旅の途中なう
ごめんなさい遅れました。
1日遅れました。
申し訳ないです。
ゴトッ……ガラガラガラガラ………。
馬車の車輪が石に当たり、音を出す。
勇者を説得して、堕天使を倒す、面倒だな勇説堕倒で良いか?良いな。異論は認めないぞっ。勇説堕倒の旅をする僕らは、最初の国、ヒュームに向かっている。ちなみにだが、今乗っている馬車、そして馬はフォーカスさんがくれました。フォーカスさんが魔王、というのが不思議ですね。
聞いたところによると、勇者は人間、獣人、竜の末裔、エルフの四種族から1人ずつ選ばれる。もう一度言おう。人間、獣人、竜の末裔、エルフだ。
はっきり言おうか。聞いたとき、咆哮した。嬉しさで。いやそんなもんケモミミやぞドラゴンやぞとんがりやぞ!うにゃーーーーーーっ!
あとでフォーカスさんに言われたのですが、魔王城の周囲から苦情が来ていたらしいです。恥ずかしい。
まあ、その勇者4人を説得する。それが今後の目的。ちなみにだが、最初にフォーカスさんが見せてくれた金髪の兄ちゃんは勇者時代のフォーカスさん自身だとか。魔王になって髪の色が変わったのか。
最初の国、ヒュームは人間の国。なんとフォーカスさんの母国らしい。曰く、王族とも面識があったらしいので、自分の名前を伝えたらなんとかなるだろう、ということ。敬礼で返しました。フォーカスさんマジで何で魔王なの?気配りのできる大人!本当に優しいやん!
そんで、暇な馬車の旅の中、今何してるのかというと。
「おにーたァァァァァァん、捕まえたあァァァァァっ!!!!」
「しぇいっ!!」
従妹と鬼ごっこ。
意外とこれが辛い。精霊でもある真珠は、数日で身体能力向上の魔法全般を習得。というかそもそもできてた。悪魔の体力と合わせると、ほぼ永遠に走り続けられる。対して、ちょっと凄いだけの人は、転移前、全く運動していなかったため、そんなに速度・持久力があるわけではない。こうすることで、トレーニングとなっているわけだ。主に運動不足で足引っ張りそうな僕の。
大事なことを言おう。
潮上真珠は僕の貞操を狙っている。
いや巨乳ですけど。可愛いけど。以前、僕が部屋に入ると、『眼から光が消えていて、僕の布団、主に下半身の辺りを舐めてハァハァしながらおしょんして恍惚な表情を浮かべる従妹』がいたことがあるんだ。この貞操は美星に捧げる、と決めていたからよかった。もし真珠に少しでも気があったら、多分その夜震えながら泣き寝入りするところだったと思うんだ。いや、だからこそ美星のために貞操を守ろうと改めて誓えたのかな。ちなみにアイツのスマホの待受は僕の寝顔だったんだよね。いつ撮られたんだろう。
そんな変態が自らの願望を丸出しにして襲いかかってくるんだ。
さらに一応言う。
真珠ちゃん、走りながらお手々ワキワキさせてる。
そうだよ、美星は馬車の中から応援してくれてるんだ。神様だから、僕みたいなことしなくても何でもできるんだって。僕はそれを支えに頑張るんだ。いつか告白するんだ。絶対告白するんだ。そんでもなきゃあんな真珠に立ち向かう気は起きな、いやおいまてまてまてまて来るな来るな来るな来るな眼に光がないからよだれ垂れてるお願いしますダメダメダメダメ!
僕は「バァァァニングラァァァァブゥゥ」とか言いながらロケットのように駆けてくる真珠を、怖いもの見たさで振り返ってしまった。
そのときに前、もっと言えば足元を見ていなかったのが災いした。
もしも、運命の神というのがいたのなら、こういうときに大きめの石を足元に置くのはやめていただきたい。
そう、お分かりの通りです………………奴の目の前で、躓いた。
この状況。躓くっていうのは、どれだけ僕の貞操に関わることかお分かりですね。僕は現実逃避が楽しくて楽しくて。あははっ。
一応、恐る恐る奴に目の焦点を合わせてみた。
「おにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんおにーたんゥヘヘヘヘへへへへへへへへHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH」
「きゃああああああァァァァァァ!!!!」
くくくくくく食われる。まてまてまてまて押し倒すな何興奮してんだ………!
