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それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
闘技場のゴブリン王

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26 たぶん……人間と一緒だと思います

今話には、一部性的表現が? 苦手な方はご注意願います。

 まるで執事のような隙のない身のこなしを見せ、エルフは胸に手を当てた優雅な礼をしてから、言葉を続けた。


「部屋にいないから、どちらに行かれたのかと思いましたよ」

「腹が空いたから、食堂に行きたかったんだ。場所がわからなくて困っていた。丁度いい」


「あなたは丁度良くても、私は困りますね。ひどい臭いですよ」

「うん。そうだろうと思ったけど、身体を洗う場所もないし」


「今日は、そういう細かいことを説明するためにお邪魔したのですが、待てなかったようですね。それほどお腹が空いているというのなら、私がお持ちしますよ。順番に説明しますから、まずは部屋に戻ってください。それとも、先に水洗い場に行きましょうか。その匂いで部屋にこもっていては、臭いの原因さえ失神してしまうかもしれませんからね」


 嫌味な奴だ。だが、食事を持ってきてくれるというのはありがたい。


「じゃあ、食べ物を頼む。水洗い場も」


 俺は、アイテムボックスには食べ物を保管していたが、裁判所で監禁されていた間にすっかり食べつくしてしまった。残っているのは、カビが生えたり腐ったりといった、裁判所で出された食べ物だけだ。

 エルフは腰を折り、俺たちについてくるように告げた。


 エルフは種族として奴隷化が禁じられていると、昨日聞いていた。だから、目の前のエルフは自由民に間違いはないが、その割には随分俺には慇懃である。

 人間的にそれしかできないのか、エルフの特性なのかはわからない。通路で聞くことでもないだろう。俺は、黙って従うことにした。






 水洗い場というのは、用は洗濯物を洗う場所のようだが、その上流で水を溜め、水が溜まった場所では身体を洗えるようにできていた。それが室内に設けられているので、やはり闘技場は巨大な施設なのだろう。

 水溜めには常に水が流れ込んでおり、地下水の汲み上げを家畜が行なっているとエルフが説明する。闘技場に奴隷は入れないが、家畜は別なのだろう。


 家畜とは、間違いなくゴブリンやオークたちだ。試合になれば殺され役として出され、生き残れば家畜として使役される。

 やはり、俺はゴブリンに生まれなくてよかった。カロン少年が丁度いいタイミングで死んでくれた……から、だろうか。カロン少年に感謝し、隣で歩いていたゴブリンの頭を撫でた。ゴブリンは不思議そうに俺を見上げたが、俺は何も言わなかった。


 水洗い場に到着すると、下流で従業員たちが服を洗っている。その上流に身体を洗う場所があるということは、身体を洗った残りの水で洗濯をするということだ。汚くはないのかとも思ったが、風呂の残り湯を洗濯機に入れると水の節約にもなるし汚れも綺麗に落ちるのだと、どこかで聞いたことがあった。

 そういうものかと、俺は洗濯をしている人たちの横を通り抜けようとした。


「まず、ここで服を脱いでください。服を着たまま、水浴びはできません」

「では、この服はどうする?」


 エルフは、当然のこととして返答をしてきた。


「ここで洗っているじゃないですか」

「渡して……いいのか? 全部?」

「当然です。その服があなたの財産なら、わかるように名前か、書けなければマークを入れてください。でも、そうではないでしょう?」


 エルフは、明らかに俺の服を見ていった。ゲームシステム上、汚れた布、と表示されるように、実に粗末な服だ。全裸のまま帰れともいわれないだろうと、俺は服を脱いだ。素っ裸である。


