断る理由
寒い寒いと思ったら。
その日、ツッキーさんが家に来なかった。
毎日のように来ていたのに。
どうしよう。
日付が変わってしまったのを確認してからため息をついた。
私が挙動不審になったから……
嫌われてしまったのかも知れない。
その時、呼び鈴が鳴った。
ドアを開けると、やっぱりツッキーさんだった。
「こんな時間にすみません」
「大丈夫ですよ」
「こんな時間にドアを開けたら駄目です」
「ごめんなさい。でも、ツッキーさんだし」
ツッキーさんは深いため息をついた。
「俺は、貴女を襲った前科があるんですよ」
「謝ってくれたじゃないですか」
「謝ってすむ話ではないです」
ツッキーさんは暫く私を見詰めると呟いた。
「俺は花さんが好きです」
「へ?」
少しムッとした顔をしてツッキーさんはもう一度言った。
「俺は花さんが好きです」
「あ、ありがとうございます」
ツッキーさんは更にムッとした顔をした。
「花さんは解ってないです」
「へ?だって、私もツッキーさん好きですよ」
「俺は、花さんを嫁に欲しいんです!…………あれ?………何か違う?」
あ、ああ!ツッキーさん、酔ってるんだ!
顔が少し赤い。
「責任をとるから嫁に?だったかな?」
ああ、酔っぱらいだ。
「兎に角!花さんは俺にもっと警戒心を持って下さい」
「はい」
「絶対です!」
「はい」
「………じゃないと、俺は花さんを抱き締めて二回もキスしちゃうんです!俺は、危ない男なんです」
?
あれ?あの日の事、思い出したのかな?
「今だって、花さん風呂あがりでいい匂いで………」
大丈夫、ノーブラではない。
「美味しそう」
へ?
私がポカンとしているうちにツッキーさんの顔が近づいてくる。
キスされる!
って思った時には唇が重なっていた。
やっぱり、ツッキーさんのキスからお酒の匂いが広がった。
「つ、ツッキーさん!」
「へへへ~」
酔ってしまいそうなキスが終ると、私はツッキーさんの体に手をついて遠ざけた。
「飲みすぎるの駄目だって言いました!」
「………はい」
「キスするのも駄目!」
「………それは無理です」
「なんで!」
「好きだから」
ツッキーさんはニッコリ笑った。
………
「花さんが好きです」
ツッキーさんはニコニコしながらそう言った。
色気の駄々漏れの酔っぱらいに進化しているツッキーさん。
酔っぱらいの言うことを真に受けて良いのか?
明日、記憶がなくなってて『そんなこと言ってません』なんて言われたら死ねる。
「花さんが好きです。抱き締めて良いですが?」
「駄目です!」
「どうして?」
「ど、どうして?それはツッキーさんが酔ってるからです!」
「………酔ってません」
「酔っぱらいほど、酔ってないって言うの!」
酔っぱらいのツッキーさんはヘニャっと笑った。
笑っただけなのに色っぽいのは何でだ!
「花さん」
ツッキーさんは私の肩を掴むと顔を近づけてくる。
咄嗟に顔を背けると、ツッキーさんは露になった首筋を甘噛みしてきた。
「つ、ツッキーさん」
しまいには強く吸われてチリッとした痛みが走った。
しかも、チュッと生々しいリップ音が耳に響いた。
「バンパイヤの方が良いんでしたよね?」
「な、何で?」
「花さんが無防備に、俺に首を差し出すからです」
言われてみればそうだけど!
差し出す形になっちゃっただけだし!
「花さんは何処もかしこも柔らかくて気持ち良いですね。もっと触って良いですか?」
「だ、駄目です!」
ツッキーさんは残念そうな顔をすると言った。
「じゃあ、キスして良いですか?」
な、何でそうなるんだ?
好きな人からキスしたいって言われて断る理由なんて、何があるんだ?
私がグルグル考えているうちにツッキーさんにキスされた。
腰を引き寄せられて長いキスをされている。
漸く離れたツッキーさんの顔は本当に色っぽくて顔に熱が集まる。
「花さん、可愛い。もっと触りたい」
私は慌ててツッキーさんを突き飛ばして家から追い出すと、やっと思い出した断る理由を叫んだ。
「付き合ってないのに、そんなことしたら駄目!」
私は急いでドアを閉めて鍵をかけてズルズルとドアを背にして座り込んだ。
ま、またキスしてしまった。
酔っぱらいのツッキーさんはドエロすぎて困る。
好きだから強く拒めなくて困る。
ああ、こんなことされたのに好き。
もう、私の頭どうなちゃってんの?
酔っぱらいのツッキーさんに振り回された私はまた眠れない夜を過ごしたのであった。
旦那様がインフルにかかりました!