奴は目を血走らせて此方を見ていた。はい、知ってた。仲間にしますか?ごめんなさい床ドンの体勢なので逃げたくても逃げられません。
そう馬鹿な考えをしているうちに、淫刑執行者が準備を整えていく。そうだ、これは夢だ。夢だ。それか最近の4D映画だ。いや、ここまで立体だから、6Dぐらいあるんじゃないかなー(棒)
そして、真珠が期待に道溢れた様子で此方を伺い、涎をすすり上げながら一言。
「おにーたん、まずはペリョペリョするからね。痛くないからね。ね?」
おいおま、それ完全にあれよ!ちょっと待て服に手を伸ばすな!あ、学生服は脱いでるよ。ちゃんと異世界の人に見えるように服は取り替えたのだ。なんか、ザ・村人みたいなの。そうだね、この服は脱がせやすい、Tシャツっぽいやつだもんね。うん、うん。あはははっはっはっ……|うふふふふふふふふふ!《現実逃避楽しい》
真珠はボタンに手を伸ばしたが、ふと手を止めた。
「うーん、脱がせるのも良いけどなぁ………なんか物足りないだよな………いっそのこと服に頭突っ込んでみるか………」
いっつていすてんぐたーーーーいむーーーー。あはははっはっはっ。はっはっはっ………(泣)
そして、悪魔、いや、こいつが本当の魔王なんだな。魔王が僕の服を持ち上げ、頭を服と胴との間にできた隙間に頭をねじ込んでくる。
「失礼、ペリョペリョしますねー」
嗚呼、悪魔の舌先が服の下から僕を舐めようとする
………。
と、そのとき!救世主は降臨なされたのだっ!
「まったく………真珠ちゃん、ストップ!」
「グビッ!?」
突如飛んできた美星が!救世主の垂直チョップが性欲の猛獣の頭にクリーンヒット!相手は舌を噛んだ!これは痛い!ちなみにですけどね、なめなめは未遂で済みましたよ。ええ、あたし、まだ汚れてない。
ちなみにです。美星が飛んできたというのは、背中から羽、いや翼を生やせるという天使の能力によります。マジ天使や。文字通りか。
美星は此方を一瞥し、腕を組んでこう言った。
「神樹ってさ、つくづく真珠ちゃんに甘いよね………。な、舐められようとしてるのに、逃げようとしないなんてさ」
「はっ!自分は真珠に甘いです!妹みたいな感じがして、何か可愛いのです!」
その直後、魔王はその不屈の(下)心により復活して、襲いかかってきた。
「おにィィィィィィィィィィィィィィィィたァァァァァァァァァァァァァァァァァァん」
「喰らえ手刀!」
タンッ
「にゃっ………」
ふう。両手広げて襲おうとしやがって。そこで寝てろ!甘やかすとすぐ襲おうとするのは駄目だぞ!ちなみに今の手刀は真珠の対策用に凄く使いやすい。うん、鍛えましたよ。何千回と首筋に打ち込んできたから急所は手に取るように分かりますよ。記憶だけを刈り取るんです。後遺症はないので安心して寝てほしいんだな。
「………じゃ、じゃあ、私は?私はどう思ってるの?」
「はっ!可愛いです!それしか言う言葉が見つかりません!」
「……………」
言った途端、美星は顔を赤く染め、まるでトマトみたいになった。可愛い。
ギュムッ
「……………ありがと」
ふう。両手広げて抱きついてきやがって。可愛いなあ美星は!もう大好きだぞ!告白はまだですがなにか。え?ハグとかしてんのに何で告白できないのかって?そりゃ、まあチキンだからですよ。
すると、感極まったのか、美星は僕の首筋をくんくんし始めました。意味が分かりません。
「……スンスン」
ひたすら首筋を嗅いでいます。美星可愛い。こちらからやると事案になるかもしれないので、控えております。
するとだ。
「にゃーーーーーーっ!いったい、なにお、しとるとですか!混ぜてください!」
真珠復活。何でこういう雰囲気をぶち壊すんだろうなコイツ。ほんと誰かコイツ要りませんか?プライスカットでどうぞ。要りません。
「………はっ!な、何してるんだ私!こんなことしちゃだめじゃないか!…………良いにおいでした、ありがとうございました」
最後辺りは聞こえなかったけど、そう言って美星は離れてしまった!これもまた告白できない理由の一つ。美星が極度の恥ずかしがり。もっとくんくんしてくれてもよかったんだけどなぁっ!どこかの魔王もどきのせいで!にゃーーーーーーっ!
