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191 アデルを飼うなんてことができるはずがない

 俺は、かつて俺の父親を名乗った男を食堂に放置したまま部屋に戻った。

 ファニーが戻ってくるのを待つつもりだった。

 扉を開けると、見知った女がいた。

 ファニーではない。ファニーに似ているが、髪が短く、引き締まった体をしている。

 ファニーは痩せているが、筋肉がほとんどない。


「フラウか?」

「ああ。どうして戻った? アデルから聞いていないのかい?」


 ファニーが呼びに行ったから来たのではないのだろうか。

 俺は部屋の中を見回したが、窓が開いているだけで他の人影はなかった。

 ケンとキサラが、ベッドの上で丸くなっている。


「聞いたから来たんだ。アデルに何があった?」


 フラウは、じっと俺の顔を見た。ファニーによく似た、鍛え上げられたフラウの視線に、俺は耐えられずに視線を逸らした。


「あたしにも、何が起きたのかはわからない。アデルは、カロンに伝わるはずだと言っていた。『力を奪われた』そう言っていた」

「……力を……」


 俺は、頷いた。

 俺とアデルは、異世界のゲームシステムに由来する力を得ていた。

 魔物を倒すとレベルが上がる。レベルが上がることによって、鍛えてもいないのに筋力や能力が上がって、怠けていても弱くはならない。

 唱えるだけで使える魔法や、スキルと呼ばれる正体不明の力がある。


「全てか?」

「わからない。でも……あたしには、アデルが弱くなったようには見えないんだ。カロンの方が危険だってアデルは言っていた」


 力を奪われるなら、俺の方が危険なのは間違いない。

 この世界に転生して、勇者の職業を得ているのは、俺の知る限り俺だけだ。

 唯一の魔王を討伐した過程で、他の勇者に会わなかったのだから、勇者は俺だけなのだろう。


「アデルとドドンゴ令嬢はどうしている?」

「ドドンゴは、今はこの国の女王だよ。父親は宰相になった。父親が買い取った国だけど、父親は喜んでこの国を娘に差し出した。アデルは……ドドンゴに飼われている」


 俺は頷いた。アデルが飼われている。その言葉だけで、アデルの置かれた環境を理解できた。


「助けに行く」

「駄目だ。アデルがどうして犠牲になったか、忘れたのかい」


 アデルは、ドドンゴ令嬢の体を奪った異世界の存在を押さえつけるために残った。


「ドドンゴ女王は、異世界の魔王だったのか?」

「わからない。でも……宰相がやり手だから、前の国王の頃より、国は安定しているよ。女王にいい噂は聞かないけどね」


「本性を表していないだけかもしれないな」

「ただの人間なら、アデルを飼うなんてことができるはずがないよ。アデルの強さはあたしも知っている。カロン、アデルはあたしがなんとかして解放する。カロンは逃げるんだ」


 俺は、首を振った。


「フラウを危険には合わせられない。アデルは俺が助ける。力を奪われたってのも、どういう意味なのかわからない。アデルの勘違いかもしれないだろう」

「どうしても行くのかい?」


「ああ。アデルを見殺しにはできない」

「わかった。案内する。また、夜にね」

「おい、ファニーに呼ばれてきたんじゃないのか?」


 フラウは、窓に手をかけた。帰ろうとしていることを察し、俺は呼び留めた。

 窓を開けたのは、やはりフラウだったらしい。窓枠に足をかけ、フラウはそのままの姿勢で振り向いた。


「あれは、あたしのお姉ちゃんじゃない」

「どういうことだ?」


 フラウは答えず、窓から飛び出した。

 俺が窓の外を見ると、すでに人の姿はなく、強い風が吹いていた。


 ※


 フラウが俺のところにきたということは、ファニーが接触したのだろう。

 では、ファニーはなぜ戻ってこないのだろう。

 すでに前国王が追いやられたこの国で、俺を追う者はいないはずだ。

 ファニーに危険があるとも思えない。

 俺は、いつまでも腹を出して寝ているケンとキサラを起こした。


「どうしたんだ?」


 伸びをして顔を洗うケンの様子に、俺はかつてのララを思い出す。

 ララは猫化していった。だが、力は失われず、最後は魔王となって俺に倒された。


「ファニーが戻ってこない。ケン、キサラ、力を貸してくれ」

「俺に力なんて……」

「ええ。わかったわ」


 戸惑うケンの足元で、キサラが頷いた。


「キサラ、どうするんだ?」


 ケンがネコの顔で、器用に怪訝な表情を作る。


「ファニーがどこにいるかわからないんでしょう?」

「そうだ」

「なら……チュー」


 キサラが、ネズミのように鳴いた。俺にも、言葉としては理解できなかった。

 単純に鳴き声なのだろう。

 だが、効果は抜群だった。

 キサラが鳴いた直後、天井の割れ目、壁の穴、家具の下から、小さな光る目が動くのを感じた。


「行って。茶色い髪をした、痩せた女よ。ファニーと名乗っている」


 キサラが命じると、小さな目が消えた。


「ネズミたちに命令したのか? キサラ、いつからそんなことができるようになった?」


 ケンが毛を逆立てている。驚いているのだ。


「最初からできたわよ。アデルやカロンに会って、使わなくなっただけ。カロン、私に手伝えってのは、この力を知っていたからじゃないの?」


 キサラが、とても小さな丸い目で俺を見た。


「いや。俺も、こんな具体的な命令ができるとは思わなかった。俺はただ、一緒に街に出て、ファニーを探すのに協力して欲しかっただけなんだ」

「一緒に街に出ると、どうしてファニーを探せるんだ?」


 ケンが首を傾げる。


「俺では気づかない物音や話し声を聞くことができるだろう。狭い隙間に入ることもできる。俺が木の上に登れば目立つが、2人が登っても誰も気にしない」

「わかった。協力してやる。キサラは、ここで待つのか?」

「私も行くわ。あの子たちは、私が移動してもちゃんとも見つけてくれるから」


 俺がケンを抱き上げると、キサラは軽やかに飛び乗った。

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