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128 なるもんか。やってみな

 女王ヴァルメスは、災厄の女神と呼ばれるらしい。その災厄の女神は魔王とは対立関係にあるらしく、氷の女王は影を送って様子を探りはしても、本体は決して近づかないのだとわかった。

 数日狩りをして俺は街に戻ったが、アデルはスノウドドンゴを完全に支配下に置くまでは残ると言い張り、山に残っている。

 アデルは寒さに非常に強いが、体が重いために雪に埋もれると春先まで出てこられないという弱点を持つ。

 多少心配ではあったが、まともに戦えば俺でも勝てるかどうかわからないのがアデルだ。しかもカマキリだったアリスの魂が入っているため、勇者を除く職業には俺と同様に自由に就くことができるし、アイテムボックスも使用できる。


 俺が心配する必要など、全くないと言っていいだろう。

 俺も一緒に山にこもりたい気持ちはあったが、宿に置き去りにしたドディアとララが心配だったので戻ってきたのだ。

 数日体を温め、また雪山に戻ると告げてある。

 借りていた宿屋に戻ると、さっそくドディアが甘えてきた。

 ララは窓際であくびをしている。

 どっちが獣かわかったものではいが、現在の俺のパーティーで、転生者ではないのはドディアだけだ。もっとも、この世界の獣人は転生者ではなく外宇宙からの侵略者の可能性もあるとは、俺にしか理解できないだろう。

 俺は体の上に登りこむドディアを撫でながら、ララに尋ねた。


「怪しい奴は見なかったか?」

「一番怪しいのはカロンだニャ」

「そう言うなよ。俺たちを探しているのは?」

「いたけど、探しているのはカロンとアデルだったから、おいらたちは関係なかったニャ」

「……そうか。なら、いい。俺を探していたというのは誰だ?」

「知らないニャ。ただ、この国の騎士たちは、命令があっちこっちから出ているみたいだニャ」

「……ふむ。青バラと呼ばれる連中が3人らしいが、それ以外にも指揮権を持つ連中がいるのかもしれない。さっき、山で仕留めた魔獣の肉を売りさばいた分、全部ララに預けておく。俺とアデルは、氷の女王を討伐に出発する時まで街には戻らない。留守を頼みたい」

「……ドディアはどうするニャ?」


 俺の上に登っているドディアが、じっと見つめてくる。俺とララの会話はドディアには理解できないはずだが、意味は伝わっているのだろうか。


「雪山にはつれていけない。氷の女王を討伐に行くときにも、ドディアは残して行く」


 ドディアは、俺の言うことを理解しているのかどうか、俺の首にしがみついてきた。


「おいらは?」

「ドディアを頼む」

「……わかったニャ。おいらも、この子を死なせたくないニャ。でも……カロンが金を儲けて奴隷を買い戻す前に、魔王に目をつけられて殺されるほうが早いような気がするニャ」

「そうだな……俺もそんな気がするし、アデルにも言われたよ。俺は、数日は街にいる。その後はララが頼りだ」

「ネコを頼りにするなだニャー」


 もっともな意見だ。俺は苦笑し、ドディアの頭を撫でた。

 しばらくはこのままでいたい。暖かいドディアの体温に触れ、俺はそう思った。






 3日後、俺は雪山に戻った。

 ドディアは連れていけない。俺がしばらくは戻らないことを告げると、ドディアはしばらく渋ったが、最後には俺の頬に噛み付いて歯型を残すという愛情表現の後、別れを受け入れた。

 雪山に戻ると、まずはアデルとスノウドドンゴの痕跡を探すことから始めなければならなかった。

 街を取り囲む山々は、険しい山脈というわけではなかったが、人間一人を簡単に見つけられるほど狭くもない。

 俺は雪山を登り、雪を溶かしながらほっつき歩く。

 しばらく歩いた時、見上げるような山から地響きが聞こえた。

 俺はアデルかと期待して、音の正体を探した。


 たまたま見た先に、白い巨体がいた。

 スノウドドンゴだ。

 凄まじい勢いで、俺のいる方向に走っていた。

 目を凝らすと、その頭部にまたがる、黒い影があった。

 アデルだ。

 俺はスノウドドンゴを止めようとして手を上げて存在を示した。

 スノウドドンゴの勢いからは、どうやら止まるつもりがないとわかる。

 俺は踏み潰されない距離を取って、スノウドドンゴと同じ方向に先行して走り出した。

 足元は悪いし、魔法使いに転職しているために脚力も弱い。だが、スキルは使用できる。

 スキル、コンシンを駆使して雪道を下った。


「アデル、俺だ!」

「ああ。わかっている。頑張って走りなよ」

「どうして走っている? 何が出た?」

「わからないのかい? 後ろを見なよ」


 アデルはスノウドドンゴの背で、楽しげに背後を指差す。

 俺は走りながら振り返ると、もうもうと雪煙が上がり、何も見えない。

 いや、何も見えないことこそが脅威なのだ。


「雪崩か?」

「そのとおり」

「なんとかならないか?」

「なるもんか。やってみな」

「よし。バン、レベル3」


 俺は職業を勇者に戻し、魔将軍ホライ・ゾンを吹き飛ばした爆発魔法を放った。

 凄まじい轟音とともに雪が舞い上がる。

 爆発した中心地だけは、雪崩が遅くなった気がする。


「ダメだ」

「だろうね」

「タイカ」


 俺はさらに魔法を使用した。

 範囲攻撃魔法だ。

 標的が雪崩であり、周囲が一瞬で燃え上がり、その上に積み上がる雪で潰された。

 少しは遅くなっただろうか。


「降参だ」

「よし、乗せてやる」


 アデルは座っていたスノウドドンゴの頭を叩いた。その衝撃でスノウドドンゴの頭が上下する。それを頷いたのだと考えた俺は、地面を蹴った。

 アデルの背後に座る。

 冷たい。

 スノウドドンゴの頭は氷のように冷たい。アデルは平気なのだ。体が鉛でできているのだ。


「冷たいな。温めていいか?」

「ダメだ。ドドンゴの頭に魔法を使うつもりだろう。せっかく時間をかけてテイムしたのに、裏切られたと思って反逆してくるよ。走らなくて済むだけマシだと思って、おとなしく座っていな」

「……わかった」


 確かにアデルの言う通りだ。俺は他に捕まる場所がなかったため、アデルにしがみついた。

 しばらく、スノウドドンゴにゆられていた。

 逃げきれそうだと思った途端に、俺は全身が雪に包まれた。

 真っ白い視界が、突然晴れる。

 スノウドドンゴに助けられたようだ。スノウドドンゴが助けたのはアデルだろうが、俺も一緒に雪の中から引き出された。


「……止まったか」

「埋もれたんだ。逃げきれなかったね。まあ、仕方ない。こんなこともあるさ」


 アデルはずらりと並んだ牙を見せて笑った。






 俺はアデルと合流し、カーネルと約束した日までレベル上げに励んだ。

 俺は魔法使いレベル20、アデルは戦士レベル20に達した。

 俺は勇者に転職し直し、氷の女王討伐のための準備を終えた。

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