↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神回収プログラム ~口外できぬ剣士の秘密と、姫への永誓~  作者: 呂兎来 弥欷助
招かざる者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/409

【23】恋人(1)

 沙稀《イサキ》と瑠既《リュウキ》が部屋から出て、廊下の絨毯が紫紺から濃い赤紫に変わるころ、前方から大臣が来るのが見えた。

「お着替えを用意いたしました。ご夕食の間にベッドの入れ替えをしておきます。一先ず、お着替えだけでもなさってください」

 大臣は今夜から奥の部屋を使用するようにと促す。しかし、瑠既《リュウキ》は首を横に振る。

「俺にはもう、そんな資格ねぇんだよ」

 大臣は言葉の意味をすぐにつかめず沙稀《イサキ》を見たが、見られた方は横目で察知すると、髪に触れた。

 瑠既《リュウキ》を見直し、大臣は納得する。確かにその髪は短い。当然、大臣も短髪が示す意味を理解している。

「その髪でしたら、時間が解決します」

 拒否した理由を大臣は笑顔で受け流したが、

「そうじゃなくて」

 と、瑠既《リュウキ》は食い下がる。はっきり言わない意図を大臣は汲み取り、聞き返す。

「お連れの方、ですか」

 すると、想定外な言葉が返ってきた。

「それ以外でも」

 瑠既《リュウキ》の不満そうな視線は、大臣から一切逸れていない。

 瞬時、流れる沈黙。

 沙稀《イサキ》は半笑を浮かべ、呆れたような小声がもれる。その反応に、大臣はハッとする。

「何をなさっていたのですか、貴男は!」

「だから、俺にはもうそーゆー資格ないから」

 軽々しい瑠既《リュウキ》の態度に、大臣は悔しいと言わんばかりに口を閉じる。変わりに口を開いたのは沙稀《イサキ》だ。

「誄《ルイ》姫が待っている。自らした約束は覚えているだろ」

 呆れた分、口調は厳しい。続いて大臣も賛同するように言う。

「誄《ルイ》姫はずっと貴男をお待ちしていたのですよ。『自分のために産まれてきた人だ』と言っていたのは貴男です」

「大臣に鴻嫗城《ココ》でそう言う前に、鐙鷃《トウアン》城で見届け人になっていたのは俺だ。初めての口づけを肉親の前で行う──それが正式な婚約の証だと、認識はあっただろう?」

 大臣と沙稀《イサキ》に正論を言われても、

「ちぃさいときの話だよ」

 と、まるで他人事のように言った瑠既《リュウキ》に、大臣は苛立ちを解放する。

「それを、誄《ルイ》姫に言えるなら言ってくださいね!」

 大臣は一歩近づくと、着替えを無理に受け取らせる。

「お待ちですから、着替えていらしてください」

 大臣はそのままその場をあとにしようとしたが、瑠既《リュウキ》に服を押し返されてしまった。

「何を……」

「それを着る資格もないってこと。それでも、どうしても会わないといけないなら、このままで会う。そうすれば……誄《ルイ》姫も、わかると思うから。……それより、倭穏《ワシズ》はどこだ? アイツには話さないといけないことがある」