「と、とりあえず馬車ん中に退散するねっ!」
「おにぃたぁぁぁんんんんその芳しき首筋を真珠にィィィ!!!!」
そうして美星は退散して、真珠との鬼ごっこが再開されるのだった。こういうのが何回か繰り返されてんだよね…………。
○
ここは、誰も知らない空間。ここを知っているのは、今ここにいる、3つの影だけである。それぞれ、横になっていたり、正座をして瞑想していたり、女の子座りで宙を見つめていたりと各々違うことをしている。
しかし。この3つの影は全く同じ姿をしていた。そう、言わずとも分かるであろう、碧雷神樹の姿である。
『うーーーん、そろそろシン値が貯まってきたかもね』
影の1つが唐突にそう言った。寝転んでいる影だ。全てを楽しんでいるかのような楽しそうなその声に、別の声が、鋭さを隠そうともしない低い声が応じた。瞑想をしている影である。
『そうか。ならば我達が出れるのかもしれないな』
『いや、ちょっとまって?………………………今のシン値量から見ると、どうやら出れるのは1人だけみたいだ。俺達3人全員出れるようになるのはもうちょっと先みたいだね』
ゆっくりと立ち上がった低い声の影はすぐに行動をしようとしたが、楽しげな声の影は新たに明らかとなった情報を伝え、相談するべき案件であることを示す。
『ボクは、とりあえず生きる目的があればいい。神樹が何か見つけてくれればいいんだけど』
子供のような声をしたもう1つの影はそう言った。その影は自らの生きる意味を欲しがったが、ここにはいない神樹に全てを押し付けている。自分で探すことは諦めている。頑張れ神樹。というか、何故、神樹のことを知っているのか。
『まあ、最初は知識人が行く方が良いだろう。勿論我も出たいことは山々なのだが、自由、ここはお前が行ってくれ』
『そうだね、シン値の貯め方とかも知ってもらった方が、後々ボク達が出るの早くなるかもしれないし』
瞑想をしている影、宙を見つめていた影はもう1つの影を推薦したようだ。そして、その影、自由は了承の意を示した。
『おー、りょかですー。まずは俺が行ってくれば良いんだな?』
『ああ、これで少し静かになるな』
『何か言ったか惨殺。喧嘩なら買おう』
『冗談だ』
自由は瞑想をしていた影、惨殺にからかわれることが多いようだ。最も、からかわれた自由の方も意外と楽しそうにしていることから、両者の仲は良いことが伺える。
『さて、と。じゃあ行ってくるかな。すぐに出してやるから、待っててくれ』
『ああ、我も空白と共に待っているからな。早くしてくれよ』
『うん。いってらっしゃい、自由。神樹によろしく言っといてね』
別れの挨拶をした自由は、この空間から他の二人、惨殺と空白を出すことを約束して、神樹達がいる世界へと移動を開始した。
彼らがいるこの空間は、所謂ブラックホールのように光すら吸い込むものとなっている。なので自由達は影のようになっていたのだが、そこから飛び出した自由は光が当たるようになる。
神樹と似た、いや神樹そのものであるその全身に。
次回、二人の神樹!
って感じです