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それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
獣人の娘と深き闇

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59 密航者、希望だ。

 俺たちは、港町に向かった。道中でエルフのロマリーニにズンダとクマと恐竜の話をしたが、恐竜についてだけは信じなかった。

 この国の北にあるというエルフたち森には、存在しない生き物らしい。

 ズンダはドディアに狩人のわざを教えてくれると言ったが、結局習う時間はあまりなかった。


 エルフが宿泊していた保育所に、俺とドディアも一泊し、その間にズンダが何か教えていたが、この短時間で習得できることもそうはないだろう。

 ズンダのサロワリ村を出てからは、ほぼ何事もなく、旅は続いた。

 ほぼ、というのは、俺を探しているらしい冒険者と思われるものたちがいたが、発見されなかったのだ。知り合いではない。どうやら賞金首となったらしく、賞金稼ぎのために捕まえるか殺すかしようとしている連中だ。


 戦闘になっても勝てるとは思うが、俺のことを知って捕まえようとしているのであれば、俺が使用する魔法についても対策を立てているはずだ。出くわさないに越したことないと思い、俺たちはやり過ごすことにした。

 街道を避けているので進みは遅いが、サロワリ村から十五日目にして、港町であるキョンラノにたどり着いた。






 街を見下ろせる岩山に登る。街が見えるが、それ以上に海が見える。ずっと潮の匂いはしていたが、遮るものがないと実に鮮烈だ。

 ドディアも隣で鼻をひくつかせ、エルフは興味がなさそうに遠巻きにしていた。


「ロマリーニ、街にはどうやって入るんだ? 俺は、指名手配されていないのか?」

「私もちょっと、気になっていたところなんですよ。私は問題なく入れますけどね。この国では、獣人は奴隷としてしか街には入れません。一度奴隷になったらどれほど苦労するか、カロンさんは身をもって知っているはずですね」

「ああ」


「街の門から入れるのは私だけです。よその国に行くには船を使わなければいけませんが、乗船手続きをするのも、普通の手続きでは捕まるだけです」

「……そうだろうな。で、どうする?」

「それを、私に尋ねるのですか?」

「ドディアに聞けと?」

「まさか。考えるのはカロンさんですよ」


 エルフは当然のことを言ったつもりだろうが、俺はなぜか腹が立った。理由は簡単だ。あまりにも、人ごとだ。そもそも、逃げろと言ったのはエルフではなかったか。

 腹を立てていても仕方がない。俺は、ドディアに尋ねた。


「泳ぎは得意か?」

「何? それ?」

「泳ぐんだ」

「川で……魚とった」

「あそこで泳ぐ」


 俺は、眼下に広がる果てしない海を指さした。


「……無理。沈む」


 どうやら、泳ぎは得意ではないらしい。だが、ひょっとして海を泳いで渡ると言われたと、勘違いしたのかもしれない。俺はさらに質問を重ねたが、海で泳ぐのには自信がないようだと理解した。


「方法は他にもあるか……ロマリーニの奴隷ってことにすれば、入れるのか?」

「この国は、エルフを奴隷にすることは禁じていますが、同時にエルフが奴隷を持つことも禁じています。カロンさんを連れ込めば、私が罪に問われます」

「……なら、密輸と密航だな」

「犯罪ですか。私は遠慮させてもらいますよ。人間の法だといっても法は法です。犯すのはやぶさかではありません。先に街で待っています。うまく入れたら、合流しましょう」


 エルフは去った。俺とドディアは、岩山の上に残される。


「冷たい奴だな。あんな奴放っておいて、またダンジョンにでも潜るか? 強くなれれば、一緒……無理か。よその国で、金持ちになって貴族になって戻るんだった」

「ダンジョン、行く」

「ごめん。また海を越えたら、別のダンジョンに行こう」

「……うん」


 ダンジョンと聞いた途端に目を輝かせたドディアの頭を撫でる。すでに目的は達しているはずなのに、ドディアは相変わらずダンジョンが好きだ。ダンジョンに行けば、また弟がいると思っているのだろうか。


