欲望 月斗目線
ど、どうしたら良いんだ~!
俺は酔って何をしてしまったんだ!
今朝の花さんは明らかに怒っていた。
エレベーターに乗った時、花さんの首筋に見えたキスマーク。
頭が真っ白になった。
その後、嫉妬心で体の中がドロドロとした黒いもので埋め尽くされた。
彼氏が出来たのか?
花さんに気安く触れる男が?
前が見えなくなるかと思った。
絶望ってやつだ。
だけど、話を聞いていくうちに花さんの首筋にキスマークを残したのは俺だって言うじゃないか!
夜中に花さんの家に行き、何故そうなったのかキスマークをつけてしまったららしい。
キスマークって………他に何したんだ!
キスマークつける事態。
エロい事をしてるに決まってんじゃんか!
思い出せ!
そんな美味しい……じゃない、嫌われてしまいそうな記憶がないなんて、勿体無い………じゃない恐ろしい………
俺の欲望どうにかしてくれ~!
俺がつけたキスマークだって解った瞬間の幸福感とかもう、救いようがないだろ!
俺は思わず頭を抱えた。
死んで詫びたい。
生きててごめんなさい。
花さん、本当にごめんなさい!
「月斗、お前昨日より状態悪化してんじゃねぇか!」
「………志村」
「告白したのか?」
社食の食堂で、頭を抱える俺に志村が容赦のない一言を浴びせた。
「したんだろうか?」
「なんだそりゃ?」
「一応、好きだとか嫁がどうとか言ったらしい」
「らしいってお前………」
「俺、酔ってたよな?」
「ああ、ベロベロだったな」
「死んでなくなりたい」
俺は頭を抱え直した。
「お前、何かしちゃった?」
「………俺は何をしちゃったんだ?」
「うわ~」
「消えて無くなりたい」
志村はひきつった笑いを浮かべて言った。
「二度と顔を見せるなって言われちゃった?」
「………言われてない、他所で飲むときは連絡しろって………」
「………何で?」
「酔って襲われて次の日、記憶がないなんてたまったもんじゃないから他所で飲んだら家のドアを開けないって」
「襲ってんじゃん!」
「死ぬ!死んで詫びる!」
「はやまるな!相手は酔ってなかったらまだ会ってくれるって言ってるって事だろ?」
「酔ってる俺はエロすぎて困るらしい」
「うわ~マジで!何したんだよ!」
「俺が知りたい!記憶がないなんて勿体無い!じゃない、申し訳ない!」
「なんか、色々駄々漏れてんぞ」
「滅んでしまいたい~」
俺はテーブルに突っ伏した。
「でも、連絡しろって事は連絡先教えてもらったんだろ?」
「ああ」
「じゃあ、メールで謝れ」
「だな!」
俺はスマホをとりだし花さんのアドレスを開き、少し感動する。
花さんの電話番号にアドレス、無料通信アプリのIDに生年月日まで入っている。
『昨晩は本当にごめんなさい!反省してます。もう酒は止めます!』
とりあえず、無料通信アプリからチャットメールを送ってみた。
『お酒止めるの止めて下さい。お酒止めたらもうツッキーさんと会う理由がなくなります』
すぐに返ってきた返信。
そうだ、俺と花さんはただの飲み友達だ。
酒が無くなれば会う理由がない。
それは困る。
花さんとずっと一緒に居たいんだ。
『お詫びをさせてください』
『じゃあ、お酒持参で今日は家に来てください飲みましょう』
良いのか?
酔って襲うかもしれない男と一緒に飲んで………
『俺をもっと警戒して下さい』
『聞き飽きました。昨日もずっと言ってましたよ!自分は危ない男だって』
ああ、本当に俺の記憶帰ってきてくれ~!
『すみません』
『お高いお酒を買ってきてくださいね!』
『勿論です。残業せずにマッハでうかがいます』
『楽しみにしてます』
………楽しみにしてくれるのか?
花さんは何処までお人好しなんだ。
花さんが俺の彼女なら何も問題ない。
けど違う。
花さんはまだ、俺の彼女じゃない。
………まだって何だよ!
その瞬間自覚した。
俺は花さんを逃がす気なんて無いんだ。
今日酒が入る前、素面で花さんに告白しよう。
嫌がられても、拒否られても何度でも言おう。
花さんが好きだって。
花さん以上に愛せる人なんて居ないって。
俺はスマホを見つめて呟いた。
「フラれたら慰めてくれ」
小さく呟いたわりに志村には聞こえていたみたいで、ニヤニヤされた。
「おう、頑張れ!骨は拾ってやる」
「頼んだ」
俺は午後の仕事を持ち前の集中力を発揮して素早く終わらせると、仕事中にもかかわらず花さんの好きそうな酒を検索した。
大丈夫だ!仕事は終わらせたし、他の奴らは俺が必死で仕事しているように見えている。
日頃のおこないが良いと得だ!
俺は花さんを落とすために用意周到に作戦をねるのだった。
そろそろ終るかな?