「でも、女の子もいるぞ」

「洗濯している女性もいますが、女の子と呼ばれる歳ではないでしょう」


 エルフの言葉に、そばで布を洗っていた丸い女が顔を上げた。


「エルフのあんたに歳のことは言われたくないねぇ。そっちの兄ちゃん、昨日、ミノタウロスを殺した兄ちゃんだろう。割といいもん持っているじゃない」


 女の視線が俺の股間に向かっていたので、俺はつい、誇らしげに突き出した。女は恥ずかしそうにするでもなく、笑う。


「私が買ってやろうか? もちろん、身請けは無理だけどね。一晩ぐらい、なんとかなるよ」

「それは、ゴラッソに聞いてくれ」

「あのじじいか……面倒な奴に飼われているね」


「剣奴はみんなそうだと聞いたが」

「へぇ。剣奴あがりかい。それは知らなかったね」


 俺は、出自を隠したつもりは全くない。ゴラッソがどうやって宣伝を打ったのかは知らないが、最初に剣奴として前座の試合でゴブリンを従えたことは、あまり知られていないことなのだろうか。


「そんなわけだ。そのうちに頼むよ」

「ああ。わかった」


 多分冗談だと思うが、俺は中年の女に挨拶して、エルフに文句を言った。


「俺が女の子っていったのは、あっちじゃない」

「では、誰です?」

「ゴブリンだ」

「これですか?」


 エルフが『これ』と言って指をさしたゴブリンは、すでに素っ裸で服を投げ散らかしていた。


「早く行こう」

「家畜の水浴びは、場所が違いますよ」

「別にいいだろう。俺だけ綺麗にしても、部屋に臭いがこもるぞ」


「なるほど。よほどゴブリンのことを気に入ったのですね。すでに、お手つきでしたか。そういうことなら、仕方ありません」

「おい、ちょっと待て……」

「あれは、待たなくてよいのですか?」


 今度は『あれ』と呼ばれたゴブリンは、てってと走っていった。水浴びが楽しみなのだろう。全裸である。仕方ない。俺はゴブリンを追うことにした。エルフがどんな勘違いをしていようが関係ない。どうせ、近いうちに現実になるだろう。

 俺は、水瓶の中でゴブリンと身体を洗いあった。






 ゴブリンと一緒に部屋に戻ると、途中で別れたエルフが戻ってきて、2人分のパンと干し肉、ミルクを運んできた。


「粗末なもので申し訳ありませんが、直ぐに持ってこられるものには限りがありましてね」


 エルフがベッドの上に置いた。他に家具がないためだ。


「では、ごゆっくり」

「待て」


 俺が呼び止めると、エルフはまるで呼び止められるのを待っていたかのように振り向いた。


「どうしました? お食事が合いませんか?」

「あんたは自由民だろう。どうして、俺にそんなに親切なんだ? 妙に丁寧だし、ゴブリンの食事を俺と一緒にしたりするから、ゴブリンが困っている」


 エルフは、ニコリと笑った。そんな笑い方をする人物が悪人のはずがない。そう思わせる笑い方だった。出来れば、見習いたいものだ。


「あなたは、調子に乗ったりはしないのですね。剣奴から剣闘士になったばかりの人は、概ね自分が偉いと勘違いし、態度に出るものです。ですから、私が担当することが多いのです。人間が担当に着くと、諍いになったあげく、どちらかが死ぬという事故が多発したらしいですよ。もっとも、私が見た限り、カロンさんは特別でしょう。特別な人に特別な扱いをするのは、当然です」


「『特別』の意味がわからないが? 他の剣闘士とどう違う?」

「さあ。私が感じているのは、ただの勘です。エルフの勘、といえば、ほとんどの人は納得するものですよ。ああ、それから、ゴブリンの食事をあなたと同じ場所に並べたのは、ゴブリンの扱いを見て、あなたならそう望むだろうと判断しただけのことです。普通は、ゴブリンを連れて歩く時は、お尻を蹴飛ばしながら歩くものですよ。あなたのことがよほど気に入ったようです。よく仕えなさい」


 最後の言葉は、ゴブリンに向けられたものだった。ゴブリンははにかんだ笑いを見せた。ゴブリンの表情がわかってしまうのは、果たして喜んでいいのだろうか。

 それから、俺は闘技場での暮らし方について、エルフから細かく説明を受けた。


 設備と生活環境は剣奴の時とはまったく異なっていたが、奴隷であることは変わらない。できること、できないことも、結局は同じだった。ただ、訓練を強要されないというのは驚きだった。自分の命は自己責任ということらしい。