「さて……これだけの街だから、よその街とも交易をしているだろう。街は入る荷馬車に潜り込もう。ちょうどいいやつが見つかるまで、このあたりで野宿だ」

「うん」


 ドディアが最近は素直だ。野宿を苦にしないのもいい。たぶん、一人でいれば野宿しかしないのだろうが。

 俺とドディアは、キョンラノの街の門を視界に収めた岩陰で、長期戦を覚悟でほどよい荷馬車に目を光らせることにした。






 交易自体は頻繁というわけでもないらしく、俺とドディアは五日間、岩陰で野宿をした。

 道の向こうから荷馬車がやってくることを、ドディアが教えてくれる。ドディアは荷馬車とは言わないが、「大きい、馬、いっぱい」と言われれば、まあ荷馬車だろう。

 違ったらさらに待てばいいので、俺はドディアとともに見通しのいい崖の上に陣取った。


 二頭立ての馬車がゆるゆると近づいてくる。幌のついた大きな荷馬車だ。実に都合がいい。ドディアは正確に情報を伝えてくれたのだ。

 護衛の騎馬が四機、荷馬車に同行している。

 魔物が出る世界だ。護衛がつくのは当然なのだろう。


「ドディア、あの馬車に乗せてもらって、街に入ろう」

「うん」


 ドディアはたぶん、それが何を意味するか、理解していない。俺の指示には従ってくれる。俺が間違ったことをしても、たぶん支持してくれる。

 俺は急いで崖を回り込み、姿が見られない岩場に身をひそめる。下準備は十分にしてきたのだ。

 先導の騎馬が俺の前を通り過ぎた。

 荷馬車を牽く馬の足をやり過ごし、荷馬車が俺の前を通過する寸前、俺は魔法を使用した。

「ザン」

 荷馬車の後輪の車軸が、すっぱりと切断される。俺はドディアを抱いたまま、じっとしていた。


 しばらく進み、俺が車軸を切断した後輪がおかしな角度に曲がり、荷馬車が停止した。

 ここまでは、予定通りだ。

 荷馬車の中から数名と、護衛の騎兵たちが後輪付近に集まる。

 俺は、魔法を呼び出した。これまであまり使うことのなかった補助魔法を使うことにする。

「ヒツジ」

 対象が特定できていれば、距離に関係なく発動する、まるでゲーム内のような仕様なのが、俺の魔法の長所だ。


 だいぶ離れてはいたが、狙った男がゆっくりと崩れた。

 眠ったのだ。

 近くにいた男が驚いていたが、その男にも魔法をかける。次々に魔法をかけ、目の前でヒツジが柵を飛び越える夢を見ながら、男たちが塊になって地面に転がった。


「ドディア、行こう。油断するなよ。まだ馬車の中に人がいるかもしれない」

「うん」


 俺とドディアは走り出した。

 眠っている男たちをその場に残し、荷馬車を覗き込む。この中に紛れて街に入ってしまおう、というのが、浅はかながら俺の考えだ。荷物の検査とかされても、見つからない場所が望ましい。麻袋がたくさん積んである中に混ざれば、すべての中身をチェックすることもあるまい。

 俺はそう思った。荷馬車を覗き込み、固まった。


「人……いたな……」

「うん」


 俺の背後で、ドディアも固まっていた。荷馬車には、鎖で繋がれた小さな子供達が、震えながら身を寄せ合っていたのだ。小さな子供達の数は、10人にも及ぶ。男の子も女の子もいたが、例外なく裸にされ、首輪と足枷をはめられている。何人か、ぐったりして動かない。馬車に酔ったのか、暴行されたのかもわからない。


 俺の村では、子供は12歳で奴隷として売られる。王都での奴隷売買は、12歳になるまで禁じられているはずだ。そのうえ、王都以外では奴隷の取引すら禁じられているのではなかったか。

 ならば、この馬車につながれた子供たちは、違法に集められ、売り飛ばされる予定だったのだ。


「……カロン」

「ドディア、気持ちはわかるが、この子達を助けることはできない。解放しても生きていけないし、村には事情がある。無理やり連れてこられたとは限らない。12歳まで育てられずに、違法を承知で売りに出したかもしれない。なら、この子達に行く場所はないんだ」

「わかっているじゃねぇか」


 俺はドディアが子供達を助けたいと言い出すのかと思い、説得したつもりだった。だが、ドディアが俺の名前を呼んだのは、別の理由だった。俺の魔法から目覚め、俺たちに気づいて近づいてきた男がいたのだ。

