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それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
魔王討伐後の後日譚
164/195

164 まずは土地を探す

 翌日、俺はアデルとケン、キサラを連れてロバーツ商会を訪れた。

 ソフィリアが不在で、ほかに知り合いもいなかったため、商会から農夫を紹介してもらうという目論見は潰えた。

 キサラは商業系の専門学校生だが、農家の娘らしく、商業のノウハウを持って実家の農家の役に立ちたいと考えていたらしい。


 俺やアデルとは違い、経営シミュレーションゲームで転生したのは、現代社会の人物の魂の切れ端のようなものだという推測が正しければ、現代でキサラの本体はまじめに学んでいるだろう。

 この世界に来た魂の切れ端であるネズミのキサラは、農業をやりたいと言った。


 俺もアデルも、農業の経験はない。

 ソフィリアのロバーツ商会に、この世界の農家を紹介してもらい、キサラを雇ってもらおうとしていたのだが、出鼻をくじかれたのだ。


「あたしも農業のことは知らないけど……植物のタネを地面に蒔いて、芽が出たらそれを大きく育てればいいんじゃないのかい?」


 肩を落とした俺に、アデルは言った。


「じゃあ……まずは土地を探すか」

「そんなに簡単だったら、誰も野菜をお金を出して買わないわ。必要な栄養がわからなければ芽も出ないし、実をつけても美味しくはならないわ」


 アデルの頭に乗ると張り付いてしまうため、今日はキサラは俺の懐に入っている。


「……そういえば、俺はこの世界の野菜は……調理されたものしか知らないな」

「あたしもだ」

「どんな生活していたんだよ」


 ケンは自分の足で歩いていた。


「ああ……そういえば、いつもの倉庫は食料を運び出すって言っていたな。そっちに人が集まっているかもしれない。行ってみようか」

「そうだね」


 魔王領への偵察部隊として騎馬隊が組織され、魔王城方向に向かうという。

 ソフィリアもいるかもしれない。

 ソフィリアがいれば、農場を紹介してもらえるかもしれない。

 俺は倉庫に足を向けた。


 このところ毎日通った、慣れた場所だ。

 迷わずについた。

 俺たちがついた時には、大型の幌馬車が何台も連なって出て行くところだった。

 馬車を見送る細い影に、俺は近づいた。


「ソフィリア」

「ああ……カロン、遅かったじゃないの」

「遅かった? 何か、約束していたかな……」

「いいえ。でも、『魔王が滅んだかもしれない。魔王城は地上から消え去った』っていう報告をしたのはあなたでしょ。まさか、同行しないつもりじゃないでしょうね」


「いや……俺はただ、情報を渡しただけだが……」

「なら、責任はとりなさいよ。ダンジョン喰いの冒険者さん」


 俺は、魔王に挑むためにレベル上げを行った。そのために、数多くのダンジョンを攻略した。

 冒険者の一部では、俺のことをダンジョン喰いと呼んでいることは知っていた。


「……知られていたか」

「ただの冒険者が言うことなら、ここまですぐには騎士隊が動くこともなかったでしょう。でも、ダンジョン喰いの有名な冒険者がもたらした情報だもの。無視はできない。商会は、その情報が間違っていた時と正しかった時、どちらにも対処できるよう、準備しているわ。じゃあ……これはあなたの荷物。あの馬車に乗りなさい。先頭の騎士たちに追いつけるから」


 俺に荷物を押し付け、ソフィリアが背中を叩く。


「……アデル」

「あたしは行かないよ。騎士どもに囲まれるなんて、ごめんだからね」


 小さなフード姿が肩をすくめる。

 俺は、ソフィリアを見た。


「この子……農業をやりたいらしい。言葉は、そこのアデルがわかる。ケンも協力する。農場を紹介してやってくれ」


 俺が懐からネズミを取り出すと、ソフィリアはあからさまに嫌そうな顔をした。


 ※


 俺は、魔王領調査隊に同行した。

 魔王領のほとんどが壊滅し、難攻不落なはずの要塞が跡形もなく消し飛び、魔王城すら更地となっていた。

 もちろん、俺がやったことなので、その状況は知っている。時折、撃ち漏らした大型の魔獣が襲ってくるのを処理していると、結果的に調査隊長補佐の立場に抜擢され、三ヶ月後に街に戻ってきた。


 調査隊の帰還は歓声で迎えられた。

 魔王領が崩壊していることは、事前に早馬での報告があったらしい。

 凱旋パレードをする調査隊を俺は直前で退職し、徒歩で街に入ってアデルを探した。


 ※


 街が盛り上がっている中、俺はケンが働いていた食糧倉庫に足を運んだ。

 その場所は再び食糧倉庫になっていたが、複数の猫が走り回っている。その中に、ケンの姿はいない。

 考えれば、普通にネコを飼えばいいのだ。高い報酬を払ってネコを雇う必要はない。

 そのまま、俺はロバーツ商会を訪れた。


 敷地の前の門を通りかかった時、見たことのある姿があった。

 ソフィリアが人々に囲まれている。

 周囲にいるのは、凱旋パレードの通行経路に屋台を出す商人たちのようだ。


 俺が近づくと、ソフィリアが見つけて駆け寄ってきた。

 俺の腕を取って走り続ける。

 商会の敷地に入った。


「カロン、どうしてパレードに参加していないの? 最大の功労者だって、隊長から連絡が着ていたのに」

「目立つのは困る」

「あなたが魔王を倒したから?」

「違う。そんなことより、アデルとケン、キサラはどうしたんだ?」


「『そんなこと』? 間違いなく世界を征服し、人間の文明を滅ぼすと思われていた魔王が、突然滅んで、それをやったのが誰も知らないのよ。それが、『そんなこと』?」

「わかったよ……大切なことなんだろう。だけど、俺にはアデルと仲間たちの方が大切なんだ」


 ソフィリアは大きく息を吐いた。


「商会の第3農場を借り切っているわ。行ってみるといいでしょう」

「わかった。ありがとう」


 ソフィリアは、農場までの簡単な地図を渡してくれた。

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