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131 飯だ

はじめてレビューを頂きました。とても嬉しいです。ここしばらく、淡々と更新していたので、気づくのが遅れてすいませんでした。

頑張って更新します。

 雪が分厚く積もっているため、雪山から突き出たように見える。

 まずは巨大な顔が、次に腕が突き出た。

 人間に似ている。

 だが、巨大だ。

 似てはいる。

 だが、猿だ。

 結局、巨人というより巨大な猿なのではないかと思う。


「ガアァァァァ!」


 巨人が吠えた。

 人間の声とは思えない。

 怒っている。

 俺には、はっきりと聞こえた。


『五月蝿えぇぇぇぇぇぇ』

「アデル、聞こえたか?」

「聞こえないほうがどうかしている」

「怒らせたらしいな」

「わかっているじゃないか。どうする?」

「仕方ない。バン……」

「待ちな」


 俺が魔法を使用するつもりで狙いを定めた瞬間、アデルが俺の頬に拳をめり込ませた。


「どうして止める!」

「止まれ! 食われるよ!」


 俺には答えず、俺を殴った拳を、アデルは足元に叩きつけた。

 スノウドドンゴがばたばたと止まろうとする。

 顔を突き出したサル顔の巨人の目の前で、スノウドドンゴが停止した。

 つまり、俺とアデルは巨人な大きな顔の目の前で止まったことになる。

 巨人はギロリと俺たちを睨んだ。


「アデル、どうするんだ?」

「あんた、聞こえたんだろ。ならわかるはずだ。こいつは、知恵のある人間種の魔物だ。言葉の通じない魔獣じゃない。あたしは魔獣専門だ。この後どうするかは、あんたの仕事だよ」