 次の試合まで寝ていてもいいのかと聞くと、『死んでも後悔しないのならどうぞ』と言われた。俺が、寝て過ごさないことを見透かされているようで気味が悪かったが、事実、俺は寝て過ごす気はまったくなかった。


 一通り説明を終えると、エルフは出て行った。夜の食事からは、食堂に食べに出るようにと言い置いていった。

 俺は、再びゴブリンと2人になった。






 ゴブリンはしきりに恐縮していたが、もともと上下関係などあってないような種族なので、直ぐに俺と並んで食事をすることに同意した。

 実に粗末な食事、とはエルフの言葉だが、剣奴としての生活がこの世界でもっとも長い生活だったし、それと同様に長い生活を腐った食べ物だけで過ごした(実際には食べていないが)俺には、焼き上げてから数日と経過していないように見えるパンだけでも、とてつもないご馳走に見えた。


 干し肉などは、ゴブリンが驚いて飛び上がったほどだ。ミルクも搾りたてに違いないと思われるほど鮮烈な味だ。

 ゴブリンが普段パンやミルクを口にしているとは思わないが、涙を流しながら食べていたので、よほど美味かったのだろう。


 俺もまさに同感だった。惜しむらくは、森の中で狩猟した肉などを食べないで、剣奴の食料だけで満足していたら、この食事はもっと感動しただろうということだ。普段からそこそこの肉をこっそり食べていたおかげで、感動が半減した。 なんだか損をした気分だ。

 カロン少年の年齢では、さぞかし大量に飯も食うのではないかと思っていたが、空腹の期間が長いため胃が縮んだらしく、想像以上に早く腹は膨れ上がった。


 大きな試合を経験した後なので、数日はごろごろしていてもいいような気がする。俺がベッドで横になると、ゴブリンも合わせて横になった。昨日は抱き合うように眠ったのだ。今更遠慮もないのだろう。

 まだ体はかなり痛い。少なくとも、今日はのんびりしよう。俺はそう決めた。


「ゴブリン」

「はい」


 俺が呼ぶと、健気にちゃんと顔を上げる。エルフは、俺とゴブリンが性的関係を済ませていると勘違いしていた。

 ゴブリンと性行為をする人間も、どうも本当にいるらしい。


 病気がないか、検査をしてあるというし、どうせ、そのうち金持ちに買われるのなら、カロン少年の純潔を守る意味はない。

 俺は、ゴブリンに手を伸ばし、自分の体のそばに引き寄せた。


「ゴブリンを抱いたことはない」

「たぶん……人間と一緒だと思います」

「俺が手を出さないと、寂しいか?」


「そんなことはありません。ですが……手を出されると、安心します。ここに、いてもいいのだと思えますから」

「なるほど……」


 俺は素直に感心した。ゴブリンが性奴隷ということは少ないだろうが、性奴隷として買われ、その場所にずっといたいと思っているなら、主人に抱かれるということは自分の役目を果たしたということになる。だから、堂々といられる。

 奴隷の考え方が身につくと、そういう風に考えるものなのか。ゴブリンは奴隷ではなく家畜だが、ようは同じことだ。


「ゴブ」

「はい」

「ブリ」

「はっ?」


「リン」

「……あの……」

「どれがいい?」

「どういう意味ですか?」


「ゴブリンが通常名前を持たないのなら、人前で名前を呼ぶと2人の関係を大声で言っているようで恥ずかしい。名前をつけるなら、ゴブリンを省略したような名前がいいと思う」

「私に名前をつけるのは……私を気に入ってからでは?」


「気に入ったさ。だから、つける」

「まだ、王はなにも……」

「そうか?」


 まごついていたゴブリンを俺は押し倒した。いつまでも話をしていてもらちが明かない。もう勢いだ。

 お互いに覚悟を決めているのだから、迷うことはない。

 案の定、というか当然というべきか、ゴブリンは抵抗しなかった。


 俺は、ゴブリンを強引に貫いた。

 人間のものとはサイズが違うらしく、ゴブリンは痛そうにしていたが、次第に慣れていった。

 カロン少年は一歩大人に近づき、ゴブリンに『リン』という名前がついた。


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