 どうあっても、瑠既《リュウキ》は婚約を破棄するつもりだ。それを察知したのか、沙稀《イサキ》は提案をする。

「大臣、折角来てもらった誄《ルイ》姫には申し訳ないが、今日のところはお帰りいただこう」

「沙稀《イサキ》様?」

「会いたいと言う方がいるんだ。お連れしろ」

 視線は大臣に動き、口調には怒りがこもっている。

「その変わり」

 沙稀《イサキ》は大臣の手元から衣類を受け取り、

「恭《ユキ》姫とは会っていただく。そのときには、せめて正装を」

 ポンと瑠既《リュウキ》の胸に突き付ける。

「夕飯前に迎えに上がる」

 ジッと瑠既《リュウキ》を見た沙稀《イサキ》は、

「では、俺はこれで」

 と、否応なしに約束を取り付け、ツカツカと歩き始める。それも、一度出た区画内の深部へと向かって。

 恐らく、誄《ルイ》の待つ部屋に心あたりがあるのだろう。城内を知り尽くしているからこそ、歩いていく方向だ。

 一方、残された大臣は渋々、

「では、お連れ様のお部屋へ……一(・)先(・)ず(・)ご案内いたします」

 と、歩き始める。もちろん、沙稀《イサキ》とは反対方向だ。

 歩き出しても大臣の不機嫌は直らない。むしろ、いつになく不機嫌だと言ってもいい。

「ねぇ、俺さ、夕飯も倭穏《ワシズ》と部屋で食いたいんだけど」

「駄目です」

「じゃ、まさか恭良《ユキヅキ》とふたりでってことはねぇよな?」

「存知上げません」

「冷てぇな。……沙稀《イサキ》はああ言ったけどさ、大臣なら沙稀《イサキ》を説得できんだろ?」

「できません」

 大臣はあっさりと答える。しかし、瑠既《リュウキ》は懲りない。

「またまたぁ。大臣は嘘をつくのが得意だからな。『仕事の一環です』とか何とか言いつつ、ホラを吹くって感じ?」

 調子よくしゃべる瑠既《リュウキ》に大臣はピタリと足を止める。これには、さすがに瑠既《リュウキ》の足も止まる。

 大臣は振り向く。よく見れば、大臣の背には扉がある。単に、案内が終わったということだ。ただ、大臣の機嫌は最後まで回復しなかった。

「勝手になさい」

 幼い子を叱るように言い放つと、その場を立ち去る。

 瑠既《リュウキ》は振り返り、しばらく大臣の背を眺める。

「何だよ」

 不満がもれる。あんなに大臣に冷たくされたことはない。久しぶりに会ったからと言って、関係が崩れるとは思いもしなかった。

「でも、まぁ……ああいう態度ならそれはそれで、いいか」

 どうせ長居をするわけではない。そして、鴻嫗《トキウ》城を出てしまえば、それが最後。後ろ髪を引かれる思いをしないでいいと思えば、気楽とも思えた。

 瑠既《リュウキ》は扉を開ける。

「よぉ、待たせたな」

 鍵は開いていた。倭穏《ワシズ》は待っていたと瑠既《リュウキ》には伝わる。

 倭穏《ワシズ》はベッドの上に座っていた。となりに瑠既《リュウキ》は座る。

「夕食の前に着替えろって言われちゃった」

「お偉いさんみたいになるの?」

「さぁ? 正装するだけだけど」

「へぇ~」

 倭穏《ワシズ》は瑠既《リュウキ》の手元にある服をジロジロとのぞき込む。そして、視線を瑠既《リュウキ》に戻すと、照れた表情を浮かべる。

「格好いいんだろぉね。一番に見たいなっ」

 倭穏《ワシズ》の無邪気な言動に、

「よし、着替えっか」

 と、瑠既《リュウキ》は立ち上がる。

 瑠既《リュウキ》はボタンを外し始めたが、倭穏《ワシズ》は瑠既《リュウキ》を見上げたままだ。

「着替えるとこまで見てる気?」

 瑠既《リュウキ》はニヤリと笑う。だが、倭穏《ワシズ》は照れもしない。

「何よ~、変化を楽しんでもいいじゃない」

「あのな、変化ってのはじっくりその様を見るより、ビフォーアフターを見た方が楽しいの」

 倭穏《ワシズ》は疑うような視線を送る。

「ほんと?」

「騙されたと思って、あっち向いてろ。着替えたら声かけるから」

 瑠既《リュウキ》は手を倭穏《ワシズ》に向け閉じたり、開いたりを繰り返す。その動作に倭穏《ワシズ》は不平をもらしながらも、瑠既《リュウキ》に背を向ける。

「も~い~か~い」

 背を向けてすぐの発言に、瑠既《リュウキ》はつっこみを入れたくなる。だが、

「まぁだだよ」

 と、調子を合わせた。


 そんなやりとりは何度か繰り返され、

「もぉい~よ」

 と、瑠既《リュウキ》は答える。倭穏《ワシズ》がパッと振り向くと、

「お待たせいたしました」

 と、両手を広げて見せる。──しかし、返答はない。

「どお?」

 もう一度、瑠既《リュウキ》が問うと、倭穏《ワシズ》は後ろを向く。

「何? はっきり言えって」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。