 聞きなれない声に振り返ると、中年太りをした汚らしい男だった。眼帯で片目を隠して、頭部がまだらに禿げ上がっている。いかにも悪人づらだ。


「ご禁制の商品だな。どうやって、持ち込む?」


男達を眠らせたことは、本人たちにはわからないはずだ。襲撃をした証拠もない。俺は、素知らぬ素振りをして尋ねてみた。


「それを聞いてどうする?」

「俺は死刑囚だ。街に入りたい」

「衛兵に突き出すぞ」

「あんたにはできないだろう? だから、話したんだ」

「……けっ。お前、名前は?」

「カロン」

「……元、剣闘士か?」

「そうだ」


 王都では、俺は頑張った。どうやら、そこそこ名前が売れているようだ。

 男はあごひげをぼりぼりと掻きながら、にたりと笑った。


「いいだろう。キョンラノで、ちょいと仕事がある。お前が噂通りの強さなら、ちょうど良かった。手伝え。それで、街には入れさせてやる」

「方法は?」

「この街は、交易で成り立っている。金さえ掴ませれば、街の衛兵は大抵のものが見えなくなるのさ」

「……わかった。あんたの名前は?」

「ギュルノ」


 俺は、違法奴隷商人に半ば雇われる形で、港町キョンラノに迎えられた。






 予定とは少し違ったが、俺とドディアはキョンラノの街に入ることに成功した。

 奴隷として連れてこられた子供達には悪いが、俺にはどうすることもできない。解放しても、生きてはいけない。そもそも、俺の境遇より酷いかどうかすら、断言できない。

 心情的にはなんとかしてやりたいとは思うが、結局は関わらないようにするしかないだろう。


 ドディアも、何も言わなかった。ドディアは、弱いものの味方のような印象を持っていたが、コボルトを弟だと勘違いしただけで、それ以外に子供を積極的に助けたことはなかったかもしれない。

 荷馬車はまず、貨物船が停泊している港に向かった。他国との交易の窓口であるため、交易船が積み込む荷物を保管する倉庫が立ち並んでいる。交易に出す品も、交易して手に入れた品も、一度は倉庫に保管される。


 だから、倉庫がたくさんある。

 俺とドディアが乗った荷馬車は、荷物を下ろさず、直接倉庫に入った。

 人前で下ろせないような荷物なのは間違いない。

 荷馬車の幌が取り除かれ、俺たちを厳しい男たちが取り囲んでいた。子供達が、互いに抱き合って悲鳴をあげる。俺はドディアと抱き合ったが、これは普段と同じである。ドディアは、俺が座るとその上に登るのがもはや習性になっているのだ。


「まあ、まあ、だな。どうする? オークションをやるか?」


 囲んでいた男たちの一人が言った。人相は、ギュルノ同様に悪い。取り囲んでいる男たちの八割、人相が悪い。


「俺は、高いぞ」


 あえて言ってみた。


「誰だ? これ?」

「ああ……密航者希望だ。誰か、乗せてやる奴はいないか?」


 この世界の密航の作法はしらないが、ギュルノが親切に俺を紹介してくれたのがわかった。


「おいっ! こいつ、カロンじゃないか?」


 俺を知っている男がいたらしい。これも、有名税という奴だろうか。


「間違いない。カロンだ」


 言ったのは俺自身だ。男たちが騎士たちより強くないのなら、この人数ならどうにでもなる。そう思っているからこその強気である。この世界に来る前だったら、恐ろしくて一言も喋れないような顔つきが揃っている。


「そんな、恐ろしい奴には見えないが」

「どんな風に噂されているのかは知らないが、元剣闘士で、死刑囚で、元ゴブリン王のカロンだ。まだ、何か聞きたいか?」

「いや、十分だ。だろ?」


 俺を街に密入場させたギュルノが男たちの質問を止めた。ドディアは警戒して牙を剥いていたが、男たちを恐れている様子はない。十分に戦える相手だと判断しているのだろう。


「……そうだな。カロン、密航希望だということだが、どこに行きたい?」


 尋ねたのは、男たちの一人だ。誰かはわからない。全員顔が違うが、一様に悪人づらなので、同じように見えるのだ。


「どこでもいい。俺を死刑囚として扱わない国で、ついでに奴隷じゃなければもっといい」

「新しい名前と身分が欲しいか?」

「……できるのか?」

「働き次第だ」


 顔つきからすると、悪い誘いだ。たぶん、というか、間違いなく、俺に悪いことをさせようとしている。

 俺は躊躇した。躊躇した結果、ドディアの頭を撫でた。ドディアは驚いたようにびくりと震えたが、男たちに対する警戒を解かず、睨んだまま俺に体をぶつけて来る。

 俺は一人ではない。ドディアを守らなければならない。


「この子も一緒だ。そうでなければ、受けない」

「問題ない。なら、決まりだな」

「……ああ」


 俺を追い詰めたのは、この国だ。少しぐらい犯罪に手を染めても、許されるだろう。俺は聖人ではない。生きるために手を汚そう。差し出された汚れた手を、俺は掴んだ。


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