「……こいつと会話しろってことか?」


 巨人の目は俺たちを睨み、鼻の穴がばたばたと開閉している。その器用な鼻の穴の動きは、猿の中でも特にゴリラを思い出す。


「もう見つかったんだ。集落の真ん中を抜けるには、他に手はないよ」

「……わかった。五月蠅くして悪かった……ここを通りたい。構わないよな?」


 俺が言うと、サル顔の巨人は雪山の中からもそもそと出て来た。

 全身が長い毛で覆われ、特に腕が長い。

 服は着ておらず、巨大な筋肉の山が見える。


『……寝ていた』


 巨人だと思っていた。アデルの言葉からはそう判断できた。

 木材と岩で家を作り、密集して集落を成す。

 それは、知恵のある生物のやり方だ。

 だが、見た目はゴリラだ。

 直立して二足歩行が得意な、言語を持つ、巨大なゴリラだ。

 怪獣映画のヒーローが、群れをなして暮らしているのだ。

 ゴリラはボソリと言うと、頭をがしがしと掻いた。


「そうか。静かに歩く。悪かった」


 俺は、アデルを突いた。先に進むためだ。

 だが、そう甘くはなかった。

 再びゴリラが吠えると、両腕で胸板を叩き出した。ゴリラのドラミングに酷似している。


「ど、どうした?」

『みんな、起こした』

「何のために?」

『飯だ』

「アデル! 出せ!」

「ちっ……行きな!」


 アデルがスノウドドンゴの頭を殴る。

 巨大な爬虫類がばたばたと走り出す。

 その動きが止まる。

 ゴリラの脇を抜けようとした時、突然前進が止まった。

 振り返ると、ゴリラがスノウドドンゴの尾を掴んでいた。

 足はばたばたと動いているので、雪が掘られて足跡が深く残る。

 雪山の中から、次々とゴリラが顔を出す。

 日が陰った。

 アデルが俺を突き飛ばした。


 最初に遭遇したのとは別のゴリラが、スノウドドンゴの頭部がある場所に降ってきた。

 空中で体が回転し、俺は群れを成す巨人たちを見た。

 赤い血が舞っている。

 スノウドドンゴが千切られ、食われているのがわかった。

 俺は狙いをつけた。

 結局、こうするしかない。

「バン、レベル4」

 これまでで最大威力のバンを放つ。

 現状、これ以上の魔法は使用出来ない。この魔法すら、一度使用すれば全魔力を使い切るほどの魔法だ。

 スノウドドンゴに群がっていたゴリラたちが、一瞬で吹き飛ぶ。

 衝撃で俺自身も飛ばされ、新雪の中にめり込んだ。






 雪にめり込み、さらに樹上から雪の塊が落ちてくる。

 俺は雪に埋もれた。

 冷たいという感覚もわからない。

 防寒着を着ていたことは幸いだ。

 だが、アデルはどうしただろうか。

 俺を突き飛ばしたのは、間違いなく俺をかばったのだ。

 とっさに、最大威力の魔法を放った。


 味方だから魔法が当たらないというほど、優しい世界ではない。

 ひょっとして、アデルも爆発に巻き込まれているかもしれない。

 もしうまく逃げていたとしても、アデルは重い。体が鉛だ。雪深い場所では、自重で沈んでいるかもしれない。

 すぐに助けにいかなくてはならない。

 俺は焦った。

 魔力は使い切っていた。バンの魔法はレベルに応じて威力が変わる。使用する魔力も変わる。上がり方は累乗である。


 バンレベル4の消費魔力は625だが、俺の総魔力を超えている。それでも使用できたのは、魔力が足りない場合は、全魔力を使い切ることで発動するという条件があるのだろう。残魔力があまりにも低ければできないかもしれないが、いままで検証することができなかった。レベル3のバンですら、木造の家なら吹き飛ばす威力なのだ。試してみるにしては、危険が大きすぎる。

 じっとしていれば、MPが1分に1回復する仕様は相変わらずだ。レベルが上がっても変わらないらしい。

 雪の中でじっとしている1分は長すぎる。

 俺は、なんとか自力で雪をかきわけることにした。

 どちらが上かもはっきりとわからない。

 とにかく腕を振り回すように動かした。

 しばらくして、指先が暖かい感覚に浸る。


 暖かい何かに触れたのではない。

 空気にふれたのだ。

 外の空気も凍えるほどに寒い。

 それでもぬるま湯に浸かるほどの暖かさを感じたのは、雪の中がそれほど寒かったからだ。

 手首までが雪から出ると、掌を押し付けて体を引き上げた。

 外を見る。

 顔が出た。

 首までが出たところで、顔の周りから雪が落ちた。

 辺りは真っ赤だ。


 巨大な雪山のような家があちこちにあったのに、更地になっている。

 自分の行った魔法の結果であることはわかっている。

 あまりの凄まじい威力に、俺は呆然とした。

 誰もいない。何もない。

 体を引き上げる。

 全身が雪から出て、まともには動かない。

 多分、凍傷になっている。

 火をつけよう。俺は魔法を使おうとした。だが、MPが回復していない。


 雪の中で、数分は費やしたはずだ。それなのに、MPがゼロのまま回復しない。

 身に余る魔法を使用した代償かと、俺はアイテムボックスからこれまでに採取してきた毛皮を取り出し、手を温めた。

 手から全身を覆う。

 食料を取り出し、かじる。

 熱々の料理は、熱々のままアイテムボックスから出てくる。

 かじかみ、震える手でスープを口に運ぶ。

 上手い。


 街にいた時は、単なる薄味のスープだと思っていたものが、とんでもないご馳走に感じられる。

 俺は、一気に流し込み全身を温めながら、これからのことを考えた。

 まず、アデルを探さなければいけない。

 まだ生きているはずだ。

 アデルとララは、異世界の魂を持つ。パーティー設定をしてあるので、生死のみはわかるのだ。

 まだ死んでいない。

 どこかに吹き飛んだか、雪に埋もれているはずだ。

 巨人に連れ去られたということはほとんどないだろう。一帯を更地にするほどの爆発だ。巨人たちにも、そんな余裕はないはずだ。


 巨人たちが全滅したはずがない。この場に居れば、また見つかるだろう。

 俺は、冷たい手を胸に抱きながら、耳を済ませた。

 何も聞こえない。巨人たちは動いていない。

 しばらくして立ち上がり、俺は自分が埋まっていた雪山を登った。

 どこかで暖まらなければ、いずれ死んでしまう。

 アデルのことは心配だが、アデルは鉛の体を持つ悪魔族だ。人間とは頑丈さが違う。

 散々考えた挙句、俺はそれまでの考えとは違う行動をとった。

 なによりもまず、自分が生きることを最優先にした。


 更地になった爆発の跡地には、何もない。

 だが、少し移動すれば、再び木々に覆われた山に戻る。

 俺は、雪を踏みながら山に分け入る。

 まだMPは回復しない。

 雪の上に毛皮を敷き、太い幹を持つ針葉樹に寄りかかって座る。

 息を吹きかけて手を温める。

 このままMPが回復しなければ、俺は凍死する。

 念のために持ってきた薪を積んで焚き火の支度をしながら、俺はただMPの回復を待った。

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