なく、俺の学校の生徒になれる……のか?
心配する俺をよそに、リジーとドラゴンは夜遅くまで、大騒ぎしていたのだった。




