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126 あたしは魔獣使いなんだけどね

 俺は、冒険者組合のカウンターで、冒険者の説明を受けた。奴隷として冒険者に雇われて危険な目には何度もあっていたが、ちゃんと説明を受けるのは初めてだ。

 少し嬉しい。

 俺の顔がにやけていたのか、カウンターに座る中年女は気持ち悪そうに俺を見ながらの説明となった。

 冒険者にもランクがあり、一般人級・従者級・足軽級・兵卒級・騎兵級・騎士級・小隊長級・軍隊長級・将軍級・英雄級の10ランクあるという。10ランクというと多いが、理解しやすい名前がついているので、実力が測りやすい。


 登録するとまずは一般人級になり、依頼や魔物討伐、食料調達の実績に応じてランクが上がっていくのだという。

 ランクが上がると依頼の難度が上がり、依頼料も上がるらしいが、実際にはそれほど難しい依頼が頻繁にあるわけではなく、ランクが上がることのメリットは、討伐した魔物の肉を少し高く買い取ってくれるということぐらいらしい。そのほか、冒険者組合と提携している飲食店では、ランクに応じて値引きサービスも実施中とか。


「面白そうだな」

「そうかい? なんだか、夢がないね」

「アデルはそう思うか? 俺には、強くなって金持ちになれる……最高の仕事だと思える」


 俺がいうと、カウンターの中年女にじとっと見られた。なんだか残念な生き物だと思われている気がした。アデルが肩をすくめる。


「ちゃんと聞いていたかい? そんなに割のいい仕事なんかほとんどないし、困難な仕事はこの国じゃアスラルとかいう化け物が片付けちまう。他の国の評判も気になるだろうから冒険者組合はあるけど……実際には、それほど高ランクの冒険者はいない。そんな感じに聞こえたよ」

「……アデルって、頭が弱い印象があったけどな」

「考えるのが嫌いなだけだ。それに、魂はアリスだよ。力でねじ伏せられる相手を説得する理由がわからない。そんなものさ」

「でも……一月も遊んでいるのは退屈だ。俺は魔物を狩って、少しでもレベルを上げたい。できれば……アデルも一緒に来て欲しいんだけどな」

「……ドディアから乗り換えるつもりかい?」


 アデルがにたりと笑った。本心はわからないが、俺はとにかく首を振った。


「そういう意味じゃない。このまま勇者のレベル上げをするのも、限界じゃないかと思うんだ。氷の女王と戦うなら、魔法使いを上げておきたい。そのために、前線で戦える仲間が必要だ」

「……チッ、仕方ないね。私も、いつまでも僧侶ってのは性に合わなかったんだ」

「僧侶か……やっばり、職業は選べるんだ。アリスが残っているんだな」

「当たり前だ。じゃあ、さっさと登録しちまいなよ」

「ああ」


 俺は俺たちの会話をまるで理解していないカウンターの中年女に対して登録を申請した。

 身分も問われないらしい。ただし、依頼を受ける際には、内容に従って犯罪歴や過去の実績を調べられるようだ。

 極悪人に用心棒の警備などさせられないが、魔物を狩って来るのに善悪など関係ないということだろう。

 俺は、多分要人の警護はできない。それをしたいとも思わないが、少し寂しく思った。

 この日、ようやく俺は冒険者となり、金を稼いで幼馴染のファニーを助け出すのだという目標に向けて、一歩を踏み出した。






 氷の女王討伐に出発するまで一月あるが、一ヶ月間山にこもるつもりはない。

 雪山である。寒さで凍えるかもしれない。まずは二、三日山に入り、一旦街に戻ってくることにした。

 野営とキャンプの道具を一式買い込み、俺は気づいた。


「俺たち……今までなんの道具も使わずにキャンプしてきたんだな」


 この世界にも、鍋も添加剤も炭もテントもある。俺は常に野宿しており、火は魔法に頼った。


「これからも使わないかもね。どうする? 買うのやめるかい?」


 冒険者組合と提携している雑貨屋で散々迷った挙句、俺は非常食と鍋、寝袋を買い込んだ。その他のものはなんとかなるだろう。

 この時は、そう思っていた。






 支度をした翌日、俺とアデルは魔物を狩りに、王都から見晴らせる雪山に入ることにした。

 ドディアとララには留守番を頼む。宿で過ごせるよう、ドディアに有り金を預けた。

 果たして、ドディアに金をもたせて大丈夫だろうかという不安はあったが、雪山に連れて行くわけにもいかない。

 ドディアとは言葉が通じないララがなんとかフォローしてくれることを信じて、俺とアデルは山の中に入った。

 俺は、久しぶりに職業を勇者から変えた。

 魔法使いレベル5だ。アデルは僧侶がレベル12に達していたが、戦士レベル1に転職した。


「あたしは魔獣使いなんだけどね」


 街を出て山に入り、転職してからアデルがぼやいた。

 人がいないため、フードを外して真っ黒い顔をあらわにする。


「仕方ないだろう。戦士、魔法使い、僧侶、シーフが基礎職業らしい。そのうち、上級職とかで魔獣使いもあるんじゃないか?」

「そうかねぇ……転職の条件が他にもあるんじゃないか? まあ、いいさ。どっちみち、あたしの魔獣使いの力が衰えるわけじゃないだろうし」


 アデルは言いながら、拳を打ち鳴らした。俺の魔獣使いのイメージでは鞭を持って欲しかったが、アデルは拳で従わせる派らしい。


「魔獣使いなら、野良の魔獣を呼びよせることもできるのか?」

「羊飼いじゃないからね。従わせることはできても、従っていない奴を呼ぶのは別の特技だ」


 アデルは歯を見せた。笑ったらしい。口が耳元まで裂け、鋭い牙がずらりと並ぶので、笑った顔も迫力十分だ。


「でも、雪山だからなあ……冬眠しているかもしれないなぁ……狩人から昔ならった技で、呼べるかなあ」

「雪崩が起きるようなことはやめておくれよ」

「ああ……そうだな。忘れていた」

「忘れんなよ。雪崩からは、あたしは逃げられないし、沈んだら自力じゃ出てこられないからね。ちゃんと助けなよ」


 アデルは重い。雪崩に巻き込まれたら、きっと自重で沈んでしまう。


「わかった……どんな魔獣がいるかわからないし、地道に探すか」

「そうだねぇ」


 根気がいりそうだ。

 俺はそう思ったのだが、意外と裏切られた。ララの言葉が蘇る。

 どうやら俺は、トラブルメーカーらしい。






 前方から、毛深いガゼルのような獣が走ってきた。

 実に軽やかに、雪の地面を苦にせず、木々にぶつかることもなく斜面を駆け下りる。


「あれも魔獣か?」

「いや、動物だね。けど……妙だね。何かに追われているようだ。ああ……あれか。雪山の魔獣、スノウドドンゴだ」


 四つ足の獣が飛ぶように降りてくる背後から、木々をなぎ倒しながら鈍重そうな体をした巨体の魔獣が降りてくる。

 ワニを横に引き伸ばして毛を生やしたような外見は、ドラゴンの亜種かもしれない。


「倒せるか?」

「ちっとばかりかったるいね」

「やり過ごすか」

「ああ。あれが追っているのはあの動物だ。こっちには……」


 だが、巨大な魔物の前に、考えることは同じだったようだ。

 こちらに向かって飛ぶようにかけてくる動物は、俺たちの直前で真横に方向転換した。

 追ってくるスノウドドンゴは気づかない。進行方向にいた俺たちに向かって大きな口を開ける。


「どうやら……さっきの動物に売られたらしいな」

「信用できないのは、人間だけじゃないってこったね」


 転職するんじゃなかった。俺はそう思いながら、魔法を放った。


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